Episode 17 : I Kill Him



 時計をみながらサーシャはレーダー員に尋ねた。
「敵の速度と数は?」
「目標方位270、数は八十六機。時速四百キロです」
 画面を見つめながらレーダー員が答えてくる。サーシャは口元を歪めると小さく息を吸った。
「あと何分?」
「十分弱で敵機全機が基地上空へ」
 軽く舌うちしてから手近にあった無線機を取る。
「各チーム状況報告、レックス、スピン!」
 スコットとジャックがそれぞれ応答してくる。
『準備よし』
『準備よし!』
「管制官へ。戦闘機部隊から先に出撃させて。スコットのチーム基地前方30キロ地点で迎え打って」
 叫ぶように指令を出すとサーシャはレーダーを見つめた。
 大量の敵機が、巨大な影のように迫ってくる。
 緑の印がレーダーの一角を絵の具で塗りつぶした様に占めていた。
「命令は一つだけ。標的を見つけて、撃墜して」
 そう言い放つと無線機を置き、頭を抱える。
 今までで最も辛い戦いになりそうだった。

 
 LEONARD 017
 Dark Horse

 
 そのエリアにはいるや対空砲がこちらを狙ってきた。
『ここにはレーダーに映らないミサイルもあるから気をつけて』
 そのアザミの科白に無茶苦茶だ、と反論しようとしたがそんなことを言える立場でもない。平地での戦いに慣れているレオナルドはこういった場所での対空ミサイルをさけるのは辛いものがある。
 アザミと並んで前方から飛沫の様にまき散らされる対空砲の嵐を抜けていく。眼下の林からロックオンされ、放たれたミサイルをかわす。
『狙い撃ちされるわ。いったん離れる!』
 アザミが無線の向こう側から叫んでくる。再びバレルロール。一気にロックオンされていたミサイルをかわすと前方にあった対空ミサイル発射の機械をロックオン。
 操縦桿を引いてピッチアップ。高度を稼ぎながらその場所をさけていく。反対にアザミが円を描くように高度を下げていく。
「なにしてんだ!」
『ブラストミサイルを貫通させるわ。ランフォピッチアップ!』
 指示されるがままに操縦桿を引く。高度を稼ぐと前方から飛んできたミサイルをかわすためにブレイク。
 さらにエルロンロール。
 地上からミサイルが次から次へと飛んでくる。それもレーダーに映らないため非常に厄介だ。それを機体を流してかわし、高度を稼いでいく。
 と、次の瞬間。
 下で爆発が起きる。
 アザミの機体から放たれたミサイルが山岳地帯にあった洞窟内の敵の基地を貫通したのだ。山の向かい側にあった対空砲を巻き込んで爆発が山間部を覆う。
『いくよ。ランフォ。敵はまだ先だよ』
 その言葉に頷く。アザミの機体がこちらの隣へやってくる。
 そのとおり。戦いはこれからだ。
 山間部を抜けると大河がみえた。スコットランド・ローズ地区の終わりだ。
「終わりだ」
『終わってないでしょ。馬鹿ねえ』
 アザミが言ってくる。そのとおりだった。
「いってみただけだよ。抜けられた。ありがとう」
『あとは自分でなんとかしなさいな』
 そういうとアザミはピッチアップ。
「こないのか?」
『命令をうけてないもの。あれくらいフランクフィールドの精鋭さんたちならなんとかするでしょ。離脱するわ。それじゃあね。弱虫君』
 そういうと彼女は翼をすこし揺らしてみせてきた。そのままフランクフィールドとは真逆の方向に方角を変える。
 そちらになにがあるかレオナルドは知らない。
 ただわかるのは。


