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    <title>バックノウザーの魔術師たち</title>
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    <updated>2009-07-22T08:12:44Z</updated>
    
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    <title>レイアウトすこし変更。</title>
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    <published>2009-07-22T08:10:15Z</published>
    <updated>2009-07-22T08:12:44Z</updated>

    <summary>レイアウト変更。見やすくしました。...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        レイアウト変更。見やすくしました。
        
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    <title>あとがき</title>
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    <published>2007-09-14T06:14:31Z</published>
    <updated>2009-07-19T16:03:34Z</updated>

    <summary>　こんにちは。綾瀬です。　シーズン1、いかがだったでしょうか。　いろいろ足りない...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <category term="Season 1" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/backnowzer/">
        <![CDATA[　こんにちは。綾瀬です。<br />　シーズン1、いかがだったでしょうか。<br />　いろいろ足りないところはあったと思いますが、楽しんでいただけましたでしょうか。<br />　面白いと少しの方にでも思っていただければ嬉しいです。<br />　あと、もし面白いと思ったらぜひ<a href="http://m-records.co.uk/from/form1.html" target="blank">メールフォーム</a>から、なにかメッセージをもらえると喜びます。<br /><br />　この話の第一話、ミーティックが川辺で横になっているシーンを思いついたのが僕が高校生の冬でした。やべーなあ。何年前ですか。<br />　正統派ファンタジーでもSFでもなく、ジャンル的にはどこに組み合わせたらいいのか非常に困るこのお話ですが、でき具合としては結構行けたと思ってます。反省点もないわけではないですが、WEB小説としてはなかなか上出来かなと。<br /><br />　この話には以前、挿絵がついてました。<br />　しろさんという方が描いてくださっていたのですが、しろさんはプロのイラストレーターになられてしまい、今は忙しい日々を送られているそうです。この場を借りて、応援の言葉をお贈りしたいと思います。あとぜひ機会があればしろさんの画集も見てみてください。非常にかわいらしい絵を描くイラストレーターさんです。<br /><a href="http://www.amazon.co.jp/%E3%81%97%E3%82%8D%E7%94%BB%E9%9B%86-Segment-%E3%81%97%E3%82%8D/dp/4797344776/ref=sr_1_1/249-4085192-5442768?ie=UTF8&amp;s=books&amp;qid=1193158716&amp;sr=1-1" target="blank">しろ画集-Segment<br /></a><br />　それでは、次回「Number of Magic」シーズン2に入ります。<br />　次回は目つきと口の悪い赤毛の魔術師が主人公です。<br /><br />　シーズン2のあとがきでお会いしましょ。ではでは。<br /><br /><br />BGM "City Of Blinding Lights" by U2]]>
        
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    <title>13</title>
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    <published>2007-09-13T06:12:12Z</published>
    <updated>2009-12-13T23:49:02Z</updated>

    <summary>　それは宇宙空間を回っていた。　とある信号を受けると、ひらいた。　そしてある一点...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <category term="Season 1" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/backnowzer/">
        <![CDATA[　それは宇宙空間を回っていた。<br />　とある信号を受けると、ひらいた。<br />　そしてある一点に狙いを定めると、威力を全開まで高めた。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　しばらくしてから、レックスが後ろから声をかけてきた。<br />「疫病神がくるぜ」<br />　そうしないと、もっと大変な事になるのはわかっていた。この別荘を土地ごと抉るような光の重圧が上空から迫ってくるのがわかる。ここだけが滅ぶのか。それとも、滅ぶのはこの周辺一帯か。<br />　座ったまま彼の遺体を床に寝かせると、<br />「うん。大丈夫」<br />　右肺の傷も、身体の薬も、どうってことはない。ティックは大きく息をつくと立ち上がった。<br />「私がとめる」<br />「どうやってだ？」<br />　レックスの問いにティックは答えない。ただ、動かなくなったジンの死体を見つめている。<br />　その手はティックの手を握っていた。ティックも冷たいそれを握り返しながら、唇を噛んだ。<br />「まさか、お前......」<br />　驚いたようにそういいかけたレックスの胸に、ティックの金色の頭が預けられた。こちらの血が相手の服に付着するが、どちらにしろ、お互いにぼろぼろの衣服に代わりはない。そして続けた。<br />「レックス。なにもいわないで。お願い」<br />「ああ。わかった」<br />　それから彼の胸から頭を外すと、ティックはジンの遺体をそっと抱えた。もう動かない彼の身体はひどく傷ついていて、ずっしりした重さがあった。頬を軽く彼の遺体につける。それは変わらずどこか哀しげな冷たさを伝えている。<br />「連れてくのか？」<br />「うん。一人にはしないって約束したから」<br />　レックスの言葉に頷き返すと、外に出る窓をあけた。空は青い。<br />　庭園は広く、そこを抜けるそよ風が花壇の草花をゆらしていた。いつもなら心休まるときだろうが、今は哀しい空気しかない。<br />　無駄に広い庭園を見下ろしながら、後ろにいる仲間に話しかけた。<br />「レックス」<br />「ああ」<br />　こちらを見てくるレックスが微妙な表情を浮かべているのは、振り向かずともティックはすぐにわかった。今まで彼が自分の感情をみせてきたことはなかった。だが、今回は。<br />　その悲しげな表情を正面から見返す勇気はティックにはなかった。<br />　上をみる。光の塊が成層圏を突破して、ここに向かって落ちてくる。それは既に目視確認できるだけの位置に迫りつつ会った。<br />　彼に背中を向けたまま、<br />「アルフィを、みんなを、よろしくね」<br />　それだけを言うと、重力制御の力を解放、ティックは窓を蹴った。<br />　最後の力、重力制御を解放すると空に向かって飛んでいく。それを見る人間は、どこにもいない。<br />　そしてそこに、巨大な光の塊が押し寄せてきた。<br /><br />　それはティックの身体の中心にあるコアを破壊し、周りにあるものを吹き飛ばす熱衝撃波を発生させた。<br /><br />　＋＋＋＋<br />　<br />　それは自分が破壊したものを認識していなかった。<br />　そこにあるものに全力をぶつけることだけに集中していた。<br />　そしてそこからさらに大きく破壊の電圧が自分の発したレーザーをたどって逆流してきたことに、殆ど気づかなかった。<br />　ただ、破壊目的だったそれは自己防衛の手段をもつこともなく、それを受け入れた。<br />　自分が受け入れたその異質な光が、自分を破壊する目的だったことを認識する事もできなかった。<br />　間髪入れずに宇宙空間でその光は弾け飛ぶ。<br />　無数の小さな光の玉となって、霧散した。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　音はなかった。<br />　衝撃波と、光熱があたりに散乱した。<br />　それはそこを中心に大きな円を描いていって、地面に激突した。<br />　そこで初めて爆音が響く。街中の人々が建物から出てきて、それを見た。<br />　身の危険を感じた人々がパニックになり、周囲の車が吹き飛び、人がなぎ倒され、ビルの窓が割れていく。<br /><br />　衝撃が海を襲い、巨大な波を側に向かって発生させた。<br />　それが広がっていく。<br /><br />　シュルート別邸上空で起きた爆発は大きく地面と平行に広がり、そして空中で散った。<br />　静かな水面に息を吹きかけたように上空で広がり、そして消えた。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　やがて。すべてが終わり。<br />　レックスは別荘の庭園の中心に座り込んでいた。<br />　もう、力がでなかった。なにをする気力も残りそうになかった。<br />　空中で光とともに消えたティックとジン。残るその虚無をみやりながら大きく息をつく。<br />　これからいろいろ始まるのだろう。それが予想できた。そしてもっと辛い事がこれから起こる事も。<br />　ティックは最後まで自分であり続けた。それをレックスは心からうらやましいと思った。<br />「やれやれ......結局最後までお前はお前か。アルフィが聞いたらどう思うかな」<br />　芝生に手をつきながら、煤だらけになった赤髪をいじる。<br />　と、彼の足下に一個の金属が落ちてきた。芝生の上で軽くバウンドするとそれはレックスのブーツにあたって止まる。<br />　拾い上げると、それはドッグタグだった。<br />　首にかける金属の部分が焼き切れて、たまたま消滅を免れたらしかった。<br />　ややねじ曲がったそのプレートの裏には、<br /><br />『親愛なるミーティック・ライゼン軍曹<br />　　　　　　ここに中尉の地位を与える。<br />　　　　　　　　あなたの光が永遠につづくことを。<br />　　　　　　　　　　　　　　　　　　　クラウド・ハートレッド』<br /><br />　それをみて小さくつぶやく。<br />「まだもってたんだ。あいつ......」<br />　再び視線を空に戻した。そして敬礼のまねをしてみせる。<br />「あばよ。中尉」<br />　そしてそのネックレスを軽く握りしめてから、懐にしまった。<br /><br />　その光はもう、見えることはなかった。<br /><br />　<br />[To be continued----------]]]>
        
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    <title>12</title>
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    <published>2007-09-12T06:10:55Z</published>
    <updated>2009-07-20T00:03:14Z</updated>

    <summary>「ティック！　ティック！」　その声が遠くから聞こえてくる。　意識を元に戻すまで、...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <category term="Season 1" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/backnowzer/">
        <![CDATA[「ティック！　ティック！」<br />　その声が遠くから聞こえてくる。<br />　意識を元に戻すまで、しばらくかかった。<br />「う......」<br />　靄がかかった視界の先に、赤い瞳と髪の毛が見える。<br />「ああ......レックス......」<br />「しっかりするんだ。ほら」<br />　こちらの頭が元に戻るまで、しばらく時間があったような気がする。彼がこちらを抱き上げているのはわかるが、いまの自分の状態をうまく把握できない。自分の身体を認識できない辛さというのは、初めてだった。<br />　まだ、死んではいない。<br />　自分は、ここにいる。<br /><br />「大丈夫か？」<br />「い、イヴは......」<br />　レックスからドアのほうに視線を映し、そこを見つめながらやっとの思いで口を開く。<br />「マいたよ。ちょっと手間取ったけどな」<br />「レックスは......大丈夫？　ジンは......？」<br />　そしてレックスに視線をやる。よく見ると彼の衣服は破け、あちこちが薄汚れている。<br />「俺なら大丈夫だ。ジンも奪い返した。リビングに寝かせているよ。たてるか？」<br />　レックスに引っ張られるようにティックも立ち上がり、彼の肩に手をついた。額の第三の目がまだ開いていることを確認すると、その力を足先まで広げた。しばらくしたら身体の自由がもどることを確認し、息をつく。<br />　と。<br />　家中に響くような苦鳴が聞こえてくる。悲鳴とは異質な響きをもった、苦しんでいる動物が出すような大きな叫びだった。<br />「......ジン？」<br />「何だ？」<br />　二人は同時にそうつぶやいた。そして、リビングに駆け足で急いだ。<br />　そこにはソファから転げ落ちたジンが、胸を抑えてのたうち回っていた。<br />「ジン！」<br />　ティックが悲鳴のような声をあげて近寄った。身体が元に戻りつつあったが、それを驚く余裕は自分にはなかった。急いで彼を抱き上げる。彼の手がこちらの二の腕をつかんでくるのを感じた。<br />「しっかり。大丈夫？」<br />「......て、ティック......駄目......こないで......」<br />「私は大丈夫。ロドリゴになにかされなかったの？」<br />　そういっている間にこちらの腕をつかむジンの手に力がこもっていく。<br />「なんか、変な注射をうたれたよ......こいつは失敗しないって。僕は......」<br />　そこまで話すと、突然ジンの腕が灰色の装甲のようなものに包まれ始めた。それはティックの腕をつかんだ手の指の先までを覆うと、一気に異様な力を込めてくる。<br />　......ウイルス？<br />　ティックが思考を巡らせている間に、続けて彼の腕があがり、骨格がきしむ音とともに指が三十センチの刃物に変わった。さらにそれが大きく振りかぶるとティックの胸に叩き付けられる。<br />「まずい」<br />　レックスが後ろでつぶやくのが聞こえた。と同時にティックの右肺の部分を貫くようにその腕は突き刺さった。毛細血管と気泡が絡まってティックの背中から突き出す。<br />　激痛と同時に意識が再び飛びそうになる。が、ティックはそこでなんとか持ちこたえた。口を開き、何か言おうとするが、彼の目はすでに獣のそれに変わっていた。<br />　そこで確信する。もう言葉は通用しないことを。<br />　背中に空いた穴からすべての感情が流れていくような感覚に襲われる。そして自分の命も。<br />　たん、という地面が蹴る音とともにレックスがティックの脇をすり抜けた。そしてティックの中に腕をのめり込ませたままのかつてジンだった生き物に拳を加えた。<br />　その顔面をつぶすような勢いで加えられた衝撃が彼をふきとばす。つづけてその勢いはそのままティックの胸からその生き物の腕が抜け、傷口から大量の血が吹き出した。<br />　床を転がっていく彼を見つめ、それからティックはぽっかり穴があいた右胸を抑えた。身体の大きな穴と同時に心にも穴が空いたようだった。いろいろなものが修復不可能な穴をうちぬいて、ぼろぼろと崩れていくような感覚だった。<br />　千切れた血管が穴からだらりと垂れ下がり気道を血液が逆流する。口の中にたまったそれを吐き出すとティックは膝をついた。力が入らない。<br />　フローリングの床がどす黒い血液に染まっていくのを見ながら、自分の命を冷静に考えた。冷静に考えるだけの思考能力が残っていることに感謝した。<br />　おそらくもう長くない。<br />　と。<br />　顔を上げると、眼前ではレックスが懐から拳銃を取り出していた。どうやらその生き物の頭を打ち抜くつもりらしい。<br />　ティックの目の前でかちり、と撃鉄があげられる音が響く。<br />　まさに引き金がしぼられそうになった次の瞬間、そこでティックは彼の腕を掴んで引き寄せた。<br />「なんだ？」<br />「彼は化け物じゃない」<br />　レックスの動きをとめて、そのままその化け物--------ジンに歩み寄る。<br />　それは目の光を取り戻そうとしていた。<br /><br />　（側には私がいるよ）<br />　（うん。ありがとう------）<br /><br />　それはもう化け物ではない、ジン・シュルートだった。<br />　赤く光っていた瞳は元の輝きを戻そうとしていた。<br />「......う......ティック」<br />「ジン。大丈夫？」<br />　優しく声をかける。乱れたジンの髪を直しながらその頭を撫でつける。<br />「ごめんね。レックスがきてくれたよ。アルフィのところにつれてってくれるって。君のことを治療できるんだって。だから......」<br />「......あたたかいね。ティックは」<br />　ジンはそういうと、ティックの手を握った。言葉にならない言葉を紡ごうとしているティックの頬に、無事な方の手で触れる。<br />「......泣かないでよ。僕は......幸せだったから。この、数週間があったから......生きててよかったって......思えたから......」<br />　そういわれてティックは自分の目から、血じゃないなにかがつたっていることに初めて気がついた。<br />　だが、それを自分でぬぐえなかった。目が見えなくなるくらい瞳にたまったそれが彼の顔を濡らしていることにも気づいていた。<br />「ホントに？　ごめんね。すぐに。すぐに助けてあげれるから。だから......」<br />「......ん......ありがとう......ティック......大......好き......だ......よ......」<br />　途切れ途切れの言葉でそこまでいうと、ジンの力は抜けていった。<br />　最後、胸が小さくなり、再び膨らむことはなかった。<br /><br />　彼はもういない。<br /><br />]]>
        
