「あいつらだけで、大丈夫?」
夜。屋敷の電気がすべて消灯されたころ。
シュルート私邸の前に立ったイヴは隣にいる仕事仲間--------ギューンの顔をみてそういった。
「大丈夫。どうせ相手は一人なんでしょ?」
そういって軽く笑ってみせてくる。イヴは息をつくと、
「そういうことじゃないよ。相手は人間じゃないんだよ」
「まあまあ。荒い事には慣れてる。大丈夫よ」
そういう彼女の言葉をきいて頭を振った。リコから借りた普通の人間を送り込んだが、どちらにしても並の人間では敵うはずもない。
と。
鈍い音がして何か大きなものが二つ、眼前に落ちてくる。
「やっぱりきたね。今日あたりくるんじゃないかって思ってたんだよね」
平坦な声と共に舞い降りてきたのは金髪碧眼の背の高い女------
「ファースト」
イヴが小さくつぶやく。ここでまさに決着をつけるとでもいうように。
ファースト------ティックはにやりと笑うと、イヴに近づいた。
イヴの隣からは、すでにギューンの姿は消え失せていた。ファーストの目に彼女が映らなかった事をイヴは願って、いつもの笑いを顔に貼付けた。
++++
すっかり寝入っているその少年の腕に注射を一本射つのはそれほど難しい作業というわけではなかった。これであとはイヴが持っている注射を射てばこの変異は完成する。
どちらにしても難しい作業じゃない、とギューンは思った。あの魔術師に見つかる前にあの場所を立ち去ることができてこの場合は幸運だった。暗闇に包まれた部屋に月の光がうっすらとはいり、ギューンの足下を照らす。
次はイヴがここに来る番だ。彼女に連絡を入れて、渡して------
渡して------
「やっぱりきたな。単体で攻めてくる訳はないと思ったぜ」
ファーストと同じ言葉が、すらりと空中を流れた。女の声じゃない。男の声だ。
目の前の少年は今の薬で当分は起きる事は無い。が。ここで男の声が聞こえるのはおかしい。
「俺たちをみくびってたな。ティックにはドジな仲間たちがいるんだぜ。忘れてたか?」
ギューンは答えない。空になった注射針をケースにいれ、再び懐にしまう。
後ろから聞こえてくる声に返事はしない。振り返るとそこには赤髪の男が壁に寄りかかるようにして立っていた。赤髪の男には見覚えがあった。
「レックス......セカンド。なんでこんなところにいるの」
「さあな。お前らがアルフィを脅したりしたからじゃねぇのか」
そういって彼は一歩踏み出す。黒い革の戦闘服についた金属製のバッジが小さな音をたてた。
ギューンが振り向くと、その顔に月光があたって二人ともお互いの顔が確認できるようになる。その次の瞬間レックスがこちらに肉薄し拳を繰り出した。
ギューンが両手でそれを受け止めるが、相手の力はそれを圧倒的に上回っていた。押し飛ばされると後ろにあるのは窓ガラスだ。それを縦に割るように外に飛び出した。
そのまま庭園に落下したギューンを追うようにレックスも飛び出してくる。つづけて振り下ろされたブーツのつま先を庭園を転がるようにして避け、さらにレックスがつづけて拳を繰り出してきたのを受け止める。
二人の間の空間がその一撃ではじけ、数メートルの間合いをとって対峙する。
つづけて襲ってきたのは直径一メートルほどの炎の渦だった。レックスの手のひらから繰り出されたそれは、命を与えられたように蠢き、周りの草花に燃え移る事無くギューンの体にだけ巻き付いていく。まるで音もなく迫ってくる赤い炎は圧巻の一言につきた。
(やばいっ......)
