エヴァーラスティング




 延々と続く黒い森の中でひとつだけ赤い点がゆらめいていた。

 ふと思うのだけどやっぱり世界はつまらないと思う。
「それはさておきってなんだよ。つまらなくねーぞ」
「つまらないんだよ。どれもこれも。僕を満足させるにはとても足りないようだ」
「お前理想が高すぎるんだよ。ちょっと前までは楽しい楽しいっていってたじゃないか」
 焚き火をはさんで向かい側にいる相手がこちらを見てそういう。だけど自分の意見が変わらないことにフキは気づいていた。
 そしてそれがこれからもずっと続くことも。
「そうだけどね」
 と小さくうなずくと、彼は、
「満足しろよ。世の中はこんなものだと思えばいい」
「こんなものだったら僕はもうすこしがんばれば宇宙の支配者にでもなれるんだろうか」
「はあ?」
「こんなもの、なのかな。僕が小さい頃あこがれてた世界の美しいものってさ」
「お前がそういうきれいなものみたいっていうから俺はつきあったんだが」
「いまのが全部なのかな」
「ああ。だいたいめぼしいところは回ったよ」
「ふむ------だとするなら」
 火が小さい。フキは近くの棒切れを手に取ると、そのなかに放り込んだ。
「僕が求めている美しいものというのはやっぱりみんなが知ってるところにはないのかもしれない」
「?」
 彼が不思議そうにこちらを見てくる。フキは続けた。
「ねえ、君がほしいものってなんだい?」
「なにをいきなり」
「答えてくれたまえ」
「そうだな。まず遠いどこかまで走っていける車輪がほしいかな」
「うん」
「あとこうやって休憩のたびに違和感感じたりしない旅のパートナーとか」
「はは。だね」
「笑ってる場合かよ。お前その性格なんとかしろよ」
「十九にもなれば修正なんてできないからね。僕と一緒にいるなら我慢しな」
「ちぇ、さとりやがって」
 そこでしばらく黙り込む。火にかけていたなべが沸騰したのを見てそれをとり、コーヒーを入れたマグカップに注ぐ。ミルクと砂糖を入れ、それをかき混ぜてしばらく待つ。
 フキはそこで顔をあげた。
「僕が変なのか」
「なんでそう思う?」
「いや、普通みんなすごいところいったらステキって思うじゃないか。でかい氷が解けるところや、膨大な水が吸い込まれるところ、大木だとか鯨だとか」
「君は二十メートル以上のものしか目にはいらないのかね?」
「そうじゃなくて。いや、それは違うよ。皆大きければステキ、みたことないからステキ、って思うんだけど僕の中にあるのはステキじゃないんだ。旅にでていろいろみてみたけどステキじゃなかったんだ。君と出会う前は本もたくさん読んだし、絵も見てきたけど自分にしっくりくるのは何一つとしてなかったんだ」
「......それは単純にお前が贅沢なだけじゃねえの?」
「違うんだよ、レオ。それは必然なんだ。だけど僕にとっては必然じゃないんだ。世界のどこかにしっくりくるものがあると思ったのにどこにもなかったんだ。みんなは外のどこかにそれを見つけているのに僕には......」
 そこでフキは黙り込んだ。なにを言いたいのかよくわからない。だが言いたいことはたしかに胸の奥にある。だがそのまわりにうずまくなにかがそれを拒んでいた。
 息を切らした。すこし暑さを落としたコーヒーを口に含んだ。きりきりくる胃には確かなものだった。この世界で、なにより。
 沈黙。
 森の中で広がる沈黙は恐ろしいのだろうか。そうは思えないのだが。
 と、彼が突然口を開いてきた。
「やめとけ。フキ。お前は多分見つけられないよ」
「......え?」
「おそらくお前は自分自身でなにかを作りすぎた......だからお前は自分が作るものでなければ満足はできないだろうよ。今日も、明日も、おそらくこれからもずっと」
「どういうこと?」
「わかるか? 創造者は創造されたものでは満足できないんだ。創造したものでなければ『うん』とは言わない。自分の理想系を常に求め続けるんだ」
「難しいなあ」
「それを難しいんだったらお前はまだまだ半人前ってことだ。世界を回る理由ができたじゃないか」
 彼がそういうのを聞いて、フキは押し黙った。それから星がちりばめられている空を見ると、長い長い息をついた。
「......寝るか。それとも星をみるか」
「星を見るのがいいと思うぜ。それで満足できなかったら明日も旅をしようじゃないか」
 焚き火の炎で体を赤く光らせている相棒を見つめながらフキはにっこり笑った。
「うん、そうだね」



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Dead on The Edge / srockstyle