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    <title>11</title>
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    <published>2007-09-11T06:03:07Z</published>
    <updated>2009-07-20T00:01:11Z</updated>

    <summary>「廊下に誰かいるよ」　イヴがそういうと同時に、ロドリゴがこちらを振り向いた。薄く...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/backnowzer/">
        <![CDATA[「廊下に誰かいるよ」<br />　イヴがそういうと同時に、ロドリゴがこちらを振り向いた。薄く開いた扉の間にある深緑の瞳に彼らが気づいたかどうかはともかく、ティックはこれ以上隠れている意味はないと腹をくくった。<br />　扉を蹴り開くと、中にいる二人をにらんだ。<br />「なにやってるんだよ」<br />　今まで生きてきて最も怒気にあふれた声だろう、とティックは思った。自分の声を観察する別の自分が冷静に今をみつめていた。<br />「見ての通りさ」<br />　その声に答えたのはロドリゴだ。まるで紅茶に砂糖をいれたとでもいうような平坦な口調で答えると、彼はこちらから距離を置くようにイヴのそばに並んだ。<br />　いまから進んで彼の手元の薬を奪うのは簡単なことではないだろう。イヴがおそらく許さない。<br />「実験？」<br />　だが、できないですまないこともある。<br />　その言葉を簡単に聞き返した後二人との間合いをつめる。ロドリゴはすぐに押さえ込めるだろうが、イヴは厄介な相手だ。ここでどうにかなるとおもわないほうがよいだろう。<br />「話すことはないよ。ファースト。それより、あたしたちを黙って見逃してくれない？」<br />　軽い口調でいっくるイヴを睨みつけた。ティックの手元で力がはじけ、一メートル弱ほどの長さの緑色の光の剣が発生した。それを手の中におさめながら目の前の二人を見やる。<br />「黙って帰すわけないじゃない。解毒剤とかおいていってくれるなら別だけど。自分の子供を実験台に使うなんて人のすることじゃないだろう」<br />「ん、どうだろうね」<br />　その言葉をきいてイヴが軽く肩をゆらした。軽く嗤うと大きく息をついた。<br />　あざ笑うような笑みを浮かべながら彼女が口を開く。出てきた言葉こちらに対してではなく、ロドリゴに向けられていた。<br />「だってさ。ドクター・シュルート。どうしよっか」<br />　彼がなにか言おうと口を開いた瞬間、この場にいる三人のうち、誰の物でもない声が流れた。<br />　対決するガンマンの間を流れる一陣の風のように。<br />「ロドリゴは、僕の父さんじゃないよ」<br />　ティックは後ろを振り返り、彼をみた。<br />　ジン。<br />「なんで」<br />　ここにいるの、と言おうとしてそれはジンに対してではなく目の前の二人に対して言う言葉だと気づいた。どちらにしても、ここに彼がいるのは危険だ。<br />　すぐに離さないと。<br />　離して------<br />　だが、そこで敵から視線を外したのがティックにとって命取りになった。<br />「僕は」<br />　ジンがなにかを言いかけると同時にイヴの手が動いた。ダーツを投げるように注射器を取り出しジンに向けて放ったのだ。<br />　人間離れした怪力で投擲されたそれはジンの胸------心臓部分に深々と突き刺さった。<br />　その中に液状ウイルスが満たされていたのは疑う余地もない。針を通して血管に侵入したそれは彼の心臓が一度脈打つと同時に身体を巡り、一気に浸食を開始した。そして次の瞬間糸が切れた操り人形のようにジンの身体から力が抜けていく。<br />　最後に彼が声にならない声でこちらの名前を呼ぶのが聞こえた。が、ティックがそれに返事する間もなく、イヴのつま先が眼前にせまる。<br />　肺がつぶれるような衝撃がティックの身体を襲い、そのまま勢いが死なないまま部屋の端に置いてあった食器棚に激突した。声をだせずリノリウムの床に倒れ込む。<br />　棚のガラスが割れて中にあったカップや皿が飛び出した。いくつかのものが床に落下し、ティックの眼前で白い破片となって飛び散った。<br />　ジンが現れてからそれらが床にあたって割れるまで、およそ数秒。<br />　大きくティックは胸を膨らますと、血を吐き出した。<br />　それぞれ倒れ込んだ二人をみやりながら、してやったりというような笑みを浮かべてイヴが言ってくる。<br />「さてさて、仕上げといきますか」<br />　そういって懐から別の注射器を取り出した。そして床に突っ伏して動かないジンではなく、ティックのほうに向かってくる。<br />　その間に倒れ込んだジンをロドリゴが抱え、リビングのほうに歩いていく。その背中に罵声をあびせたかったがそんなことをしている余裕はティックにはなかった。視線をイヴの左手に映す。<br />「それは」<br />「なぁに、ちょっとした薬さ。すぐに飛べるよ」<br />　風邪を引いたから点滴をするんだとでもいうような口調で返事をすると、イヴはティックの上にのしかかる。そしてティックが抵抗できないように地面にうつぶせにし、腕を大きく振りかぶるとその注射器をティックの後ろの首筋に突き立てた。血管に刺さったその針を確認したあと注射器の中の液体をすべて流し込む。<br />「......っ！」<br />　声にならない悲鳴をあげて地面を転がってのたうつティックをおもしろがるような目で見ると、彼女は空になった注射器を投げ捨てた。<br />　それからティックの身体の奥深くから女性の物とは思えない機械的な声が響いてきた。<br /><br />【殲滅兵器ミラクル・レインボウ　稼働開始】<br /><br />　ティックの額がはぜ割れ、金色の瞳孔を持つ第三の目が出現した。そこからさらに顔をなぞるように太い神経が血管のように浮き出してくる。身体の周りでわずかに静電気が弾け、力を解放した。それが宇宙空間に浮かぶ巨大な静止衛星に送信されていく。<br />　そして、それが雨のように振らせる高熱のレーザービームを自分で制御できないことも。<br />　動けない身体でそこまでを一気に理解した。腕の先から力が抜けていく。<br />「あははっ、これであんたも、この家も、あのガキも全部消え去るってわけだね。最高じゃん」<br />　這いつくばったまま怒声をあげるティックを覗き込むように、イヴがしゃがみ込んでくる。<br />「なんでカルやリコがあんたやあのガキにこだわるのかは知ったこっちゃないけどね。五年前の借りはきちんとかえすよ。クラウと同じ薬でいけるって、幸せじゃない？」<br />「クラウ......？」<br />　その名前を小さく口の中でつぶやきながら、その目をにらみ返す。<br />「......殺した......？」<br />「ああ、同じ薬でね。あんたのヤツは、それにちょっとしたおまけがはいってるけど」<br />　ティックは自分の怒りで自分の頭髪が持ち上がる感覚に襲われた。実際は髪の毛一本も反応無しだったが、そうなるかと思うほどの怒気が自分の中で膨らんで、小さな爆発を次々と起こしていた。<br />　この目の前の女を掴んで、この世の不幸を全部ぶつけてやりたかった。本気で怒ることなど今まで無かったのに、今ここまで怒っている自分を珍しいとおもう。<br />　だが、身体が言う事を聞かない。<br />　そこにたたみかけるように、勝ち誇った笑みを浮かべながらイヴがつづけてきた。<br />「30分でいけるよ。それまでゆっくり寝んねしてるといいさ」<br />　こちらの頭を床に押し付けると、きびすを返して立ち去ろうとした。が、その足首をすかさずティックは掴んだ。薬の効力を完全に無視して筋肉を動かした。そして絶え絶えの息で身体をはわせ、イヴの顔を睨みつける。<br />「ジンの解毒剤......おいてけよ」<br />「うるさいね」<br />　小さくあきれたようにつぶやくとイヴはつま先を振り上げティックの顎にのめり込ませた。浮き上がったところを喉を掴み、反対側の壁に思い切り叩き付けた。<br />　家全体が揺れたかのような轟音が響き、壁が砕けちった。床と壁に血の跡を残しそのままティックが力なく倒れ込む。<br />「相変わらずお人好しだね。この解毒剤をあたしがもってるとでも？　そんなわけないじゃん。バカだね」<br />　それだけを吐き捨てると、部屋からでていく。<br />　ティックは大きく息をついた。クラウにも投与したという劇薬------おそらく人間用だろうが----ーはかなりの効き目があった。ティックの筋肉を弛緩させ、行動の自由を奪った。<br />　どうやって例の兵器を動かしたのかはわからないが、それだけでも効果はあった。<br />　おそらく----------<br /><br />　だが、彼だ。<br />　ジンはどこにつれていかれたのだろう。<br /><br />　頭が回らない。<br />　ティックの目の前を暗闇が襲っていた。頭が靄がかかったように白濁し、思考を停止していく。単純な感情だけが自分の中に残り、それが身体を動かしていく。<br />　死んでしまいたいと思った事は今まで何度かあったが、眼前にせまるとこれほどまでに恐ろしいものなのかと、ティックは感じた。今はまだ死にたくはなかった。すくなくても、彼より先には。<br /><br />「ジン......」<br />　それだけをつぶやいた。自分の状態を理解できる範囲にはなかった。<br />　だからその頬を、血ではない暖かいものがつたっていることに、意識を失うまで気づく事は無かった。<br /><br />]]>
        
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    <title>10</title>
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    <published>2007-09-10T06:02:16Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:58:58Z</updated>