危機感を感じたギューンは力を解放し、自分の周囲にエリアをはった。次の瞬間。
火薬の無い空間の小規模爆発があたりに広がり、レックスの炎をはじき飛ばした。だがそれは庭の花をも吹き飛ばし、自分の周囲のみ焼け野が出現する。
炎を相殺することに成功したギューンは手のひらをにぎりしめて、大きく息をついた。冗談じゃない。
相手を睨みつけて大きく息をつく。どちらにしても勝ち目はない。
もし、ここで待っているのが彼じゃなくてファーストだったら勝利はあっただろうか。
だが、今はそんなことを考えてはいけない。
「なあ、結局誰に頼まれたんだ?」
レックスが不敵な笑みを浮かべながらこちらとの間合いをつめてくる。その手には小さな炎の固まりが空中のなにもないところでくゆらされている。いつでも放てるようにの準備だろう。
彼が進み出てきた分を後退し、ギューンは鼻を鳴らした。
「いくらなんでもいえるわけないでしょ」
強がった口調が相手にばれないことを祈る一方で、逃げ道を考えていた。ここでイヴの助けがはいれば一番楽なのに。
その言葉を言い終わるか否か、二人の後方で一瞬の閃光があたりを照らした。
++++
夜の私邸に、一瞬だけ朝が訪れたかのような光が飛び散った。
「そういえば、あんたときちんと闘うのはこれが初めてだね」
イヴはそういうと横に飛び去った。ラグビーボールほどの大きさの光弾がその脇をそれ、奥にある松の木を包み込んだ。
根元を焼き切られたその大木が奥に吹っ飛ぶのを横目に、ティックは後方に回ったイヴに向かって体を回転させながら後ろ蹴りを加える。が、イヴはそれを左手で軽くいなすとそのまま裏拳を叩き込んできた。
ティックはそのまま彼女の腕を掴むと体ごと担ぎ、屋敷の塀に向かって投げつけた。
そして再び追撃の光弾をイヴの体の中心めがけて放つ。が、それは彼女の腕によって跳ね返された。
「今日は闘う気満々だね」
からかうように言ってくるイヴにさらにティックは拳を繰り出す。が、それを受け止められる。
返事はしなかった。挑発にのったら負けだ。
「じゃあ、こっちも本気でいくよ」
イヴはそういうとティックののど元に思い切り拳をうちこんできた。逆の手で右の拳を掴まれていたためガードが間に合わず、その拳は思い切りのど元にのめりこむ。
逆流してきた血を吐きながら後ろに吹っ飛ぶティックをみながらイヴが耳に障る笑い声をあげた。口の中に残る赤い物を吐き出し、ティックは再び反撃にはいろうと膝をついた。
と。
重なるようにイヴの後方で巨大な爆発が起き、私邸の塀を破壊した。爆発で粉々に砕かれたコンクリートの固まりやら木片やらがティックのそばに降り注ぎ、あたりを一瞬赤く染めあげる。
そこから現れたのは顔に包帯を巻いた黒ジャケットの女だった。光が白い包帯を赤く染めているため、その顔が実際にどんな面相をしているのかまではわからない。
それに驚いたのはティックではなくイヴのほうだった。目を丸くしてそちらを振り返る。
「どうしたの」
「予定変更。今日は撤退するわ」
「どうして?」
「ファーストに仲間がいたみたい」
その包帯の女はそういうと、一歩踏み出した。こちらにその目が向けられると同時に、爆炎の向こう側から人影がとびだしてきた。黒い革の戦闘服をきた赤髪碧眼の若い男------
「レックス?」
喉に打撃をうけていた所為かまともな声がでなかったが、ティックはがらがら声でようやくその名前を口にだした。数週間前に最後に会った彼がなぜここにいる?
