それは宇宙空間を回っていた。
とある信号を受けると、ひらいた。
そしてある一点に狙いを定めると、威力を全開まで高めた。
++++
しばらくしてから、レックスが後ろから声をかけてきた。
「疫病神がくるぜ」
そうしないと、もっと大変な事になるのはわかっていた。この別荘を土地ごと抉るような光の重圧が上空から迫ってくるのがわかる。ここだけが滅ぶのか。それとも、滅ぶのはこの周辺一帯か。
座ったまま彼の遺体を床に寝かせると、
「うん。大丈夫」
右肺の傷も、身体の薬も、どうってことはない。ティックは大きく息をつくと立ち上がった。
「私がとめる」
「どうやってだ?」
レックスの問いにティックは答えない。ただ、動かなくなったジンの死体を見つめている。
その手はティックの手を握っていた。ティックも冷たいそれを握り返しながら、唇を噛んだ。
「まさか、お前......」
驚いたようにそういいかけたレックスの胸に、ティックの金色の頭が預けられた。こちらの血が相手の服に付着するが、どちらにしろ、お互いにぼろぼろの衣服に代わりはない。そして続けた。
「レックス。なにもいわないで。お願い」
「ああ。わかった」
それから彼の胸から頭を外すと、ティックはジンの遺体をそっと抱えた。もう動かない彼の身体はひどく傷ついていて、ずっしりした重さがあった。頬を軽く彼の遺体につける。それは変わらずどこか哀しげな冷たさを伝えている。
「連れてくのか?」
「うん。一人にはしないって約束したから」
レックスの言葉に頷き返すと、外に出る窓をあけた。空は青い。
庭園は広く、そこを抜けるそよ風が花壇の草花をゆらしていた。いつもなら心休まるときだろうが、今は哀しい空気しかない。
無駄に広い庭園を見下ろしながら、後ろにいる仲間に話しかけた。
「レックス」
「ああ」
こちらを見てくるレックスが微妙な表情を浮かべているのは、振り向かずともティックはすぐにわかった。今まで彼が自分の感情をみせてきたことはなかった。だが、今回は。
その悲しげな表情を正面から見返す勇気はティックにはなかった。
上をみる。光の塊が成層圏を突破して、ここに向かって落ちてくる。それは既に目視確認できるだけの位置に迫りつつ会った。
彼に背中を向けたまま、
「アルフィを、みんなを、よろしくね」
それだけを言うと、重力制御の力を解放、ティックは窓を蹴った。
最後の力、重力制御を解放すると空に向かって飛んでいく。それを見る人間は、どこにもいない。
そしてそこに、巨大な光の塊が押し寄せてきた。
それはティックの身体の中心にあるコアを破壊し、周りにあるものを吹き飛ばす熱衝撃波を発生させた。
++++
それは自分が破壊したものを認識していなかった。
そこにあるものに全力をぶつけることだけに集中していた。
そしてそこからさらに大きく破壊の電圧が自分の発したレーザーをたどって逆流してきたことに、殆ど気づかなかった。
ただ、破壊目的だったそれは自己防衛の手段をもつこともなく、それを受け入れた。
自分が受け入れたその異質な光が、自分を破壊する目的だったことを認識する事もできなかった。
間髪入れずに宇宙空間でその光は弾け飛ぶ。
無数の小さな光の玉となって、霧散した。
++++
音はなかった。
衝撃波と、光熱があたりに散乱した。
それはそこを中心に大きな円を描いていって、地面に激突した。
そこで初めて爆音が響く。街中の人々が建物から出てきて、それを見た。
身の危険を感じた人々がパニックになり、周囲の車が吹き飛び、人がなぎ倒され、ビルの窓が割れていく。
衝撃が海を襲い、巨大な波を側に向かって発生させた。
それが広がっていく。
シュルート別邸上空で起きた爆発は大きく地面と平行に広がり、そして空中で散った。
静かな水面に息を吹きかけたように上空で広がり、そして消えた。
++++
やがて。すべてが終わり。
レックスは別荘の庭園の中心に座り込んでいた。
もう、力がでなかった。なにをする気力も残りそうになかった。
空中で光とともに消えたティックとジン。残るその虚無をみやりながら大きく息をつく。
これからいろいろ始まるのだろう。それが予想できた。そしてもっと辛い事がこれから起こる事も。
ティックは最後まで自分であり続けた。それをレックスは心からうらやましいと思った。
「やれやれ......結局最後までお前はお前か。アルフィが聞いたらどう思うかな」
芝生に手をつきながら、煤だらけになった赤髪をいじる。
と、彼の足下に一個の金属が落ちてきた。芝生の上で軽くバウンドするとそれはレックスのブーツにあたって止まる。
拾い上げると、それはドッグタグだった。
首にかける金属の部分が焼き切れて、たまたま消滅を免れたらしかった。
ややねじ曲がったそのプレートの裏には、
『親愛なるミーティック・ライゼン軍曹
ここに中尉の地位を与える。
あなたの光が永遠につづくことを。
クラウド・ハートレッド』
それをみて小さくつぶやく。
「まだもってたんだ。あいつ......」
再び視線を空に戻した。そして敬礼のまねをしてみせる。
「あばよ。中尉」
そしてそのネックレスを軽く握りしめてから、懐にしまった。
その光はもう、見えることはなかった。
[To be continued----------]