    <summary>　午後。　その週の天気の変わり方は突然だった。　昨日の青空が嘘のように空が黒くな...</summary>
    <author>
        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
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        <![CDATA[　午後。<br />　その週の天気の変わり方は突然だった。<br />　昨日の青空が嘘のように空が黒くなり、雷雨がくる前兆の独特の雷音を響かせ始めた。<br />　雨が降り出すのも時間の問題だろう、とレックスは思った。<br /><br />「こっちだぜ。メスブタ」<br />　半壊した塀に身を隠しながら中に突入する機会を伺っていた人物の背中に声をかける。その人物は突然背後からかけられた声に驚くようにこちらを振り返った。<br />「こないだ会ったかな？　ティックなら留守だぜ」<br />　そういって拳を握りしめる。<br />　相手がこちらを振り返り、被っていた帽子をとった。そこにあるのはたしかに一昨夜、この塀を半壊させた女だった。顔は包帯できつく巻かれており、目鼻と口だけが見えていた。<br />　あの夜の闇の中ではよくわからなかったが、わずかに見える肌の色は浅黒い。それが地なのかどうかもよくわからなかった。それを見つめながら、間合いをとる。<br />「マジ？」<br />　どこか懐疑的な口調。それをうけてレックスはにやりと笑った。<br />「どうだかな。おしえてやらねえよ。そのかわり、お前には話してもらわなくちゃならないことがたくさんあるんだけどな」<br />　それだけを告げると、相手に数歩つめよった。<br />　お互いの視線が交錯する。刹那。<br />　レックスのブーツが地面を蹴り相手に肉薄する。相手の顔面に右の拳を叩き込み、そのまま庭園の中に入った。<br />　すぐに立ち上がった相手が繰り出した蹴りとレックスの腕が交錯する。そのまま蹴りの威力を殺すように後ろに流すと、相手のみぞおちに膝蹴りをいれる。相手の体がくの字に折れ曲がったところをさらにレックスは力を解放した。<br />　手のひらから炎が吐き出され、それは命を与えられたかのように相手の体を包み込んだ。<br />　容赦のない火炎放射を至近距離でくらった相手はたまったものではない。そのまま吹き飛んで庭園の上を転がっていく。<br />　と。<br />　一筋、レックスの頬に水があたる。<br />　上を見上げると、大粒の雨が一筋、また一筋降り始めたところだった。<br />　続いて空で大きな雷が鳴り響いたと同時に、その雨は強さを増した。地面を大粒の水滴が打ち始める。<br />「やれやれ」<br />　レックスは雨が降り出したことを残念がっているようには思えない口調でつぶやいた。目の前では案の定、雨でレックスの炎を収まらせた女が体勢を立て直し始めている。<br />　彼女をにらみつけながら不敵な笑みをうかべ、<br />「この雨じゃお前の爆発も意味ないな」<br />　と言った。すると、<br />「殴り合いってところかしら」<br />　相手はそれだけを返してくると、首をならした。ダメージを受けた様子はない。<br />　もう一押し必要か。<br />　レックスは拳を握りしめると、さらに追撃するべく地面を蹴った。<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　シュルート私邸を小さくしたようなその別荘は、生活に必要なものが殆どそろっていた。<br />　広さだけで一つのビーチを占有し、庭園の広さはシュルート私邸と殆ど変わらない。ただ、建物の占有率だけは私邸の数分の一ほどの大きさで、あの建物のように歩き回るのに困る程の大きさはない。<br />　あの後レックスとアルフィが用意したこの建物に、ティックとジンは移動した。再び襲撃されるのを防ぐためとレックスは言ったが、ジンには気晴らしの旅行と伝えておいてある。<br />　普段使われていない建物のわりに、きちんと整備されていた。<br />　ここを整備しているのも例の機械たちなのだろうが、感染していないのが不幸中の幸いといったところだろう。二人の荷物を運び入れたあと、ジンがこちらをみてきた。<br />「よいしょっと。ここでいいかな？」<br />「うん。大丈夫。寝るとことかみておきなよ。あと荷物の整理しといてね」<br />　そこまで言葉をつづけて、彼が実際に動き出したところまではよかったー−ーと、彼の腹部が空腹時独特の音を鳴ったことに気づく。<br />「ジン、おなかすいてない？」<br />　軽く頷き返しながら訊ねると、ジンは首を振った。鞄の中に目をやりながら------こないだ二人で買い物に出かけたときに買ったものだ------聞きかえしてきた。<br />「へった。ティックは？」<br />「私はまだ平気だけど一緒に買い物いこっか。一週間もいるんだから、ちょっとは慣れとかないとね。あ、その前にキッチンいってくる。なにがあるのか確かめないと」<br />　そういって笑ってみせた。その笑顔が作り物だと思われないように気をつけながら、ドアを開けてキッチンへ向かう。<br />　そこで急に気が抜けてしまう。作り物の顔はあまり得意じゃない。<br />　そもそも相手の状態をみて笑顔を作るというのがティックは苦手なのだ。聞き上手であろうと努めてはいるが、それでも気持ちがにじみ出てしまう。<br />　外に表情を出さずに相手の話を聞ける人を見るとどうやってそういうことができるのかと感心してしまう。今の自分が『ジンがもうすぐ死んでしまうから』というのを考えながら『普通通り』一緒に過ごす事ができるのかどうか、自分に問いつめてみる。正直自信がなかった。<br />　ある日、口を滑らせてしまわないかどうかが不安だった。そんなことはないと信じたいけれど。<br />　キッチンの前につくと、ティックはそこの中から物音がすることに気づいた。リビングでジンが先回りできるはずもない。ティックは思わず警戒心を強めた。<br />　誰？<br />　耳を澄ますと、声が聞こえてくる。<br />「博士、終わった？」<br />「ああ、問題ない」<br />　へぇ。問題ないの？<br />　こっちは問題ありすぎなんだけど、と心の中で皮肉をつぶやきながらわずかなドアの隙間から中をのぞいた。<br />　黒髪をショートカットにした、黒服の女------イヴがそこにいた。<br />　手元の注射器を揺らせながら、彼女は目の前の男に言った。<br />「博士、本当にこれでいいの？　これで発現しなかったらあたし首切られるよ」<br />「ああ、大丈夫だ。お前らが『B』の注射まで終わっていればな。報告書に嘘を書いてなければこれできちんと事は進むはず」<br />　そう答えたスーツ姿の壮年の男性------アルフィとジンの父親、ロドリゴだった。彼とイヴがここにいる事、そして話している内容にティックは驚いた。<br />　目の前の棚を閉じながらロドリゴはつづけた。<br />「例の注射まで終わっているのであればこれであとは問題ない。あとは彼がどういう反応を示すかだが------」<br />「終わったら、どうすんの？」<br />「カルとのやりとりは終わっているから、あとは実用化か。第一フェーズは終了だな」<br />　彼がそういって注射器をケースにいれ、懐にしまった。<br />　ティックはここで自分の中に一つの大きな疑問がわいてくるのがわかった。どうして彼はジンを殺そうとしているのだろう。確かアルフィは『家族を失うのが怖い』と話していた。だとしたらここにロドリゴがいて、ジンの死に手を貸しているのはおかしい。<br />　だがそんなこちらの疑問をよそに、二人は手と注射器でキッチンの中のものにその『薬』を次々とさしこんでいった。]]>
        
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    <title>9</title>
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    <published>2007-09-09T05:58:10Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:57:54Z</updated>

    <summary>　朝。　朝食の準備をしているティックをみて、起きてきたジンが目を丸くした。「どう...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　朝。<br />　朝食の準備をしているティックをみて、起きてきたジンが目を丸くした。<br />「どうしたの？」<br />「おはよう。どうもしてないよ」<br />　にっこり笑って返すが、傍目からみるティックの様子はいつもとは違う。<br />　頭には包帯がまかれ、顔には絆創膏が貼付けてある。Tシャツをきて料理しているため腕の包帯や絆創膏がむき出しになっている。<br />　昨日のあの騒ぎの間、ジンは目覚めなかった。こうして何事もなかったかのように二人で朝を迎えられる事がティックは嬉しかった。あの女のために彼が犠牲になるのはまっぴらごめんだった。<br />「ほんとに？　なんで夜でそんなけがしてるの？」<br />　彼はダイニングチェアに座り込みながらこちらを見つめてくる。本当に心配してくれているのだということがわかってティックは安心した。フライパンから焼いたエッグトーストを移すと、軽い沈黙をおいて口を開いた。<br />「たいしたことではないよ。いろいろあってね」<br />「ちょっと？」<br />　それからジンは窓の外に目をやった。そして、<br />「うわぁ」<br />　と、驚いた声。<br />　予想通りかな、と声にださずに心の中でつぶやくと、ティックは二人分をテーブルに置いた。それから外の荒れた光景をみている彼をつっつく。<br />「ごはんできたよ」<br />「あ、うん。なにあれ......」<br />「その、ちょっと、いろいろあって」<br />　口ごもるしか無かった。まさか夜中に赤の他人がやってきて塀を破壊しつくすような大爆発を起こして帰っていったんだよ、というわけにもいくまい。とりあえずは。<br />「あのさ」<br />　ティックが口を開こうとすると、ジンがこちらをむいて言ってきた。<br />「あのさ、ティック。本当のことを、教えてくれないかな」<br />「え？」<br />　突然の言葉に反応できずにいると、彼はつづけてきた。<br />「いま、ごまかそうとしてるでしょ？　僕のため。なのかどうかわからないけど」<br />「うん」<br />「本当のことを教えて。僕の周りで、一体なにがおきてるの？」<br />　彼の目は本気だった。ティックと自分の周りで起きている異常を感じとっていた。<br />　どうしようもない事態。<br />「言って信じる？　私はあまり話したくないんだけどな」<br />「信じるよ」<br />　ジンはそういうと椅子に深く座り直した。それから大きくため息をつくと、テーブルの上に視線を落とす。<br />「なんか嫌な予感がするんだよ」<br />「そうだね。悪い事が起きてるよ。確かに。でも君のことはちゃんと守るよ。大丈夫」<br />　ティックはそういって、自分の皿の上のエッグトーストをかじった。それから半壊した塀に目をやった。<br />「あれ、どうしようかな」<br />「......」<br />　その声に返事はなかった。彼ができなかったわけではないだろうが。<br />　二人が視線を送る崩れた塀の上には、ずっと青空が広がっていた。<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　食事も終わり、ジンが部屋に戻った後ティックが食器を片付けていると突然声がかかった。<br />「情がはいってんな」<br />　横目でみると、食堂の入り口にレックスが立っていた。壁に体重をかけるようにして、かるく腕を組んでこちらをみてきている。<br />「失ったとき辛いぞ。でもそれ、いつもだろ？」<br />　皮肉げに口の端をゆがめながらそういってくる彼から視線をはずし、ティックは洗った皿を一枚、乾燥機の中にいれた。<br />　そこで手をとめ、大きく息をついた．<br />「あのさ、レックス。私たちのことにまで口を挟まないでもらえる？　別にどこで誰を思おうと私の勝手。だよね」<br />「そう、勝手だよな。でもさ、そうなって失ってお前何回辛い思いした？　前のとき学ばなかったのか？」<br />　静かにそういうと、彼はとなりの棚から缶コーヒーを取り出した。彼がそれを手に軽く握ってから口をあけると、それは次の瞬間には湯気をたてていた。<br />「ん」<br />　口に運ばずに怪訝そうな顔をするレックスに、ティックは作業を再開しながら作業を開始した。<br />「それ、飲まないほうがいいよ」<br />「俺たちは感染はしないさ。だけど、人間には猛毒だな」<br />　彼はそういってその缶を握りつぶした。中身は蒸発してしまったのか、床には一滴もこぼれなかった。<br />「ほかのものはどうしたんだ？」<br />「この家はかたっぱしから調べたよ。食材はいれられてた。水道も感染してた。全部取っ払ったけど、ジンの体はあと一週間は持たないと思う」<br />　ティックはそういうと、蛇口を閉めた。それから大きくため息をついた。その背中に声がかかる。<br />「調べたのか？」<br />「うん。アルフィにもきいた」<br />　そういってから手近なスツールに座り込んだ。立っているとそのまま床に倒れ込んでしまいそうだった。<br />　これから一週間は辛くなるだろう。<br />「どっちにしても、ここは離れる必要がある」<br />　こちらの肩を軽くたたくとレックスが言ってきた。彼にしては珍しい、慰めるような声音だった。<br />「またイヴがくる。それに、今度はもっと手強いヤツをつれてくるかもしれない。そうしたら......」<br />　ティックはなにもいわない。ただうつむきながらフローリングの床を見つめている。視界の端にレックスの黒いブーツが見えた。<br />　何処かに小さくて丈夫な箱がほしかった。そこに自分の心を放り込んで、自分はどこか狭い場所に入り込んでじっとしていたかった。<br />　結局は、逃げただけにすぎず、ジンとの約束を破ることになる。<br />　彼が軽く呼吸を整えると、<br />「なあティック、こういう考え方はどうだろう」<br />　こちらの顔を覗き込むようにしゃがみこみ、つづけてきた。<br />「あと一週間、五日か。その間に、お前がジンを人間にしてやるんだ。生きててよかったって思えるように」<br />「人間に？」<br />「そう。別に普通に外にでて買い物するとか、遊びにいくとか、そういうのでな。多分それだけでも違うと俺は思うぜ。あいつがひとりで傷ついているのはわかるが、どんなふうに辛いのかは俺はわからないから。どうせ離れられないんだったら、そういうのを癒してやるのはお前でいいんじゃないか？」<br />　そこで一息つき、レックスは頭を振った。こちらを見上げていた視線をはずし、窓の外に目をやる。<br />「明日までに、新しい隠れ家を手配してやるよ。だから早まるなよ。ちょっと心を落ち着かせて、それからジンのそばにいてやるといい」<br />　その決断が彼に負担をかけることは理解できた。そのままアルフィにとって辛い出来事になることも。<br />　ティックはそこではじめて、彼の猫のように赤みがかった黒い目を見つめた。その目が真剣に物事を話してくれていることを感じとる。<br />　それから小さく頷くと、<br />「ありがとう」<br />　とだけいった。彼も頷き返すとこちらの手を励ますようにたたき、レックスは立ち上がってきびすをかえした。そのまま食堂を出て行く彼の背中を見送り、ティックは大きく息をついた。<br />　まだまだやらなければならないことがある。<br />　だが、なにからはじめればいい？<br /><br />　あと五日。その数字だけが重く背中にのしかかっていた。<br />　だが、さっきまで破裂しそうだった心は、別の暖かさで満たされていた。<br /><br />]]>
        
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    <title>8</title>
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    <published>2007-09-08T05:56:56Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:37:48Z</updated>