こちらの疑問など知って知らずかレックスはそのまま包帯の女の喉を掴むと、一番手前の木に叩き付けた。イヴもティックも反応できていないまま、それを見送った。
その奥にあるのは松林の深い闇だ。
こちらを見てくると、彼は捕まえた虫をどうしてやろうかとでもいうように、
「やあティック。こいつらどうする?」
「いたなら教えてよ......」
喉を抑えながら立ち上がると、ティックは一人じゃないという事実に安堵した笑みを浮かべた。彼がいてくれたということはジンを守ってくれたということだ。アルフィは場所が割れることをあらかじめわかっていたのだろうか。
その後方でイヴが悔しげに歯を鳴らしている。
「まったく......しかたないね」
そちらをみやりながらイヴがレックスとその手に首を握られている包帯の女のところに一歩近づいた。
牽制するようにティックが踏み出すと、イヴがにやりと笑みを浮かべた。そしてその包帯の女と視線をかわす。
そして。
ティックがレックスに飛びつくのと、イヴが山道のほうに走りだすのはほぼ同時だった。
その女からレックスを引きはがし、私邸の方向に身を投げ出す。
「なにすんだ!」
「やっちゃって!」
レックスとイヴの叫び声が同時にあがる------それとほぼ同タイミングで包帯女の腹のあたりから太く赤い光が放たれたように見えた。そして、その次の瞬間。
彼女を中心にオレンジ色の光のドームが私邸の小山の一角を覆った。それと同時に大きな爆発と衝撃が松林をなぎ倒し、私邸の塀を粉砕していく。爆炎が松林を飲み込んでいき、まるで太陽が地上に落下したような熱と光があたりに散乱した。
轟音があたりに響き、爆圧がレックスと、その体を抱えたティックを吹き飛ばす。
寸前でレックスがはなった炎の壁が相殺してくれていたらしく、私邸の庭園は一部をのぞいて無事のようだった。その無事な部分に、ティックとレックスは折り重なるように倒れ込んでいた。
半分黒こげになりながら体を起こすと、ティックは半壊した塀を見つめた。
それから後ろで倒れているレックスに向かって声をかける。
「ありがと。大丈夫?」
「ああ」
そういって返してくる彼をみて、それから窓ガラスが割れたジンの部屋をみた。彼が起きてなければいいけど。なにより、問題がなければよいけれど。
そう思いながらガラスを見つめるティックに声がかかった。
「まだ、おわってないぜ。まだ、俺たちにはやることがある」
「うん」
あの二人が、また来るのだろう。
そう思ってティックは再び地面に体を寝かせる。そこにレックスの声がかかった。
「休んでおけよ。あとで怪我の手当しとこうぜ」
「そうだね」
空には、満月が浮かんでいた。
それを見ながら、ティックは静かに目を閉じた。
夜。屋敷の電気がすべて消灯されたころ。
シュルート私邸の前に立ったイヴは隣にいる仕事仲間--------ギューンの顔をみてそういった。
「大丈夫。どうせ相手は一人なんでしょ?」
そういって軽く笑ってみせてくる。イヴは息をつくと、
「そういうことじゃないよ。相手は人間じゃないんだよ」
「まあまあ。荒い事には慣れてる。大丈夫よ」
そういう彼女の言葉をきいて頭を振った。リコから借りた普通の人間を送り込んだが、どちらにしても並の人間では敵うはずもない。
と。
鈍い音がして何か大きなものが二つ、眼前に落ちてくる。
「やっぱりきたね。今日あたりくるんじゃないかって思ってたんだよね」
平坦な声と共に舞い降りてきたのは金髪碧眼の背の高い女------
「ファースト」
イヴが小さくつぶやく。ここでまさに決着をつけるとでもいうように。
ファースト------ティックはにやりと笑うと、イヴに近づいた。
イヴの隣からは、すでにギューンの姿は消え失せていた。ファーストの目に彼女が映らなかった事をイヴは願って、いつもの笑いを顔に貼付けた。
++++
すっかり寝入っているその少年の腕に注射を一本射つのはそれほど難しい作業というわけではなかった。これであとはイヴが持っている注射を射てばこの変異は完成する。