 シーナが最後に飛んでいった方向と同じということだけ。 


 ++++

 午前五時半。
 戦闘機は十機。 攻撃機は五機。格納庫からでてくると滑走路にいたアナキンが腕を振って誘導してくる。そして全機が滑走路に出終わると三本指を立ててきた。
 スコットは手を振って親指を立ててみせる。
 全機の準備が整うと、アナキンが指で二を示してきた。
 それが一になり、人差し指で滑走路を示された瞬間各機が一気に飛び出す。
 まずはスコットを含んだ五機。次にテッドを含んだ五機。
「一人十匹以上か。数に合わねえな」
 そんなことを呟いてみる。ピッチアップ。
 隣をみるとテッドの部隊が離陸したところだった。彼は戦闘機でも爆撃機でも操縦できるユーティリティパイロットなので頼りになる。
「ミクロラ、調子はどうだ?」
 テッドのタックネームで呼びかけるとすぐに返事が返ってきた。
『上々。十匹倒せばいいんだな? エバンテだって六匹とかだった気がするけど』
「そうすりゃ爆撃機の連中に迷惑かけなくて済むってわけだ」
 エバンテのことは流してスコットは高度をあげ、わずかに方角をかえた。後方の全機がそれについてくる。それにさらに最後尾を守る様にテッドの機体がつく。
「中央プライム、方角は合っているか?」
『進行方向は現状維持。前方20キロに敵機』
『撃墜してやろうぜ』
 テッドがどこか高揚した声で言ってくる。
 ダンスの始まりだ。
「全機解散! 自由行動だ! 十機撃墜して帰れ! 戻って基地を守るんだ!」
 スコットはそう叫ぶと各機から返事が返ってくる。ピッチアップ。
<敵機です。遭遇まで十秒>
「敵機の機影発見。ベクター090に設置」
『すげえ数だ』
 テッドが言ってくる。前方に黒い怪物が迫る様に敵機が固まっている。
<ミサイルロックオンされました>
 電子音声が伝えてくる。
 こちらの頭上にやってきた機体がそのミサイルをロックオンした。
『リーダー、ミサイル撃墜します。アルフィ戦闘に入ります!』
「了解。頼む」
 頭上にやってきた仲間に返事をすると、スコットはそのまま直進。敵機が次々と高度を下げ、こちらの機体と戦闘に入る。
 空を埋め尽くす無数の敵機。
 前方で爆発が起きる。仲間の放ったミサイルが敵のミサイルを撃墜したのだ。
 五機の敵機がこちらの周りを取り囲む。
 悪態をつきながらエルロンロール。そのまま抜け出すと前方にいた一機を捉える。
 機銃を放つ。右エンジンが動力を失うのが見えた。
 さらに前方に追われてる仲間を見つける。ハリウッドだ。
『レックス、助けてくれ! 追われてる』
「こっちの真っ正面だ! 撃墜する」
 ミサイルロックオン。レーダーが敵機を狙う。
 スロットルをあげる。ホーミング。
 いまだ。
 発射された空対空ミサイルが敵機の翼を爆破した。
 命中。
 だがまだいる。
 上空ではさらに数がいる。
「ジャミングか?」
『ジャミング?』
 小さく呟く。それにテッドが返してきた。
『この機影うそっぱちってことか?』
 ピッチアップ。垂直上昇。上に見えた爆撃機の腹めがけてミサイル発射。
 スコットはその瞬間目を細めた。
 なるほどな。
 絡繰りがわかれば怖くない。
「敵戦闘機は精鋭だらけだ。気をつけろ」
 と。
 レーダーに別の機体が映った。スコットの正面、距離は離れていない。
「本命登場かい」
 呟く。
 その機体をやり過ごす。後方から機銃で狙い撃つ。
「ひさしぶりだ、エバンテ」
 挨拶代わりとばかりにそういうとすれ違い様スコットはブレイク、相手の後ろを付けねらう。その機体に模様が描かれていたことを見逃さない。
 照準にとらえるとそのまま機銃を放つ。相手はバレルロールしながらそれを回避。
『速度がつきすぎてるぞ。レックス』
 一言だけ無線が来る。それはこちらに放った物だが、その場にいたパイロット全員に聞こえる物でもあった。
 フランクフィールドのパイロットたちがエバンテの存在を知る。
 その瞬間相手がコブラ。機種をあげたままスロットルダウン。
 スコットの機体をやり過ごすと一回転してクルピット。
 あっという間に立場が逆になった。
「畜生!」
 レックスが呟くと同時に相手が言ってくる。
『接近戦となると無茶は相変わらずだな』
 機銃が放たれる。急いでエルロンロール。かわしながら斜めに高度を落とす。
 と。
 エバンテの後ろに一機、新しい機体が現れる。正体不明機だ。距離を取って超音速で近づいてくる。
(新手かよ!)
 ロールしながら現れたそれはこちらではなくエバンテをロックオンしてきた。さらにこちらに通信で伝えてきた。
『レックス! かく乱フレア!』
 言われるがままにフレアを放つ。バレルロール。空中に霧散した炎の玉が機体の姿を眩ませる。それと同時に後ろにいた相手がエバンテにめがけてミサイルを放った。
 エバンテが垂直上昇のあとテールスライド。ミサイルをやり過ごす。そのミサイルがこちらの脇をかすめてゆく。
 苦情の一つでもいってやろうかとおもったがロックオンから外れたことを確認できたのでよしとする。そしてその声にスコットは半ば高揚しながら叫んだ。
「レオナルドか! 戻ってきたのかよ」
『ランフォって呼んでよ! 俺も戦うよ!』
『レオナルドだって?』
 テッドが言ってくる。
『サリーはどうしたんだよ!?』
『話は後! それより俺にやらせて!』
「何をだ?」
 既に次の機体を追っているスコットとテッドを尻目に、レオナルドは通信に向かって思い切り叫んできた。
『エバンテを撃墜するんだ!』
 それはパイロットたち全員、そしてエバンテと敵機全体に大きく伝わった。


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