    <summary>「あいつらだけで、大丈夫？」　夜。屋敷の電気がすべて消灯されたころ。　シュルート...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[「あいつらだけで、大丈夫？」<br />　夜。屋敷の電気がすべて消灯されたころ。<br />　シュルート私邸の前に立ったイヴは隣にいる仕事仲間--------ギューンの顔をみてそういった。<br />「大丈夫。どうせ相手は一人なんでしょ？」<br />　そういって軽く笑ってみせてくる。イヴは息をつくと、<br />「そういうことじゃないよ。相手は人間じゃないんだよ」<br />「まあまあ。荒い事には慣れてる。大丈夫よ」<br />　そういう彼女の言葉をきいて頭を振った。リコから借りた普通の人間を送り込んだが、どちらにしても並の人間では敵うはずもない。<br />　と。<br />　鈍い音がして何か大きなものが二つ、眼前に落ちてくる。<br />「やっぱりきたね。今日あたりくるんじゃないかって思ってたんだよね」<br />　平坦な声と共に舞い降りてきたのは金髪碧眼の背の高い女------<br />「ファースト」<br />　イヴが小さくつぶやく。ここでまさに決着をつけるとでもいうように。<br />　ファースト------ティックはにやりと笑うと、イヴに近づいた。<br />　イヴの隣からは、すでにギューンの姿は消え失せていた。ファーストの目に彼女が映らなかった事をイヴは願って、いつもの笑いを顔に貼付けた。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　すっかり寝入っているその少年の腕に注射を一本射つのはそれほど難しい作業というわけではなかった。これであとはイヴが持っている注射を射てばこの変異は完成する。<br />　どちらにしても難しい作業じゃない、とギューンは思った。あの魔術師に見つかる前にあの場所を立ち去ることができてこの場合は幸運だった。暗闇に包まれた部屋に月の光がうっすらとはいり、ギューンの足下を照らす。<br />　次はイヴがここに来る番だ。彼女に連絡を入れて、渡して------<br /><br />　渡して------<br /><br />「やっぱりきたな。単体で攻めてくる訳はないと思ったぜ」<br />　ファーストと同じ言葉が、すらりと空中を流れた。女の声じゃない。男の声だ。<br />　目の前の少年は今の薬で当分は起きる事は無い。が。ここで男の声が聞こえるのはおかしい。<br />「俺たちをみくびってたな。ティックにはドジな仲間たちがいるんだぜ。忘れてたか？」<br />　ギューンは答えない。空になった注射針をケースにいれ、再び懐にしまう。<br />　後ろから聞こえてくる声に返事はしない。振り返るとそこには赤髪の男が壁に寄りかかるようにして立っていた。赤髪の男には見覚えがあった。<br />「レックス......セカンド。なんでこんなところにいるの」<br />「さあな。お前らがアルフィを脅したりしたからじゃねぇのか」<br />　そういって彼は一歩踏み出す。黒い革の戦闘服についた金属製のバッジが小さな音をたてた。<br />　ギューンが振り向くと、その顔に月光があたって二人ともお互いの顔が確認できるようになる。その次の瞬間レックスがこちらに肉薄し拳を繰り出した。<br />　ギューンが両手でそれを受け止めるが、相手の力はそれを圧倒的に上回っていた。押し飛ばされると後ろにあるのは窓ガラスだ。それを縦に割るように外に飛び出した。<br />　そのまま庭園に落下したギューンを追うようにレックスも飛び出してくる。つづけて振り下ろされたブーツのつま先を庭園を転がるようにして避け、さらにレックスがつづけて拳を繰り出してきたのを受け止める。<br />　二人の間の空間がその一撃ではじけ、数メートルの間合いをとって対峙する。<br />　つづけて襲ってきたのは直径一メートルほどの炎の渦だった。レックスの手のひらから繰り出されたそれは、命を与えられたように蠢き、周りの草花に燃え移る事無くギューンの体にだけ巻き付いていく。まるで音もなく迫ってくる赤い炎は圧巻の一言につきた。<br />（やばいっ......）<br />　危機感を感じたギューンは力を解放し、自分の周囲にエリアをはった。次の瞬間。<br />　火薬の無い空間の小規模爆発があたりに広がり、レックスの炎をはじき飛ばした。だがそれは庭の花をも吹き飛ばし、自分の周囲のみ焼け野が出現する。<br />　炎を相殺することに成功したギューンは手のひらをにぎりしめて、大きく息をついた。冗談じゃない。<br />　相手を睨みつけて大きく息をつく。どちらにしても勝ち目はない。<br />　もし、ここで待っているのが彼じゃなくてファーストだったら勝利はあっただろうか。<br />　だが、今はそんなことを考えてはいけない。<br />「なあ、結局誰に頼まれたんだ？」<br />　レックスが不敵な笑みを浮かべながらこちらとの間合いをつめてくる。その手には小さな炎の固まりが空中のなにもないところでくゆらされている。いつでも放てるようにの準備だろう。<br />　彼が進み出てきた分を後退し、ギューンは鼻を鳴らした。<br />「いくらなんでもいえるわけないでしょ」<br />　強がった口調が相手にばれないことを祈る一方で、逃げ道を考えていた。ここでイヴの助けがはいれば一番楽なのに。<br />　その言葉を言い終わるか否か、二人の後方で一瞬の閃光があたりを照らした。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　夜の私邸に、一瞬だけ朝が訪れたかのような光が飛び散った。<br />「そういえば、あんたときちんと闘うのはこれが初めてだね」<br />　イヴはそういうと横に飛び去った。ラグビーボールほどの大きさの光弾がその脇をそれ、奥にある松の木を包み込んだ。<br />　根元を焼き切られたその大木が奥に吹っ飛ぶのを横目に、ティックは後方に回ったイヴに向かって体を回転させながら後ろ蹴りを加える。が、イヴはそれを左手で軽くいなすとそのまま裏拳を叩き込んできた。<br />　ティックはそのまま彼女の腕を掴むと体ごと担ぎ、屋敷の塀に向かって投げつけた。<br />　そして再び追撃の光弾をイヴの体の中心めがけて放つ。が、それは彼女の腕によって跳ね返された。<br />「今日は闘う気満々だね」<br />　からかうように言ってくるイヴにさらにティックは拳を繰り出す。が、それを受け止められる。<br />　返事はしなかった。挑発にのったら負けだ。<br />「じゃあ、こっちも本気でいくよ」<br />　イヴはそういうとティックののど元に思い切り拳をうちこんできた。逆の手で右の拳を掴まれていたためガードが間に合わず、その拳は思い切りのど元にのめりこむ。<br />　逆流してきた血を吐きながら後ろに吹っ飛ぶティックをみながらイヴが耳に障る笑い声をあげた。口の中に残る赤い物を吐き出し、ティックは再び反撃にはいろうと膝をついた。<br />　と。<br />　重なるようにイヴの後方で巨大な爆発が起き、私邸の塀を破壊した。爆発で粉々に砕かれたコンクリートの固まりやら木片やらがティックのそばに降り注ぎ、あたりを一瞬赤く染めあげる。<br />　そこから現れたのは顔に包帯を巻いた黒ジャケットの女だった。光が白い包帯を赤く染めているため、その顔が実際にどんな面相をしているのかまではわからない。<br />　それに驚いたのはティックではなくイヴのほうだった。目を丸くしてそちらを振り返る。<br />「どうしたの」<br />「予定変更。今日は撤退するわ」<br />「どうして？」<br />「ファーストに仲間がいたみたい」<br />　その包帯の女はそういうと、一歩踏み出した。こちらにその目が向けられると同時に、爆炎の向こう側から人影がとびだしてきた。黒い革の戦闘服をきた赤髪碧眼の若い男------<br />「レックス？」<br />　喉に打撃をうけていた所為かまともな声がでなかったが、ティックはがらがら声でようやくその名前を口にだした。数週間前に最後に会った彼がなぜここにいる？<br />　こちらの疑問など知って知らずかレックスはそのまま包帯の女の喉を掴むと、一番手前の木に叩き付けた。イヴもティックも反応できていないまま、それを見送った。<br />　その奥にあるのは松林の深い闇だ。<br />　こちらを見てくると、彼は捕まえた虫をどうしてやろうかとでもいうように、<br />「やあティック。こいつらどうする？」<br />「いたなら教えてよ......」<br />　喉を抑えながら立ち上がると、ティックは一人じゃないという事実に安堵した笑みを浮かべた。彼がいてくれたということはジンを守ってくれたということだ。アルフィは場所が割れることをあらかじめわかっていたのだろうか。<br />　その後方でイヴが悔しげに歯を鳴らしている。<br />「まったく......しかたないね」<br />　そちらをみやりながらイヴがレックスとその手に首を握られている包帯の女のところに一歩近づいた。<br />　牽制するようにティックが踏み出すと、イヴがにやりと笑みを浮かべた。そしてその包帯の女と視線をかわす。<br />　そして。<br />　ティックがレックスに飛びつくのと、イヴが山道のほうに走りだすのはほぼ同時だった。<br />　その女からレックスを引きはがし、私邸の方向に身を投げ出す。<br />「なにすんだ！」<br />「やっちゃって！」<br />　レックスとイヴの叫び声が同時にあがる------それとほぼ同タイミングで包帯女の腹のあたりから太く赤い光が放たれたように見えた。そして、その次の瞬間。<br />　彼女を中心にオレンジ色の光のドームが私邸の小山の一角を覆った。それと同時に大きな爆発と衝撃が松林をなぎ倒し、私邸の塀を粉砕していく。爆炎が松林を飲み込んでいき、まるで太陽が地上に落下したような熱と光があたりに散乱した。<br />　轟音があたりに響き、爆圧がレックスと、その体を抱えたティックを吹き飛ばす。<br />　寸前でレックスがはなった炎の壁が相殺してくれていたらしく、私邸の庭園は一部をのぞいて無事のようだった。その無事な部分に、ティックとレックスは折り重なるように倒れ込んでいた。<br />　半分黒こげになりながら体を起こすと、ティックは半壊した塀を見つめた。<br />　それから後ろで倒れているレックスに向かって声をかける。<br />「ありがと。大丈夫？」<br />「ああ」<br />　そういって返してくる彼をみて、それから窓ガラスが割れたジンの部屋をみた。彼が起きてなければいいけど。なにより、問題がなければよいけれど。<br />　そう思いながらガラスを見つめるティックに声がかかった。<br />「まだ、おわってないぜ。まだ、俺たちにはやることがある」<br />「うん」<br />　あの二人が、また来るのだろう。<br />　そう思ってティックは再び地面に体を寝かせる。そこにレックスの声がかかった。<br />「休んでおけよ。あとで怪我の手当しとこうぜ」<br />「そうだね」<br />　空には、満月が浮かんでいた。<br />　それを見ながら、ティックは静かに目を閉じた。<br />　]]>
        
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    <title>7</title>
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    <published>2007-09-07T05:56:11Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:35:59Z</updated>

    <summary>「姉さんは、なにしてるの？」　二人で川辺の公園でハンバーガーをかじっていると、唐...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[「姉さんは、なにしてるの？」<br />　二人で川辺の公園でハンバーガーをかじっていると、唐突にジンが聞いてきた。<br />「なにって？」<br />「その......仕事とか。いろいろ」<br />　川辺の公園はかなり広く、フットボールのコートを二つ並べた程度の広さだった。公園の端をぐるりと取り囲むように木々が植えられていて、隣を通る運河から道にかけて芝生と草花がきちんと道を作っていた。それを見下ろせる坂のところにあるベンチに二人は腰掛けていた。<br />　すぐ後ろが車をとめることができていたため、ちょうどいいといえばちょうどよかった。<br />　ティックはジンの問いを頭の中で繰り返し、答えをさがしたがちょうどいい答えを見つけられなかった。<br />「うーん。いろんなことを研究したり、開発したりしてるよ。結構忙しいひとだよ」<br />「そっかあ」<br />　ジンが、いままで黙り込んでいた分だけ一気に疑問が押し寄せているようだった。ティックと打ち解けるうちに、いままで心の奥でくすぶっていた疑問が、吹き出してきたようだった。<br />「ティックは姉さんのなんなの？」<br />「私は」<br />　自分のことを話そうとして、ティックは口ごもった。<br />「なんなんだろうね。友達？　家族？　しっくりこないや」<br />「そうなの？」<br />「うん。わかってるのは、私が物心ついたときにはもうアルフィのそばにいたってことぐらいかな。あのひとが最初は全部を教えてくれたんだ」<br />　そこまで話して、ふう、と息をつく。いつも問われるとなんて説明していいものか迷ってしまう。これは仕方ない事なのだろうがなかなか慣れてない。<br />　オレンジジュースを飲みながらティックは運河の上を走っていく船をみやった。それは遠い景色のように見える。<br />「僕ははじめ、家族はいないものだと思ってた」<br />　唐突にジンが話し始めた。<br />「僕の家族とか、母さんとか姉さんは全員ある日消えていったものだと思ってた。気づいたら僕のところにくるのは食事を運ぶ機械とか、それだけになって」<br />「うん」<br />　鳥が鳴いている。その声を遮るようにジンはつづけた。<br />「でも僕は母さんも父さんも姉さんも好きだった。大好きだったんだよ。遠くに行かないで、近くにいてほしかったんだ。でも、母さんが死んで、ある日を境に姉さんと父さんはどっかの街にいっちゃったんだ」<br />　おそらく自分たちを発明したときだ、とティックは思った。<br />　アルフィからなんどか聞いている。作ったときに、遠くにつれてこられてしまった、と。<br />「その日から僕はなんだか一人になって。わからないよね。どうしたらこんなことになるんだろう。前は一人になりたいっておもった事もあったけど、みんないなくなって、辛くって」<br />「寂しい？」<br />　ティックは彼の顔を覗き込むようにして訊ねた。ジンがうなずく。その目は悲しげだ。<br />「わかんない。でもみんな生きているなら、会いたい。会って、最近はこうだよ、とかああだよ、とかいうのをお話したい。っておもう。僕は友達がいないから」<br />「いるよ。私が」<br />　そういって彼の頭をなでてやる。いま離れたら駄目だ。<br />「そばには私がいるよ。家族には、会えるよ。大丈夫」<br />「うん」<br />　ジンがそう頷いた。彼の頭を抱いてやりながらティックは彼からいま離れるわけにはいかないと思った。<br />　いままで『普通』という言葉が彼を支配し、誰もいない『普通』が彼を取り巻いていた。そこに自分がはいってきたことで、彼は誰かがいる『普通』への回帰を強めようとしている。<br />　ここでいなくなるのはフェアじゃない。おそらくここでティックがでていったら、彼は死んでしまうかもしれないと思えるほどだった。その感情をゼロにするのは難しいかもしれないが、抑えてやることはできるだろう。<br />　離れるときはまだだ。少なくても今じゃない。そう思って、ティックは青い空を見上げた。<br />　飛行機が一機、一筋の雲を作っていった。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　帰路につくと、落ち着いてきたのかジンが口を開いた。<br />「さっきのひとは、なんだったの？」<br />「どのひと？」<br />「その、僕らを尾行してたひと」<br />　イヴのことだろう。と思った。言うべきかどうか迷ったが、ティックは頭を振った。<br />「昔の仕事仲間さ。今は敵同士だけど」<br />「敵って？」<br />「あー、その、まあ、いろいろあってね」<br />　ずきずきと痛む左肩に注意しながらハンドルをきる。くねくねとした山道を走るのはどこか辛いものがあった。<br />　ジンが両手を膝の上で組み合わせながら外を眺めている。<br />「やっぱり、たたかったりするの？」<br />「さあ。あのひとが動くことで私たちが危険な目になるんだったら、闘うと思う」<br />　そこまで話してから、彼が黙り込んでいる事に気づいた。自分の中にはいってしまっていて気遣いを忘れてしまっていたミスだった。<br />「ジン」<br />「ん」<br />　彼が小さくつぶやく。彼の過去になにがあったのかまでにティックはしらない。<br />「大丈夫だよ」<br />　そういって、最後のカーブを曲がるとシュルート邸の大きな門が目前に現れる。ふう、と息をつくとティックはそこに向かって車を走らせた。ジンはその間、何も言わなかった。<br />　門が目前で開き、二人が乗った車を迎え入れた。<br /><br />　彼が部屋にもどり荷物を片付けている間に、ティックはアルフィに連絡をいれようとジャケットの内側を漁った。その中は左肩の出血で黒くなっていた。<br />　ジャケットの中のモバイルが壊れていないか不安だったが、早めの止血はそれなりの効果があった。外側のボタンは赤黒いものがこびりついてはいたが使用不可能というほどではない。<br />　履歴からアルフィを探し出し、連絡をいれる。<br />「もしもし。アルフィ？」<br />『やあ、ティック。おつかれさま。いまどこにいる？』<br />　ぼんやりとした口調で返してくる。いつものアルフィ。<br />「私邸にいる。ジンと買い物いってきたとこ」<br />『君たちなかよくなったんだね。それはいいこと。で、どうしたのいきなり？』<br />「敵のエージェントがきたよ。ここからでていけって」<br />　事実を述べる。アルフィは驚くでもなく淡々とした口調で返してきた。<br />『そう』<br />「そっちは？」<br />『こないだ三人。レックスが撃退してくれたよ。でもまいったね。私邸の場所は公開していないのに、どうしてわかっちゃったんだろ』<br />　そういって彼女は深々と電話の向こうで息をついた。ティックがわかるくらいに。<br />「そんなのしらないよ。アルフィ」<br />『うん？』<br />　窓の外に目をやる。<br />「私は、彼を守ろうと思う」<br />　窓の外の花畑で、たくさんの赤いポピーが揺れている。<br />　それを見つめながらティックはつづけた。<br />「今日、ジンとお話してきたんだけど、彼、傷ついてるよ。一人にしない方がいいと思う」<br />『それが結論？』<br />「うん」<br />　アルフィの問いにティックは素っ気ない返事を返した。だが、アルフィの言い方はどこか素っ気ない。<br />『ごめんね。やっぱり歳が離れすぎてるからかな。わたしあまり子供の気持ちがわからなくて』<br />「だろうね」<br />『うん。それで君が納得するならそれでもよいと思う。何も言わないしティックに振る仕事がほかにあるわけじゃないからね。ただ、危険なのは困るな』<br />　そこまでを一気にしゃべると再び嘆息した。<br />『そいつら、そこにくるかな』<br />「可能性は高いよ」<br />『別の隠れがを用意させるね。ジンと一緒に移動して』<br />「うん」<br />『盗聴されているかもしれないから、またあとでね』<br />「うん。それじゃ」<br />『じゃ』<br />　そこまで話すとモバイルを耳から離しスイッチをきった。まだ血がこびりついているそれをデスクの上におき、シャツを脱いだ。<br />　血まみれのそれをジャケットの上に置くと、ティックは救急箱を取り出して処置を始めた。<br />　消毒し血液を拭き取る作業だが、つづけているうちになんだか無性に悲しくなった。<br />　泣きそうだったが、涙は出なかった。<br /><br />]]>
        