どちらにしても難しい作業じゃない、とギューンは思った。あの魔術師に見つかる前にあの場所を立ち去ることができてこの場合は幸運だった。暗闇に包まれた部屋に月の光がうっすらとはいり、ギューンの足下を照らす。
次はイヴがここに来る番だ。彼女に連絡を入れて、渡して------
渡して------
「やっぱりきたな。単体で攻めてくる訳はないと思ったぜ」
ファーストと同じ言葉が、すらりと空中を流れた。女の声じゃない。男の声だ。
目の前の少年は今の薬で当分は起きる事は無い。が。ここで男の声が聞こえるのはおかしい。
「俺たちをみくびってたな。ティックにはドジな仲間たちがいるんだぜ。忘れてたか?」
ギューンは答えない。空になった注射針をケースにいれ、再び懐にしまう。
後ろから聞こえてくる声に返事はしない。振り返るとそこには赤髪の男が壁に寄りかかるようにして立っていた。赤髪の男には見覚えがあった。
「レックス......セカンド。なんでこんなところにいるの」
「さあな。お前らがアルフィを脅したりしたからじゃねぇのか」
そういって彼は一歩踏み出す。黒い革の戦闘服についた金属製のバッジが小さな音をたてた。
ギューンが振り向くと、その顔に月光があたって二人ともお互いの顔が確認できるようになる。その次の瞬間レックスがこちらに肉薄し拳を繰り出した。
ギューンが両手でそれを受け止めるが、相手の力はそれを圧倒的に上回っていた。押し飛ばされると後ろにあるのは窓ガラスだ。それを縦に割るように外に飛び出した。
そのまま庭園に落下したギューンを追うようにレックスも飛び出してくる。つづけて振り下ろされたブーツのつま先を庭園を転がるようにして避け、さらにレックスがつづけて拳を繰り出してきたのを受け止める。
二人の間の空間がその一撃ではじけ、数メートルの間合いをとって対峙する。
つづけて襲ってきたのは直径一メートルほどの炎の渦だった。レックスの手のひらから繰り出されたそれは、命を与えられたように蠢き、周りの草花に燃え移る事無くギューンの体にだけ巻き付いていく。まるで音もなく迫ってくる赤い炎は圧巻の一言につきた。
(やばいっ......)
危機感を感じたギューンは力を解放し、自分の周囲にエリアをはった。次の瞬間。
火薬の無い空間の小規模爆発があたりに広がり、レックスの炎をはじき飛ばした。だがそれは庭の花をも吹き飛ばし、自分の周囲のみ焼け野が出現する。
炎を相殺することに成功したギューンは手のひらをにぎりしめて、大きく息をついた。冗談じゃない。
相手を睨みつけて大きく息をつく。どちらにしても勝ち目はない。
もし、ここで待っているのが彼じゃなくてファーストだったら勝利はあっただろうか。
だが、今はそんなことを考えてはいけない。
「なあ、結局誰に頼まれたんだ?」
レックスが不敵な笑みを浮かべながらこちらとの間合いをつめてくる。その手には小さな炎の固まりが空中のなにもないところでくゆらされている。いつでも放てるようにの準備だろう。
彼が進み出てきた分を後退し、ギューンは鼻を鳴らした。
「いくらなんでもいえるわけないでしょ」
強がった口調が相手にばれないことを祈る一方で、逃げ道を考えていた。ここでイヴの助けがはいれば一番楽なのに。
その言葉を言い終わるか否か、二人の後方で一瞬の閃光があたりを照らした。
++++
夜の私邸に、一瞬だけ朝が訪れたかのような光が飛び散った。
「そういえば、あんたときちんと闘うのはこれが初めてだね」
イヴはそういうと横に飛び去った。ラグビーボールほどの大きさの光弾がその脇をそれ、奥にある松の木を包み込んだ。
根元を焼き切られたその大木が奥に吹っ飛ぶのを横目に、ティックは後方に回ったイヴに向かって体を回転させながら後ろ蹴りを加える。が、イヴはそれを左手で軽くいなすとそのまま裏拳を叩き込んできた。
ティックはそのまま彼女の腕を掴むと体ごと担ぎ、屋敷の塀に向かって投げつけた。
そして再び追撃の光弾をイヴの体の中心めがけて放つ。が、それは彼女の腕によって跳ね返された。
「今日は闘う気満々だね」
からかうように言ってくるイヴにさらにティックは拳を繰り出す。が、それを受け止められる。
返事はしなかった。挑発にのったら負けだ。
