Episode 20 : cry



 それは結局。

 
 

 LEONARD 020
 Dark Horse





 結局もどれたのは十機中九機だった。
 次々に着地していく仲間たちの傍で、レオナルドは右エンジンの破損でうまく下がれない。なんとか基地の滑走路に向かって速度をゆるめようとするがうまく効かない。
『ランフォ、大丈夫か?』
 隣を飛んでいるスコットが尋ねてくる。八機は着陸し、すでに格納庫に入ろうとしている。
 だが着陸できない。
「レックス」
『俺がついてる。安心しろ。ゆっくり高度をさげろ』
 基地まであとわずか。
 管制塔の脇をかすめる。
 一瞬だけ振り返ると黒煙がエンジンからあがっているのが見えた。
 滑走路が見える。
 揺れながらなんとか飛び続ける。
 下に降りていく。
『中央プライム、ランフォが操縦不能になってる。緊急着陸態勢を頼む』
『了解』
 残り二十。
 右から着陸。
 続いて左。
 サスペンションが折れたかとおもったが、問題はなかった。
 そのまましばらく滑走路を滑る様に走り、レオナルドの機体は止まった。

 しばらく機体を降りれなかった。
 マスクを外し、大きく息をつく。ポケットからアビーのドッグタグをとりだし、その表面を触ってみる。
 なんだか力をもらえるようで、それでいて切なさがわき上がってきて。
 キャノピィをあけて、ベルトを外す。はい出す様にコックピットから出ると、レオナルドはそのまま地面に降り立った。
「レオナルド!」
 スコットが駆け寄ってくる。
「やったなお前! ホールを倒したんだぜ!」
「うん......」
 浮かない顔をするレオナルドの周りに仲間たちが集まってくる。
 十機の敵機を撃墜するよりホールを倒すことのほうが難しいことはわかる。
 だが今のレオナルドはそれを素直に喜べないのだった。
 なぜか。
 そんなの決まっている。
 あれは。
「しっかしろよ。ほら」
 歓声をあげる仲間たちのなかでもみくちゃにされながらレオナルドはなんとか作り笑いを浮かべてみせた。
 だがその目から涙がこぼれる。
「どうした?」
 怪訝そうに尋ねてくる彼に対してレオナルドは震える声で答えた。
「スコット。俺、駄目だ」
「駄目じゃないぞ。これでお前もエースの仲間入りだぜ! 喜べよ!」
 こちらの頭を抱えてくるとスコットはこちらを引き寄せてくる。
「いこう。大佐に報告するんだ」
 そしてスコットに支えられながらレオナルドは事務棟に向かって歩いていった。
「泣くな。大佐にまたからかわれるぞ」
 頭をぐしゃぐしゃとなでられる。
 どうしようもない。
 理由はわからない。だが涙がとまらないのだった。

 大佐の部屋の前にやってくるとスコットはレオナルドを後ろに立たせてきた。自分が先に報告する、ということなのだろう。それから部屋の扉を叩く。
「開いてるわ」
 中からサーシャの声が聞こえてくる。
 入るといつも通り椅子に座った彼女が出迎えてきた。特に変わった様子もないとばかりに済ました表情でコンピュータの画面を眺めていた。
 報告は殆どスコットが行った。レオナルドはホールと戦っただけなのだから、今回の作戦にはそれほど関わっていない。それでもつれてきたのはサリーとの偵察任務、そしてホールとのことがあったからだろう。
 涙はもう止まっていた。目が赤くはれていたかもしれないが、それをサーシャに指摘されることはなかった。スコットが一通り報告を終えると、彼女はレオナルドに視線を移してきた。
「あの機体は、誰の機体?」
 スコットが隣からフォローはしてこない。そちらを一瞬だけみてからレオナルドは口を開いた。
「アビー・アンダーソン大尉の機体です。大尉はスコットランド・ローズ区で撃墜され......」
 ドクのフルネームを忘れたためそこで言葉をきった。
「現地の整備士に救われたそうですが、直後に死亡しました。彼のタグを」
「ハンドレット少尉の行方はわかる?」
「少尉は撃墜されました。スコットランド・ローズ区西の海上で、脱出装置は働きましたが脱出直後に銃殺されました」
「そう」
 サーシャはそれだけ頷いてくると、左手で書類をまとめた。その所為に一瞬違和感を感じたがなにも言わないでおく。
「なにはともあれおつかれさま。データは今後に役立てるわ。いまは、ゆっくり休んで」
 スコットが敬礼をするときびすを返して扉に向かって歩き出す。だがレオナルドはそこに立ったまま動かない。
「一つ、質問しても良いでしょうか?」
 尋ねる。ずっと思っていたことを。
「シーナは、死んだんですか?」
 そこで間。彼女はしばらく黙り込んだ。その目が一瞬悲しみを光らせたがすぐに引っ込む。それは軍人としてか、司令官としての精一杯の矜持だったろう。
 そして絞り出す様に答えてきた。
「ええ」
「その......どこで?」
 予想通りの答えにレオナルドは心が折れそうになるのを感じた。それはスコットも感じただろう。
「詳細を聞きたい?」
「はい」
 頷くと、サーシャは退室しかけたスコットに向かって手招いた。
「スコット、一緒に聞いて」
「はい」
 そこで再び一息つくと、サーシャは話し始めた。
「昨日シーナ・クリステンセン中尉は病院で亡くなったわ。死因は自殺。窓まで這っていって、そこから飛び降り。三階だったのだけれど、部屋に誰もいなくなった隙をみて身を投げたみたい。部屋に遺書があって......葬儀はここの基地で行えないかって」
「どうしてここで?」
「クリステンセン中尉のプライベートに関わることだから本当は機密なのだけど」
 そういってサーシャは言葉を切ってくると続けてきた。
「彼女、孤児院で育ったのね。だから身柄の受け取り人もいなくて。空軍が代わりに戦死扱いにして葬儀を行うわ」
 そういった軍人はたくさんいると聞いている。だがそれはいまは関係がない。
 レオナルドはうつむいた。だとすればあれはなんだったのだろう。
 ファンタズマ。
 亡霊。
 言葉がでてこない。
 その肩に手が置かれる。
「いこう。レオナルド」
 小さく頷く。スコットの言葉にもなにも返すことができない。
「失礼しました」
 部屋をでる。
 そこでレオナルドの頬を涙が一筋伝っていった。
 
 



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