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    <title>6</title>
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    <published>2007-09-06T05:53:53Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:32:33Z</updated>

    <summary>　心の殻は厚い。　ある程度の年月を重ねて作られたその殻を打ち破るのは並大抵のこと...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　心の殻は厚い。<br />　ある程度の年月を重ねて作られたその殻を打ち破るのは並大抵のことではできない。<br />　子供のうちはそれもまだ中でうごめいているなにかがあるのだろうが、大人になるとどんどんそれもさめていく。動きがなくなっていく。<br /><br />　二人で買い物をして、他愛ない話をしていろんなお店を回るうちに、ジンの中にも一定の殻が存在することをティックは知った。そして、その殻が少しずつ薄くなっていっていることも。<br />　それを急に割ると、心の傷つきが大きくなってしまう。し、それをだんだん薄くしていくと長期戦を覚悟しなければならない。はたして自分に対して長い時間をアルフィが許してくれるのだろうか、と思う。<br />　駅前の専用の駐車場に車を停めると、ティックとジンは商店街をぶらついた。<br />　駅前広場は大きな橋があって、その脇にはひらひらをつけた格好の女の子たちがたわむれていた。ジンがその女の子をしぐさで指して、<br />「ティックはああいう格好はしないの？」<br />「私は似合わないよ。背もあるし、金髪だし。あとああいうのを着るには体重がたりないよ」<br />「最後の、あのひとたちからしたら嫌味にきこえるかもよ」<br />「多分ね。でも似合う人がああいう格好をしたらいいんだよ。私は似合わないと思う。着た事無いけど」<br />　そんな他愛のない会話をしながら、二人は通りを歩いていった。<br />　途中外国の雑貨を集めたような店でジンが自分の鞄を買った。それから彼が好きなロックバンドのポスターが売っていたのでそれも買った。<br />　途中のセレクトショップで帽子やらリストバンドやらを見て、そのあと通りを歩きながらいろんな雑貨をみた。あの部屋に飾るのはどんなのがいいかを二人で話しながら歩くのはすごく楽しかった。<br />　ジンが笑っているのにティックは気づいていたが、自分のほうが逆に楽しい気持ちになっていることに、ティックは不思議な感覚を覚えていた。<br /><br />「おなかすかない？」<br />　午後三時を回り、街を歩き回った後でジンがティックに言ってきた。買い込んだ物を抱えながら彼のほうをみた。<br />「あ、そう？　何か食べようか。なにが食べたい？」<br />「あそこがいい」<br />　ジンが指差したのはこ洒落た外観のハンバーガーショップだった。ティックはそれに目をやり、それからすこし視線を外した。<br />「この荷物、置いてきてからにしようか。ちょっと買いすぎたかもね」<br />　その言葉にジンは頷き、二人は抱えている荷物を駅前に駐車させた車まで持ってきた。後部座席とトランクにそれらを丁寧に並べ煎れてから、ふとつぶやいた。<br />「そういえば、さっきの店って駐車場あったっけ」<br />　突然のこちらのつぶやきにジンが惚けたような返事を返してきた。<br />「え」<br />「いや、あればいいんだけど、さ。なかったら歩いていけばいいだけだし」<br />「また歩いて戻るの？」<br />「まさか。テイクアウトするよ」<br />　そういってティックは車の運転席に乗り込んだ。ジンが続いて助手席に座るのをまってから、車を発進させた。さっき通り過ぎたバーガーショップへ向かう。<br />　幸い通りの陰にむかってドライブスルーがあったのでそこで買い込むことにした。<br />　ハンバーガーとポテトと、ジュースを二つずつ買い込んだ。そのまま店員に代金を支払って通りにでた。<br />　と、突然ジンが口を開いた。<br />「川辺で食べようよ」<br />「いいね。それ。どこか座れそうな芝生さがそっか」<br />　そういってティックは街から流れる川沿いに車を走らせた。先刻のピンクや黒のひらひらをつけた女の子たちのそばを通り、二人で見回った店の前を通り街を横切っていく。<br />　もう少しで街の郊外にでるというところで、ティックはミラーの向きを変えた。<br />　そこで表情をかえる。突然ティックが黙り込んだのを気にしたのか、ジンがこちらを不安そうに見上げてきた。<br />「どうしたの？」<br />「つけられてるね」<br />「え」<br />　先ほどと同じ、だが今度はおびえるような声でジンが呻いた。シートに手をあてて後ろを振り向くと、その車の運転席に乗っている人間を見た。<br />「つけられてるって......尾行されてるってこと？」<br />「そうだね。あの黒い車、駅を出たところからずっとおってる」<br />「どうするの？」<br />　不安そうにこちらをみてくる。彼はこういったことには慣れていない。そもそも自分は彼の養育係ではなくボディガードとしてきたということをすっかり忘れてしまっていたことに心の中で軽くしたうちする。<br />「いちど話をしたほうがよさそうだね。君はおりないで。ここにいて。私だけで話をつける」<br />　先ほどとは違う厳しい口調のティックに、彼が何も言ってこなかった。<br />　おびえさせないように軽く笑ってみせる。<br />「大丈夫だって。話してくるだけ。用を聞いてから追い返すよ。川辺いって一緒にそれ食べようね」<br />　そういうとティックは車を道ばたに停めた。周りを視線だけで見回す。住宅街で、それほど人が隠れる事が出来る場所というわけでもあるまい。<br />　エンジンを停止し、鍵を引き抜く。それをしっかりとジャケットのポケットにしまったあとドアを開いて外にでる。感覚を研ぎすませ相手の数と存在を確かめる。自分に対しての敵意とその数をティックは手に取るように感じることができた。<br />「やっぱりあんたはあんただね。こんにちは。ファースト」<br />　声が響く。癖があって、他人を小馬鹿にするような物言い。あまり聞きたい声ではなかった。<br />　記憶の奥底でずっと眠っていた嫌な流れが波打つような感覚。<br />「イヴ......なんでここにいるの」<br />「さあ？　なんでだろうね」<br />　こちらの驚きをよそに彼女------イヴはサングラスを外してこちらを見つめてきた。相手を値踏みするように相手をみるその表情はどうやったら作れるんだろうと思う。<br />「あんたがここにいると聞いたからさ。やっぱりその子と一緒か。ジン・シュルート」<br />　そういってイヴが車の中に視線をやる。一瞬目があったジンがすくんだことにティックはかるく舌打ちした。<br />「一緒だとどうなるの？」<br />「どうにもこうにも、手間が減ってよかったな、と思うだけ」<br />　そういってこきり、と首を鳴らした。さらにこちらに向かって一歩踏み出すとイヴは言ってきた。<br />「あたしの要望はひとつだけだよ。この街からでてってもらえるかい？」<br />「またそういうことを」<br />　ティックは額に手を当ててうめいた。<br />「でてかないと、どうなるの？」<br />「あんたをちからずくで消去しないといけなくなるね。それでもよければ」<br />　ティックは無言で頭を振ると目を閉じて、それから再び相手をにらんだ。普段の優しいティックを知る人間からしたら想像できない視線だった。<br />「誰といようと勝手だよ。君たちになにをいわれても、今の私はここからでていくつもりはないよ」<br />　そこまでいいきると、ティックはイヴから距離を置くように後ろに下がった。その手はジャケットの後ろにかけたホルスターにのびている。ジンを守るために身につけていたハンドガンが収まっているが、果たして相手より早く抜けるかどうか。<br />　いざとなれば力を発動させるまでだが、住宅街で使いたくはない。<br />　さて。<br />「物わかりの悪さは五年前と変わっちゃいないね。もうちょっと成長したもんかと思ったのに」<br />　相手がそこまで言うのを聞いてから、ティックは怪訝そうに眉根を寄せた。<br />「にえきらないやつ」<br />　そうイヴがつぶやくと同時に、飛来した銃弾がティックの左肩を貫いた。<br />　銃声がなかった。殆ど不意をつかれたそれは無抵抗のこちらの肩を焼いて貫き、背後にあった標識にあたってはねる。<br />　激痛に声にならない悲鳴をあげ、倒れ込んだティックを一瞥したあとイヴが振り返って叫ぶ。<br />「まだ撃てとはいってないだろ！」<br />　そういって彼女が手をあげると、その指から一筋の光が一点に集中した。<br />　後方の民家に隠れていた一人の男が倒れ込んだ。<br />「やれやれ......言う事聞かないヤツがいると困るよホント。あんたもね」<br />　そういうと、イヴはこちらを見下ろした。左肩から流血しながら地面に倒れ込むティックの腹を蹴りとばすと、きびすを返した。それからこちらを見下ろすまでもない、とでもいうように、<br />「明日まで、猶予をあげる。それまでにあんたが出て行かなかったら、わかってるね。覚悟しておきな」<br />「うるさいなあ......」<br />　そうつぶやくと左肩を抑えながらのっそりとティックは立ち上がった。イヴが乗り込んだ車が走りさるのを見送り、大きく嘆息した。<br />　傷は痛むが抑えれば大丈夫だろう。トランクをあけ、そこにあった救急道具と包帯を手に取り、シャツの上から巻き付ける。これで帰宅するまではおそらく大丈夫なはずだ。あとはアルフィに処置を任せれば問題はあるまい。<br />　人工皮膚の再生は意外と楽にできる。ということをアルフィから教えてもらっていた。<br />「ティック！」<br />　と、こちらのそばにジンが駆け寄ってくる。<br />「大丈夫？」<br />「大丈夫だよ。なんとか追い払ったから......」<br />　そういって笑ってみせる。彼の視線がこちらの左肩にくる前にティックはジャケットを羽織っていた。<br />　手元が血でかるく黒ずんでいる事に、彼が気づかないことを心の中では祈っていた。<br />「それじゃあ、いこうか。もうちょっといくと着くよ」<br />　トランクを閉めてジンに笑いかける。<br />　いつもの笑顔に比べると、ティックの顔は蒼白だった。<br />]]>
        
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    <title>5</title>
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    <published>2007-09-05T05:52:59Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:29:55Z</updated>