「じゃあ、こっちも本気でいくよ」
イヴはそういうとティックののど元に思い切り拳をうちこんできた。逆の手で右の拳を掴まれていたためガードが間に合わず、その拳は思い切りのど元にのめりこむ。
逆流してきた血を吐きながら後ろに吹っ飛ぶティックをみながらイヴが耳に障る笑い声をあげた。口の中に残る赤い物を吐き出し、ティックは再び反撃にはいろうと膝をついた。
と。
重なるようにイヴの後方で巨大な爆発が起き、私邸の塀を破壊した。爆発で粉々に砕かれたコンクリートの固まりやら木片やらがティックのそばに降り注ぎ、あたりを一瞬赤く染めあげる。
そこから現れたのは顔に包帯を巻いた黒ジャケットの女だった。光が白い包帯を赤く染めているため、その顔が実際にどんな面相をしているのかまではわからない。
それに驚いたのはティックではなくイヴのほうだった。目を丸くしてそちらを振り返る。
「どうしたの」
「予定変更。今日は撤退するわ」
「どうして?」
「ファーストに仲間がいたみたい」
その包帯の女はそういうと、一歩踏み出した。こちらにその目が向けられると同時に、爆炎の向こう側から人影がとびだしてきた。黒い革の戦闘服をきた赤髪碧眼の若い男------
「レックス?」
喉に打撃をうけていた所為かまともな声がでなかったが、ティックはがらがら声でようやくその名前を口にだした。数週間前に最後に会った彼がなぜここにいる?
こちらの疑問など知って知らずかレックスはそのまま包帯の女の喉を掴むと、一番手前の木に叩き付けた。イヴもティックも反応できていないまま、それを見送った。
その奥にあるのは松林の深い闇だ。
こちらを見てくると、彼は捕まえた虫をどうしてやろうかとでもいうように、
「やあティック。こいつらどうする?」
「いたなら教えてよ......」
喉を抑えながら立ち上がると、ティックは一人じゃないという事実に安堵した笑みを浮かべた。彼がいてくれたということはジンを守ってくれたということだ。アルフィは場所が割れることをあらかじめわかっていたのだろうか。
その後方でイヴが悔しげに歯を鳴らしている。
「まったく......しかたないね」
そちらをみやりながらイヴがレックスとその手に首を握られている包帯の女のところに一歩近づいた。
牽制するようにティックが踏み出すと、イヴがにやりと笑みを浮かべた。そしてその包帯の女と視線をかわす。
そして。
ティックがレックスに飛びつくのと、イヴが山道のほうに走りだすのはほぼ同時だった。
その女からレックスを引きはがし、私邸の方向に身を投げ出す。
「なにすんだ!」
「やっちゃって!」
レックスとイヴの叫び声が同時にあがる------それとほぼ同タイミングで包帯女の腹のあたりから太く赤い光が放たれたように見えた。そして、その次の瞬間。
彼女を中心にオレンジ色の光のドームが私邸の小山の一角を覆った。それと同時に大きな爆発と衝撃が松林をなぎ倒し、私邸の塀を粉砕していく。爆炎が松林を飲み込んでいき、まるで太陽が地上に落下したような熱と光があたりに散乱した。
轟音があたりに響き、爆圧がレックスと、その体を抱えたティックを吹き飛ばす。
寸前でレックスがはなった炎の壁が相殺してくれていたらしく、私邸の庭園は一部をのぞいて無事のようだった。その無事な部分に、ティックとレックスは折り重なるように倒れ込んでいた。
半分黒こげになりながら体を起こすと、ティックは半壊した塀を見つめた。
それから後ろで倒れているレックスに向かって声をかける。
「ありがと。大丈夫?」
「ああ」
そういって返してくる彼をみて、それから窓ガラスが割れたジンの部屋をみた。彼が起きてなければいいけど。なにより、問題がなければよいけれど。
そう思いながらガラスを見つめるティックに声がかかった。
「まだ、おわってないぜ。まだ、俺たちにはやることがある」
「うん」
あの二人が、また来るのだろう。
そう思ってティックは再び地面に体を寝かせる。そこにレックスの声がかかった。
「休んでおけよ。あとで怪我の手当しとこうぜ」
「そうだね」
空には、満月が浮かんでいた。
それを見ながら、ティックは静かに目を閉じた。