とある信号を受けると、ひらいた。
そしてある一点に狙いを定めると、威力を全開まで高めた。
++++
しばらくしてから、レックスが後ろから声をかけてきた。
「疫病神がくるぜ」
そうしないと、もっと大変な事になるのはわかっていた。この別荘を土地ごと抉るような光の重圧が上空から迫ってくるのがわかる。ここだけが滅ぶのか。それとも、滅ぶのはこの周辺一帯か。
座ったまま彼の遺体を床に寝かせると、
「うん。大丈夫」
右肺の傷も、身体の薬も、どうってことはない。ティックは大きく息をつくと立ち上がった。
「私がとめる」
「どうやってだ?」
レックスの問いにティックは答えない。ただ、動かなくなったジンの死体を見つめている。
その手はティックの手を握っていた。ティックも冷たいそれを握り返しながら、唇を噛んだ。
「まさか、お前......」
驚いたようにそういいかけたレックスの胸に、ティックの金色の頭が預けられた。こちらの血が相手の服に付着するが、どちらにしろ、お互いにぼろぼろの衣服に代わりはない。そして続けた。
「レックス。なにもいわないで。お願い」
「ああ。わかった」
それから彼の胸から頭を外すと、ティックはジンの遺体をそっと抱えた。もう動かない彼の身体はひどく傷ついていて、ずっしりした重さがあった。頬を軽く彼の遺体につける。それは変わらずどこか哀しげな冷たさを伝えている。
「連れてくのか?」
「うん。一人にはしないって約束したから」
レックスの言葉に頷き返すと、外に出る窓をあけた。空は青い。
庭園は広く、そこを抜けるそよ風が花壇の草花をゆらしていた。いつもなら心休まるときだろうが、今は哀しい空気しかない。
無駄に広い庭園を見下ろしながら、後ろにいる仲間に話しかけた。
「レックス」
「ああ」
こちらを見てくるレックスが微妙な表情を浮かべているのは、振り向かずともティックはすぐにわかった。今まで彼が自分の感情をみせてきたことはなかった。だが、今回は。
その悲しげな表情を正面から見返す勇気はティックにはなかった。
上をみる。光の塊が成層圏を突破して、ここに向かって落ちてくる。それは既に目視確認できるだけの位置に迫りつつ会った。
彼に背中を向けたまま、
「アルフィを、みんなを、よろしくね」
それだけを言うと、重力制御の力を解放、ティックは窓を蹴った。
最後の力、重力制御を解放すると空に向かって飛んでいく。それを見る人間は、どこにもいない。
そしてそこに、巨大な光の塊が押し寄せてきた。
それはティックの身体の中心にあるコアを破壊し、周りにあるものを吹き飛ばす熱衝撃波を発生させた。
++++
それは自分が破壊したものを認識していなかった。
そこにあるものに全力をぶつけることだけに集中していた。
そしてそこからさらに大きく破壊の電圧が自分の発したレーザーをたどって逆流してきたことに、殆ど気づかなかった。
ただ、破壊目的だったそれは自己防衛の手段をもつこともなく、それを受け入れた。
自分が受け入れたその異質な光が、自分を破壊する目的だったことを認識する事もできなかった。
間髪入れずに宇宙空間でその光は弾け飛ぶ。
無数の小さな光の玉となって、霧散した。
++++
音はなかった。
衝撃波と、光熱があたりに散乱した。
それはそこを中心に大きな円を描いていって、地面に激突した。
そこで初めて爆音が響く。街中の人々が建物から出てきて、それを見た。
身の危険を感じた人々がパニックになり、周囲の車が吹き飛び、人がなぎ倒され、ビルの窓が割れていく。
衝撃が海を襲い、巨大な波を側に向かって発生させた。
それが広がっていく。
シュルート別邸上空で起きた爆発は大きく地面と平行に広がり、そして空中で散った。
静かな水面に息を吹きかけたように上空で広がり、そして消えた。
++++
やがて。すべてが終わり。
レックスは別荘の庭園の中心に座り込んでいた。
もう、力がでなかった。なにをする気力も残りそうになかった。
空中で光とともに消えたティックとジン。残るその虚無をみやりながら大きく息をつく。
これからいろいろ始まるのだろう。それが予想できた。そしてもっと辛い事がこれから起こる事も。
ティックは最後まで自分であり続けた。それをレックスは心からうらやましいと思った。
「やれやれ......結局最後までお前はお前か。アルフィが聞いたらどう思うかな」
芝生に手をつきながら、煤だらけになった赤髪をいじる。
と、彼の足下に一個の金属が落ちてきた。芝生の上で軽くバウンドするとそれはレックスのブーツにあたって止まる。
拾い上げると、それはドッグタグだった。
首にかける金属の部分が焼き切れて、たまたま消滅を免れたらしかった。
ややねじ曲がったそのプレートの裏には、
『親愛なるミーティック・ライゼン軍曹
ここに中尉の地位を与える。
あなたの光が永遠につづくことを。
クラウド・ハートレッド』
それをみて小さくつぶやく。
「まだもってたんだ。あいつ......」
再び視線を空に戻した。そして敬礼のまねをしてみせる。
「あばよ。中尉」
そしてそのネックレスを軽く握りしめてから、懐にしまった。
その光はもう、見えることはなかった。
[To be continued----------]