    <summary>　キリィ・M・イレヴンスは街のとある酒場のカウンターにいた。とくに客入りもなく、...</summary>
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        <![CDATA[　キリィ・M・イレヴンスは街のとある酒場のカウンターにいた。とくに客入りもなく、カウンター席は彼女一人しかいない。それもそのはず、今の時刻は午前十一時。こんな時間から酒をあおる人間などいようはずもない。<br />　ちょうど一仕事終え、ひと酒のつもりで入るような酒場はここぐらいしかない。24時間営業の酒場だから特に気にならないとはいえ、強いのも考えた方がいいかもしれない。<br />　イヴは目の前に置かれたグラスを無造作に掴むと一気にあおった。かなりきつい酒だがあまり気にならない。嫌な事も忘れさせてくれるこの一瞬がイヴは好きだった。<br />　煙草はやらないが酒は好きだった。そもそも自分たちの脳にこれがなにか影響を及ぼすのかといえばそれもまた微妙なところではあるが、この「酔う」という感覚はなにに変えようも無い。<br />「またずいぶんといいご身分だな。お嬢さん」<br />　と、となりに一人の男が座り込んできた。知らない男だったら無視するところだったが、どうやらそういうわけではないらしい。<br />　隣に座り込んだ浅黒い肌の男を横目で見ながら、<br />「なんだい。仕事の時間は終わったよ」<br />　ぶしつけな口調でそういうと、イヴはグラスを置いた。すでにその中身は半分ほど減っている。波打つグラスの中を見つめながら大きく嘆息した。<br />「いまやっと一事件おえたとこなんだ。またここで変な依頼すんのはやめておくれよ」<br />「ああ、俺の考えていることはわかってるんだね。まさにいま依頼をしにこんなど田舎までやってきたっつうのに」<br />「帰れ」<br />「や、この適任者は君しかいなくてね。君にとりあえずお願いできないかなとおもって」<br />「絶対？」<br />「ああ。金と人をつかっていいから僕の話を聞いてくれないかな？」<br />　そういって男は人懐っこい笑みを浮かべてこちらを見つめてきた。その笑顔を横目でみやりながらイヴは唇を尖らせた。<br />　男の名前はリコ・バルクレッド。南方の国の血を引いているため肌が浅黒く、染めているのかどうかわからない金色の髪の毛がさらさらと揺れた。<br />「ミーティック・ライゼンを知ってるね？　あの娘がこの街に来ている」<br />「なんだって」<br />　リコの言葉にイヴは静かに反応した。<br />「あれがきてんの？」<br />「その娘が邪魔なんだ。始末をお願いしたいんだけど」<br />「なんでいまさらでてくるのかな。もう三年前で終わったもんだと思ったのに」<br />　そうつぶやくとのこった酒をすべて口に含んだ。それを嚥下してから大きく嘆息する。イヴの青白い肌が酒の酔いとは別の赤みを帯びたのにリコは気づかなかった。<br />「あいつ一体なにやってんだろ」<br />　つづけたイヴのつぶやきを無視して、彼はつづけてきた。<br />「君と彼女の関係はよく知らないけど、とりあえず段階をふんでやってほしい。いきなり強襲は法に触れるからやめておいてくれると助かるな。報酬は前払いで君の口座に振り込んでおくよ。ほかに聞きたい事は？」<br />「あいつはどこにいるの？」<br />「この街の外れにある高台の屋敷にいるらしいね。後で地図を送っとくよ。期限は......そうだな。一週間以内におねがい」<br />「はやいのね」<br />「僕の法的手続きがさ来週でね。それまでにアルフィ・シュルートを説得しなきゃいけない。そのためにはあの弟シュルートの身体が必要なのさ。というわけで、よろしく。必要なものはある？」<br />　しばらく考えこんだあと、イヴは三杯目のジンをバーテンに注文するとリコのほうを向き直って、<br />「G薬品を三つ」<br />　と言った。<br />「あれをつかって何をするんだ」<br />「あたしの勝手でしょ。それをくれればやるよ。あと報酬をね。よろしく」<br />　イヴは悪巧みを思いついた子供のような笑みを浮かべると、天井で回転するファンを見つめた。<br />　数年前の出来事を反芻していると、やがて飲み物が運ばれてきた。イヴはそれを一気にあおると、残った虚無を床に吐き出した。　<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　ティックが車庫をあけると、そこには車が三台置いてあった。<br />　どれも清掃の機械が定期的にメンテナンスしているらしく、普通に使える状態だ。出かける分にはそれほど問題はないだろう。その中の右端にとめてあった青いスポーツカーを選ぶとそのドアに手をかけた。車の表面は傷一つなく、滑らかだった。<br />　壁にかかっていた鍵を手に取りその中の一台のドアをあける。中も外観同様綺麗にクリーニングされていて埃一つみつからない。怪訝に思いながらその事に乗り込んでみる。<br />　ふさふさしたキーホルダーがついている鍵を差し込み、エンジンをかける。<br />　エンジン音はそれほどうるさくない事を確認してほっと息をつく。これならすぐ出かけることができそうだ。<br />　体重をシートに預けて一息つく。<br />　と。<br />「車でいくの？」<br />　車庫の入り口にジンがいた。ティックは軽く頷くと、<br />「車じゃないと下までいくのに疲れちゃうよ。大丈夫？　歩いていきたい？」<br />　と言った。彼は車の隣まできて助手席のドアをあけると、戸惑った顔で、<br />「......どのくらいあるの？」<br />「数キロはあるんじゃないかな。でも、車の中からでも景色は見えるよ」<br />「うん。じゃあ車でいく」<br />　笑ってみせると、助手席に向かって顎をしゃくってみせた。<br />「乗って。運転は私がするから」<br />　そういってティックは自分の方のドアを閉めた。ジンが隣に乗り込むのをみて安堵する。<br />「スピードはださないつもりだけど、一応ベルトしめてね」<br />「うん」<br />　彼が返事くるのを受けてふっと笑ってみせた。手元のモバイルは十一時を少しすぎさしている。<br />　鞄を後部座席においてからティックは車を発進させた。<br /><br />　二人はしばらく山道をドライブした。<br />　ジンが窓から見える景色をじっとみつめているのを一瞬横目でみて、ティックはほっとした。彼が外に　出たがらないのではないかと不安になっていたからだったが、そういうわけでもないらしい。アルフィの言葉では自閉症ということだったが、そういうわけでもなさそうだ。<br />　ハンドルに手をかけ前を見つめながらティックは口をひらいた。<br />「どこいきたい？　どこにでもいけるよ」<br />　青いスポーツカーはくねる山道を走っていった。シュルート邸はそれほど込み入った場所にあるわけでもないが、小山の上にあるので下におりていこうと思うとそれなりに長い道を通る事になる。<br />　ふとジンが学校通うときはどうしているのだろうかと疑問がわいたが、口には出さなかった。<br />　その彼はしばらく考え込んでから、<br />「どこだろう。お金はあるの？」<br />「ん、途中でおろすよ。アルフィから借りてる口座があるからね」<br />「カードで買い物すればよくない？」<br />　そう言ってくる彼に対してティックは笑いながら答えた。<br />「現金のほうが使った額が目に見えるから良いんだ。私はそのほうが好きかな」<br />「ふうん。で、どこいくの？」<br />「そうだなぁ。下の雑貨屋さんとかがたくさんはいっている通りにいこうか。みてるだけでも楽しいよ」<br />　そういって山道を抜けると二人の車は市街地に入っていった。<br />　住宅区を走り、途中のキャッシュディスペンサーに立ち寄った。<br />「ジン、お金、おろしてきてもらえるかな」<br />「僕が？」<br />「うん」<br />　そうティックが笑顔で頷くと彼は戸惑いの表情をみせた。<br />「おろしかたがわからないから」<br />「簡単だよ。案内にそってやればいい。カードをいれて、四桁の暗証番号を打ち込んで、金額をいれる。それだけさ。ほら。ついていってあげようか？」<br />「番号は？」<br />「君の誕生日」<br />　そういって促すとしぶしぶ彼は車をおりた。それからその四角いボックスにしばらくはいり、おろした紙幣を封筒に入れながらもどってくる。<br />「緊張した」<br />「そりゃね。いくらおろしたの？」<br />「十ドルを五十枚。これだけあれば足りる？」<br />「十分だよ。財布にしまっておいてね」<br />「ティックは？」<br />「私は自分でもってるお金があるから大丈夫。あ、カードは返してもらえるとうれしいな。それ、アルフィからの預かりものだから」<br />　そういってアルフィから借りたカードを受け取ると、ティックはジンがシートベルトを再び閉めたのを確認してから車を発進させた。街の中心部、商店街にむかって。<br /><br />　その後ろをつけるように一台の車が走りだした事は、二人とも気づかなかった。]]>
        
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    <title>4</title>
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    <published>2007-09-04T05:51:29Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:27:53Z</updated>

    <summary>　ある日、いつも通り機械がやってこないことに、ジンは違和感を覚えた。「いつもくる...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　ある日、いつも通り機械がやってこないことに、ジンは違和感を覚えた。<br />「いつもくるはずなのに」<br />　小さくつぶやくと、読んでいた本を放り投げた。それは一メートル先のテーブルの上に鈍い音をたて、そのまま埃をたてて床に転がった。<br />　今まで口に出さなかったが、家の中に年上とはいえ若い女性がいるというのは緊張する。いままでそういうこと考えた事はなかったわけではないが、まともに話すことなど殆どなかった。同い年の子と話したことは殆どないし、年上となればなおさらだ。<br />　なにより何を話せばいいのかわからない。<br />　彼女はしばらくこの屋敷にいるのだろうが、それ以前にいまさらあの女性を向けてきた姉の真意がいまいちつかめない。そもそも幼少時代からめったに話す事の無かった弟に対して。<br />　機械のメンテナンスすら自動的になっている今は、別に今すぐ自分にかまわなければならない理由はない。それほど。<br />　だが食事がこないのは困る。ジンは立ち上がると様子を見にでかけようとした。<br />　と。<br />　ドアが突然ノックされる。<br />「はいるよ」<br />　彼女だ。<br />「げ」<br />　ジンは小さくつぶやくと、部屋の中に急いで戻った。そのままベッドの下に隠れ込む。<br />　こちらが隠れ込むと同時に扉が開き、食事をもった彼女が入ってきた。<br />　名前はティックといったか。そのまま部屋に入ってくる。<br />「なんだ、しゃべれたんじゃん。てっきり口きけないものだと思ったよ」<br />　機械がやってくれることなのに。どうして今更。<br />　心の中でいつも持ってきていたあの呪う。<br />「まあ、無理しなくていいよ。あの機械とまっていたから私が作ってもってきたよ。メンテナンスされてなかったみたいだからあとで直しておくね」<br />　そういって部屋の中に入ってくる。ジンの机の上に食事を置くとベッドの下を覗き込んできた。<br />　ばれていたことに驚くと同時に目があう。なぜか体をひいてしまう。<br />　だが彼女はにっと笑うと、こちらの手元に便せんをおいた。<br />「無理はしなくていいのさ。一番安全なのは、ベッドの下だもんね」<br />　それだけ言い残すと体を起こして部屋からでていく。静かに扉が閉められる。こちらを驚かさないようにしているのだろう、心遣いがこちらにも伝わってきてどこかしんみりした。<br />　ジンはベッドの下から抜け出すと、彼女がもってきてくれた食事をみつめた。<br />　手作りなんて何年ぶりだろう。<br />　嬉しさがこみあげる。当たり前の事が、なぜかひどくありがたく思えた。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　けっして破壊したわけではないのだけど。<br />　ティックはそう思うと、目の前に転がった機械を見つめた。<br />　機械工学のデータはティックの脳の中にインプットされているので、特別直すのが難しいわけではない。<br />　だが。<br />「なんだろう。これ......」<br />　その機械がジンの部屋に運ぶ料理に含んでいたのは、なにやら妙な液体だった。<br />　わずかな量で、カプセルには小さく「無味無臭」とだけ書いてあり、その横に「G」とだけ表記されていた。破壊しなければ気づけなかったろう。<br />　中に入っているものを解析する力はないが、あからさますぎるその物体をみて軽く苛立った。誰にというわけでもなく、どこにというわけでもなく。<br />　ティックはそれをポケットにしまうと、その機械を修理するのをやめた。それを横に押しやり床に座り込んだまま息をついた。<br />　この機械はこの怪しげな薬を作って作るように以前からプログラミングされているのだろう。それをジンに運ばせていたのだからどんな結果になるかは想像もつかない。<br />　あとでアルフィにきいてみよう。<br />　そう心にきめると、ティック別な機械が運んできた大量の食材を見つめた。普通の、新鮮な食材だというのは一目で分かる。ティックの目からみてもそれはわかった。だが。<br />　野菜や肉等の中に、小さなカプセルがひとつ、おいてある。<br />　それも掴んでポケットにしまった。<br />　<br />　手紙は読んでくれただろうか。<br />　ティックが書いたのは簡単な手紙だ。ほんの数行。<br />　自分の事を少しと、今の状況。<br />　あと彼と仲良くしたいこと。<br />　素直にかけば、きっとわかってくれるはずだ。<br />　そう信じて自分の食事の準備にかかった。<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　そうしてティックが食事を持っていくようになってから、数日が経った。<br />「嫌われてるのかと思ったよ」<br />　ティックはそういうと、ベッドに座り込んでいるジンのそばにトレーを置いた。<br />「もっと早く話かけてくれればよかったのに」<br />「女の人と話すのなれてないから」<br />　両手を腹部で組合わせ、彼は目を伏せて小声でつぶやく。なかなか目をあわせてくれない。<br />　どうもこちらにたいする苦手意識は変わらないらしい。だがそれがティック自身にたいするものではなく、もっと別なところにあることに安堵した。<br />　軽く息をつく。彼の歳であれば克服もできるはずだ。アルフィをみてきた経験からいえばおそらくそれは間違いない。だがはたして彼女と同じようにいくかどうか。<br />「でかけようか」<br />　疑問系ではなく、かといって命令するわけでもなく。<br />　そんな口調で言うと、ジンが目をまるくした。<br />「え」<br />「この街さ、結構かわいいお店あるんだよねぇ」<br />　何にともなくつぶやいてみせる。彼の反応を軽く伺いながら。<br />「え？」<br />「外いこうよ。気分転換にはなるよ。あたりまえだけど」<br />　女の子----自分をはたしてそう呼んでいいのかどうかは謎なところだ。もちろんアルフィの服をかりて街を歩いていれば誰かに声をかけられることなどもあるが、そこまでティックは自分を女性として自覚したことはなかった。<br />　だが目の前のこの少年は、ティックのことを女性だと思っている。そのために話すのをためらっている。<br />　そこから前にいくためにはそれを意識した話し方をしてあげなければならない。が。<br />　ティックはそれを知らなかった。が、意識する必要もないと思っていた。<br />「準備しといて。十一時にここでるよ」<br />「う、うん」<br />　彼がうなずくのをみて安堵する。自分は拒否されていない。彼が抵抗しているのは女性に対する感情だ。十三歳。まだまだ子供だが大きく成長する過渡期でもある。<br />　こちらでどうにか出来る問題ではない。が、手助けしてやることはできる。<br />　ティックはそう結論づけると、ドアを開いた。<br />「じゃ、また」<br />　そういい残して部屋をでる。腕時計を見ると時間は八時。あと三時間ある。<br />　気が変わらない事を祈りながら、ティックは廊下を歩き始めた。<br />　]]>
        
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    <title>3</title>
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    <published>2007-09-03T12:29:17Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:26:43Z</updated>

    <summary>　シュルート家の私邸はアルフィの研究所の最寄り駅から二回電車を乗り継いだ、終電の...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　シュルート家の私邸はアルフィの研究所の最寄り駅から二回電車を乗り継いだ、終電の場所にあった。<br />　公共鉄道が円を描くように走るミグフィールド市の最北端の駅を降り、さらにそこから走る私鉄に乗って三時間。この街はかなり広大だが、こうして移動するとその広さを体で実感する。<br />　その最終駅にその町はあった。電車から降り、ホームでアルフィから借りた白いオーバーを羽織るとティックは薄く雲がかかった空をみた。<br />「雨ふらなきゃいいけど。よっと」<br />　誰にともなくつぶやくと、持ってきた大きなドラムバッグを背負い直した。着替えと、数日分のグルトリン。あと、暇つぶしのための書籍を何冊か。<br />『長くなるかもしれないから』<br />　アルフィはティックに準備をさせながら、そういった。確かに長くなるかもしれない。<br />　彼はどんな人間なのだろうか。<br />　ロドリゴはしばらく会いにいっていたそうだが、最近は忙しく来ることはないらしい。アルフィはもう彼が学校に通いだした頃から会っていないという。ひょっとしたら成長した彼の顔もわからないのではないだろうかとティックは思った。そして、<br />　すさんでいないといいけれど。<br />　そんなことを考える。杞憂に終わってくれることを願いながらティックは荷物を背負い直すと、シュルート私邸への道を歩き始めた。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　そこは町のさらにはずれにあった。<br />　町の中にはスーパーや薬局等もあり、生活に困る事はなさそうだった。が、そのさらに外れにあるため、やや生活に困りそうな雰囲気ではある。<br />　誰が買い出し等しているのだろうと怪訝に思いながら、ティックはシュルート私邸の前に立った。<br />　高い塀が屋敷を囲い、その屋敷自体もかなり大きい。作りがかなり古く、歴史ある建物といった外観だ。だが手入れがされていないわけではないようで、見渡すと壁自体は傷はあまりない。<br />　アルフィから借りたカードキーを門に通すと電子音を鳴らして門が開いた。ジン一人しか住んでいないはずなのに、ゲート脇の草花はやたらと手入れが行き届いている。<br />　それらはずっと続いていて、私邸の玄関まで続いていた。曲がりくねった道の脇をすべて色とりどりの草花が覆い尽くしている。古めかしい建物と、その花々はどこかミスマッチだったが目をひく美しさがあった。<br />「すごいなあ。こんなところがあったんだ」<br />　そういって軽くつぶやきながら周りを見回していると、突然私邸の扉がなんの前触れも無く開いた。そちらに目をやると右手に如雨露を持った黒髪の少年が立っている。<br />「あ」<br />　お互いの視線がぶつかる。相手をみて声を出したのはティックだった。おそらく彼がジン・シュルートだろう。アルフィを子供にして男の子にしたらこんな感じなんだろうな、とティックは思った。くるくるした癖毛と癖のある目つきはどこか黒猫を想像させるようだ。<br />　ジンは突然現れた人間に反応できていないようだった。ぽかんと口をあけて、こちらを見つめている。<br />「こんにちは。ジン。私はティック。アルフィから君の護衛をお願いされたんだ」<br />　そういって相手に近づく。ジンはこちらに何かを言う訳でもなく、呆然とした表情でこちらを見つめている。<br />「しばらく私邸にお世話になるよ。よろしくね。ほかに誰かいないのかな？」<br />　そういってせめて握手ぐらいしてくれるだろうと手をのばすと、突然ジンは手に持っていた如雨露を放り投げ、くるりと身を翻して私邸の中に入り込んだ。<br />　目の前であっけなく閉じられた扉を見つめると、<br />「ねえ。大丈夫？」<br />　相手は何も言ってこない。<br />　こちらがドアをたたいても、ジンが何かを言ってくる様子はなかった。<br />　どうやら初対面から嫌われてしまったようだ。<br />「はぁ......」<br />　拒否られているということを感じると、どうも弱い。だがここで引き下がったらある意味負けだ。<br />「よっ」<br />　がちゃ。<br />　鍵がかけられているものだと思ったが、扉はあっさり開いた。ふと見上げると、ロビーの階段をぱたぱたと上っていくジンの後ろ姿が見えた。鍵をかけられていないということは完全に拒否されているわけではないということだ。ティックはそれを感じてわずかに安心する。<br />　それから自分の力をわずかに解放し、この屋敷の全体図を把握する。単純な構成だが何しろ広さが半端ではない。<br />　この屋敷に人は自分とジンだけのようだ。ほかに動く気配があるが、生命の意思がほとんど感じられないところをみると機械人形か、もしくは専用の機械が屋敷中を走り回っているのだろう。どちらにしてもあまり嬉しい状況ではない。この家は。<br />　しばらくしてからティックは上にあがるわけでもなく、アルフィから指示された自室にむかった。<br />　慣れてくれたとしても、そうでないとしても、あまり良い状態ではなさそうだ。<br />「まあ、しかたないか」<br />　とりあえずいるだけでも護衛の任務は果たすことになる。<br />　危険は無くてもまず慣れることが大切だ。<br />　そう自分に言い聞かせ、二階への階段をあがった。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　それから数日が経ったが、ジンとすれ違っても彼は特に何もいわなかった。<br />　ティックから話しかけても、すぐに顔をそらしてしまう。<br />　なにか話すきっかけがあればと思うが、彼がなにか話しているのをみた事が無い。電話すらしていない。<br />　しばらく観察していると、彼の一日は非常に単調だ。<br />　起きて、部屋で本を読んだり、コンピュータをいじる。時間がくると機械が彼の家に食事を運び、その後昼過ぎに外にでて庭の手入れをする。部屋に戻り、夜まで本を読んだりぼーっとする。夜の食事をとり、寝る。<br />　その繰り返し。学校に行こうともしない。身の回りの世話は殆ど機械が行っていた。シュルート家の科学力の産物たち。<br />　ティックは怪訝におもい、ある日アルフィに電話した。<br />「おかしいよ。アルフィ。彼、一言もしゃべってくれないんだ」<br />「そう」<br />「しゃべるしゃべらないの以前に、彼は口がきけないんじゃないかな？」<br />　そういうと庭で花をさわっている彼を見下ろす。こちらに監視されていることを意識しているのだろうか。<br />　それともあれが普段の姿なのだろうか。<br />「あの子は神経症かもしんないけど失語症じゃないわ」<br />「それをいうなら失声症じゃん。そっかあ。にしては口きかなすぎじゃないかなと思うんだけどさ」<br />　窓から視線をそらし、部屋にかけてある絵に目をやった。白い壁があまりに殺風景だったのでここにきてからティックが取り付けた物だ。それを見つめながらぼんやりと考える。<br />　だが、アルフィから返ってきた答えはあまりに簡素なものだった。<br />「でも、わたしは仲良くなれとはいってないし」<br />「そうだけど」<br />　そうだ。自分はボディガードにきたのだった。本来の目的を思い出して少し気落ちする。<br />　深く呼吸すると、吐き出すと同時につぶやくように言った。多分アルフィにも気づかれただろう。<br />「そうだったね」<br />「本来の目的を忘れちゃだめだよティック。そこにいることに意味はあるけど、何のためにそこにいるのかは覚えといてね。多分、大丈夫だと思うけど」<br />「うん」<br />　作り主の言葉に頷くとティックは再び外をみた。どちらにしてもあまり良い状況ではない。アルフィからすれば良い状況かもしれないが、自分としては楽しい状況ではない。どうせここにいるなら楽しく過ごしたかった。向こうの街にいるときのように。<br />　少なくても、危険が迫らないうちは楽しくあってほしい。<br />「誰もこないけどね」<br />「それが一番だよ。今のうちはね。とりあえずよろしく頼むね」<br />　そういって彼女は電話を切った。ティックもモバイルの通話ボタンをきると再び外に目をやった。手を泥だらけにしたジンが屋敷に戻ってくるところだった。こちらに気づいているのかいないのか、視線を向けてくることもない。<br />　ビジネスライクという言葉はティックが一番嫌いな言葉だった。特にこういった場面では。<br />　他の仲間たちはできるのかもしれないが、自分はなじめないのだ。それはこうしてできた性格上仕方ないものなのかもしれないが。<br />「よぉし」<br />　モバイルを放り投げると大きく意気込んで、ティックは部屋をでた。]]>
        
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    <title>2</title>
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    <published>2007-09-02T12:28:20Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:25:28Z</updated>

    <summary>　窓から入り込む陽光が顔をさす。　ごぽり、と音がして、ティックはその液体の中で静...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　窓から入り込む陽光が顔をさす。<br />　ごぽり、と音がして、ティックはその液体の中で静かに、うっすらと目を開けた。<br />　この角度で光が入り込むということは、今の時刻はAM10:00ほどか。<br />「ほぼ正常値、かな。問題なくてよかったわ」<br />　若い女の声。<br />「今回は筋肉の再生が意外と早かったな。まあ、合格か」<br />　こちらは少し年配の男性の声だ。<br />「衰退が意外と進んでいたのがびっくりだけど。とりあえず補給は定期的にやんなきゃってことだね。ある耐久実験みたいなものか」<br />「違うだろ。こいつの性格は把握してるんだろう？」<br />「うん」<br />「命を預かっているということを忘れるな」<br />「わかってるって」<br />　そういうと、彼女は手元のタイマーを見やった。<br />「後数分かな」<br />「そうだな。今回は損傷が少ないから皮膚のみになるな。感覚系まで及んでなくてよかった」<br />「そうだね」<br />　こちらが既に覚醒していることに気づかないのだろうか。<br />　女の名前はアルフィ・シュルート。ティックの作り主だ。かなり才能にあふれた人間だ。プログラマー、科学者、マッドサイエンティスト、本人は自分をドクターと呼んでほしいようだったが、仲間たちに彼女をドクと呼ぶ者はいない。元国立研究施設の研究員だ。<br />　アルフィは背が低いが、それほど若い女というわけではない。二十代後半だったかと思う。ウェーブのかかった黒髪を揺らしながらティックがはいった機材から離れると、彼女は自分のコンピュータに触った。<br />「市議会からパーティのお誘いがきてるんだけどさ。いきたくないんだよねー」<br />　アルフィがメールの一つを開いてため息をついた。ゆったりとした自分の椅子に座り込み、だらりとだらしなく座り込んだ。<br />　後ろに立っていた年配の男性がうっそりと返事をする。<br />「いったらいいじゃないか」<br />　彼はロドリゴ・シュルート。アルフィの父親だ。白髪なのか銀髪なのかわからない頭髪と壮年とも中年ともいえる微妙な顔立ちのせいでいくつかわからないような男だった。彼はそのまま部屋を横切り、自分の机に向かう。<br />「私はいかないがね」<br />「また？」<br />「国家権力に情報はわたさないさ」<br />　アルフィのあきれたような返事を気にも留めず、そういうとロドリゴは手元のワークステーションの前に座り込んだ。キーボードのキィを指ではじいていろいろ思考しているようにも見える。<br />　と。<br />　アルフィの隣にあったタイマーが鳴った。それが「0」をさしているのを確認し、腕をのばしてベルを止めると、彼女の視線がガラス容器の中のティックに向けられる。<br />「時間ね」<br />「わかった。おろすぞ」<br />　ロドリゴがキーボードをたたくと同時に、ディスプレイに黒と白の文字列が並ぶ。続いてアルフィがティックが入っている巨大なガラスの機材のスイッチをおろした。<br />　機械のギアが入れ替わるような巨大な音が響くと同時に、ティックの体に刺さっていた黒いコードが引き抜かれる。続いて中を満たしていた薄い青色の液体が排水されていく。<br />　そのまま椅子に座ったティックが地面におろされると、隣にアルフィがやってきた。<br />「おはよう。気分はどう？」<br />「......眠い」<br />　そういうと、ティックの腕を椅子に縛り付けていた皮の器具を外していく。ティックはぼんやりとアルフィの顔を見つめ、無表情で、<br />「......やつれた？」<br />「第一声がそれ？」<br />　彼女はそういうとこちらを縛り付けていた器具をすべて外した。腕をのばしてティックを抱き起こすと軽く嘆息した。<br />「毎日ルトリン飲まないといけないって何度言わせるの。人間だって三日ご飯抜いたら動けないのに。一週間ぐらい大丈夫だと思ってる？」<br />　怒る、というよりは叱る、といった口調だった。<br />　ティックは彼女から目線をそらし、部屋の南側の壁を殆ど支配しているガラス窓を見た。通りを挟んだ向かい側のビルでは大勢の人間たちがせわしなく動いているのが目に入る。<br />「気をつけるよ」<br />　いわれたからしたとばかりに気の入っていない返事をすると、ティックはアルフィから離れ窓際にむかって歩いた。窓から見下ろした先には車と人が絶え間なく往来している。<br />　後ろで彼女が嘆息するのが聞こえた。が、あえて聞こえないふりをする。これで二回目。<br />　ティックは部屋の片隅においてあったコーヒーメーカーの中にコーヒーが入っているのをみると、近くにあったカップに中身を注ぎ、アルフィのほうをみた。<br />「で、なんで呼び出したの？」<br />　こちらの問い彼女は答えず、後ろで自分の席のディスプレイを眺めているロドリゴに向き直った。<br />　彼の方にすこし近づくと、<br />「パパ、ティックと二人で話したいんだけど、いいかな」<br />「ああ。いいよ」<br />　こちらとアルフィを見比べた後、彼は軽くうなずいた。それから机の上のシガーケースとライターを掴むと席をたつ。部屋から追い出されたことを気にしている風でもなく、なにも言わずに部屋を出て行った。<br />　その彼をみていると、もうなんどとこういったやりとりを繰り返したのだろう。<br />　その後ろ姿を見送ってから、アルフィがこちらに向き直る。<br />「あの人もだいぶやつれてるんだから、疲れさせないでよね」<br />「休みなよ」<br />　そう小さくつぶやくと頭を抱えた。彼女の年齢は若くはないが、この研究を進めている人間たちの間からすればまだ若いほうだ。研究職と六人の管理----もとい保護者役をやっているのだから疲れて当たり前だろう。<br />　ティックは部屋にあった来客用のソファに座り込み、そこまで考えてからフィークの存在を思い出した。<br />「そういえばいないね。あのこがいたら楽になるんじゃない？」<br />「フィーク？　昨日ちょっと遠くに使いにだしてあるの。帰ってくるのは来週だよ」<br />「ふーん。で、何の用なのさ？」<br />　足下に転がっていた自分の服を着込みながら訊ねた。<br />「悪いニュースだよ。まだ裏の情報だけどロッセル・ヘラルド社のリコ・バルクレッドが正式にバックノウザー法に批准するみたい」<br />「え」<br />　ティックは飲みかけのコーヒーを吐き出しそうになった。<br />「彼ってミラーリングに成功してたんじゃなかったけ。たしか」<br />「そう。おかしいよね。オープンソースにしてるわけでもないのに、勝手に他人のをコピーして、進めちゃったんだから。それで作ったものは別な形の正式版だって言い張るの」<br />「まあ、動くようになっただけでもすごいんじゃないかなーとは思うけど......で、まあその科学者様がシュルート先生に何の用なの？」<br />「これを機会に一体、オリジナルの引き渡しを要求してきたの。正確には、期間限定の研究用の交換かな」<br />「げ」<br />　口の中にコーヒーが入っていたら間違いなく吐き出していたことだろう。ティックは半眼で目の前のカップで波打つ黒い液体を見つめた。<br />　震える手を押さえ、テーブルに静かにカップをもどした。<br />「私は嫌だよ」<br />「暇でもいかせはしないわ。何の理由があって共同開発しなきゃいけないの」<br />　こちらを安心させるためか、笑ってみせてくる彼女だが、どこか徒労感が漂う笑みだった。すこし申し訳ない気持ちになりながらティックがうなずくと、<br />「あ、返事はそう返したの？」<br />「というのをオブラートに書いて送っておいたんだけど」<br />　さらにアルフィはつづけてきた。<br />「なんかその後マフィア？に逆に脅されちゃったのよね。ロッセル・ヘラルド社の後ろに後ろ盾の組織があるところまではグトゥが突き止めてくれたんだけど、バルクレッド個人とのつながりが見えなくて」<br />「......」&nbsp;&nbsp; <br />　沈黙で視線をそらし、足を自分のもとに引き寄せる。アルフィの口調は軽いが、話している内容はかなり深刻だ。<br />「それって、私たちの命に関わる？」<br />「まだわからないわ。バルクレッドが直接言ってきたわけではないし」<br />　彼女はそういうと、自分の机の椅子に座り込んだ。机の上にあったチョコレートを掴むと割りもせずに口に運び、ばりばりと噛んだ。その話した内容を反芻しながら、ティックは天井を見た。<br />　やがて口の中の物を飲み込むと、アルフィは視線をあさってにむけ小さくつぶやいた。<br />「まいったわ」<br />「だろうね。私はどうすればいい？　傍にいればいい？」<br />「それより家族を失うのが怖い。誰かが死ぬって考えたくないんだ」<br />　彼女は一息にそういうと、大きく息をついた。着ている服が緩むくらいに。<br />　立てそうにない彼女に静かに近寄った。彼女の頼りない肩に手をのせると、<br />「私ならしばらく暇だよ。なんかやれることがあったら」<br />　こちらの手を握り返して、アルフィが力のない笑みを浮かべてみせてきた。<br />「グトゥがこっちにいるし、レックスも戻ってきてくれたから私とパパは大丈夫。ティックはジンのところにいってくれるかな」<br />「ジン？」<br />　聞き慣れない名前がでてきて、一瞬ティックは面食らった。<br />「誰？」<br />「私の弟。私邸に一人でいるんだ。守ってやってくれないかな」<br />「アルフィ弟なんていたの？　というより私邸って？　そんなのあったんだ」<br />「公邸と私邸があるの。シュルート家はね。その辺りの説明はそのうちするわ。で、その私邸の方に弟が一人、住んでるんだ。ジン・シュルート。十三歳か、そこらだったと思う」<br />「へぇ」<br />　アルフィは写真と地図をプリントアウトすると、ティックに渡してきた。その書類には私邸の風景と場所が載っていた。ハミングフィールド市郊外にある小山の中の高台にあるようだ。<br />　さぞかし見晴らしはいいんだろうな、と思いながらティックは口を開いた。<br />「これって、一般に公開されているの？」<br />「ジンが学校いってれば公開されているけどシュルートなんて名字ほかにもいるからね。私の弟ってわかるとこういうことになるかもしれないと思ったから、君らにも誰にもいわなかったの」<br />「うん」<br />「裏組織がどんな調査しいてるかわからないからさ。もし、私と兄貴とパパが殺されても、彼がいれば。だから、守ってやって」<br />　こういった心配ごとをなるべく減らしてやるのも仕事のうちだろう。<br />　ティックは数秒間考えたあと、アルフィに向かって軽くうなずいていた。<br />「わかった。任せておいてよ」<br />　楽しみにしている一方でどこか怖くもあった。<br />　そんな不思議な気分が渦巻いていた。<br />　]]>
        
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    <published>2007-09-01T11:03:20Z</published>
    <updated>2009-07-19T23:22:36Z</updated>

    <summary>　水が、流れている。　朝特有の冷たい空気が頬をさし、街を流れる水道の流水音が耳に...</summary>
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        <![CDATA[　水が、流れている。<br />　朝特有の冷たい空気が頬をさし、街を流れる水道の流水音が耳にはいる。<br />　地面は芝生がしかれていて、水が流れている隣が広い公園になっていた。向こう岸では高くそびえ立つ古びた建物群が街の風景を作り出している。<br />　そこにあるベンチにミーティック・M・ファーストは横になっていた。<br />　目をあけてぼんやりと空をこうして眺めていると、細かいことで悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しく思えてくるから不思議だ。荒んだ心を癒されていくのが分かる。<br />　金髪碧眼の二十代前半の女だ。ブロンドはさらりとしたストレートで、ベンチに横になっていなければ腰に届くか届かないかぐらい。柔らかい雰囲気の顔立ちのためどこか幼く見える。<br />　外見はは普通の女だが、実は人間ではない。<br />　目をあけてふと息をつく。公園の時計に目をやると五時前をさしている。建物の向こう側に朝焼けが顔をだし、街全体に忙しい一日の始まりを告げようとしている。そんな時間だ。労働者たちからすれば憂鬱になる朝とでもいうのだろうか。<br />　が、ティックは朝は好きだった。人間たちがせわしなく動き始める午前。その時間より前の時間帯の街をぶらつくのはここしばらくの楽しみになっていた。<br />　仲間たちからはもっぱら年寄りくさいといわれているが。それもまあいいだろう。<br />　朝の空気に頬を撫でられるのを感じるように目を閉じた。<br />　と。<br />「ティック」<br />　聞き慣れた声に名前を呼ばれ、ふと目をあける。視界の端に見慣れた赤があった。<br />「レックス......どうしたの」<br />　体を起こさずにそちらの方に視線をやると、ティックと同年代の赤髪碧眼の男が立っている。<br />「どうしたのじゃねぇよ。アルフィが心配してるぞ」<br />　自分たちの親の名前を言ってから、彼は軽く嘆息した。それからこちらの頭の方に歩いてくると、ティックの寝転んでいるベンチの端に座った。<br />　彼の着ている服は黒い革でできた丈夫な戦闘服だ。あちこち汚れているのをみると、どうやら戻りらしい。「いつ帰ったの？」<br />　寝転がった姿勢のまま、空をみつめながらティックは口を開いた。<br />「ついさっき。この街で最後の仕事することになったから。アルフィのところから通おうと思ってさ」<br />「じゃあしばらくこっちにいるんだね。よかった」<br />　ティックはそういうと体を起こした。それから固まった体をほぐすように首を鳴らした。<br />「よかったって、なにがだよ」<br />「みんないなくてさ。遊ぶ相手がいなくって」<br />「遊びに帰ってきたわけじゃねえっての」<br />　そういった彼の声はどこか自嘲気味に聞こえた。が、それには気づかない振りをする。<br />「嘘だよ。ひまなときかまってね」<br />「考えとく。っつーか、お前またしばらく帰ってねぇだろ」<br />「うん」<br />　そう答えると、ティックはのばしていた足を地面におろした。ちょうど彼に背中を向けるような形になる。相手のほうを見ずに即答し、そのまま足下の緑色の芝生に視線を落とした。<br />「別にいいじゃん」<br />「別に嫌ってるわけじゃないんだろ」<br />「うん」<br />　先ほどと同じ返事を抑揚のない声で返すと、彼はそれ以上何もいってはこなかった。<br />　しばらく二人の間を水の流れる音だけがながれてゆく。ひっそりとした朝特有の静謐な空気が辺りを包み込み、都会の猥雑な雰囲気を消していた。<br />　レックスの存在を意識しながらティックはベンチの背もたれに手をあずけた。レックスと間をおいて座り、体重を後ろに預けながらふと呟く。<br />「みんなは、気づいているのかな」<br />「なにが？」<br />「こういう、当たり前のものにさ」<br />「当たり前か？」<br />　レックスが疑うように言ってくる。その問いに答えるように、ティックはつづけた。<br />「この街さ、午前中人いるじゃん。でも、こうして朝とか、静かなときにきてみるとすごいきれいなとこいっぱいあるんだよ。そういうのに気づいていないのかなって」<br />　自分でいっていて、何を言っているのかよくわからなくなってくる。レックスと自分の間の微妙な空気を感じると、ティックはうつむいて途中で言葉を切った。<br />「まあ、そんな感じのことを思いました」<br />「わかるかよ」<br />　レックスが肩を揺らしてくつくつと笑った。その屈託のない笑い方に少し安堵する。<br />　彼は背もたれに肘をのせながら足を組み替えた。それから目の前の景色を見回すと、<br />「お前はさ、純粋だよな。ホント」<br />「よくいわれる」<br />　こちらの返事を予想していたのか、レックスそれを鼻で笑うと、<br />「でもさ、生きるためにいろいろやんなきゃなんないんだよ。俺たちもそうだが、周りもな。そんな生活してる中でわざわざ水が流れるだけの景色に目をむけるやつなんていないよ。あたりまえだからな」<br />「あたりまえかぁ」<br />　その当たり前を当たり前と思い込む事ができない自分は何なのだろうか。<br />　中途半端な心境をもっていることにどこか哀れみを持つこともある。<br />「そんなとこだ」<br />「うーん。そうなのかな。みんな、忘れているだけだとおもうんだけどなあ。ふととまって見つめたらみてくるんじゃないかなって。たまに思うよ」<br />「それはお前が優しいやつだからさ。よっと」<br />　そう答えるとレックスは立ち上がった。そちらをみずにぼーっとしていると、彼はこちらの腕をつかんで立ち上がらせた。<br />「わ」<br />「帰るぞ」<br />　そういってこちらの腕をつかんで、公園の出口目指して歩いてゆく。<br />「え、やだよ。まだここにいたいってば」<br />「帰ってねえやつがいう台詞かっての。せめてドリンクぐらい持ち歩けよ馬鹿」<br />「自分で帰るってば」<br />「そんな事いって帰った事無いくせに」<br />　話す内容はいやがっているが、ティックは口調を荒らげたりレックスの手を振りほどいたりはしなかった。手をおろして彼の手を握ると、そのまま素直に後ろに続いた。<br />　公園の出口を出るとき、二人の手が重なっていることに気づいたらしくレックスがこちらをみてきた。<br />「何笑ってんだよ」<br />「なにも」<br />　空いたほうの手で口元を押さえながら、ティックはすこしだけ肩を揺らした。<br />　こういう幸せも、悪くない。<br /><br />　水が流れる音は、どこまでも続いていた。]]>
        
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