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    <title>Dead On The Edge -- srockstyle short stories.</title>
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    <title>【秋花爛漫】あとがきのようなもの</title>
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    <published>2009-11-02T14:18:50Z</published>
    <updated>2009-11-02T14:19:54Z</updated>

    <summary>　はじめましての方もそうでない方もこんにちは。srockstyleの綾瀬です。　...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <category term="あとがき" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
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        <![CDATA[　はじめましての方もそうでない方もこんにちは。srockstyleの綾瀬です。<br />　短編のくせにあとがきなんて何様だ！帰れ！と言われるかもしれませんがとりあえず企画ものということであとがきっぽいのを書かせてもらいます。<br />　テーマが「秋」ということでハロウィンと紅葉、ハロウィンといったら仮装、仮装といったら魔女とかそういうのということで綺麗な物をみたがる魔女リリィとその使いクーペのお話です。<br />　ラストは決めていたものの流れが掴めず書くのを結構苦労しました。でも二人のやりとりも意外と書いてて楽しかったのでまたこういうの書きたいなあ、と思ってたら魔女とか魔法使いとかたくさんだしたらハリー・ポッターとまるかぶりやんか！てことで諦めました。<br />　かといって無意味に「だぜ！」とか言わせて男口調にしても東方プロジェクトの某魔法使いに似てしまいます。魔女ってありふれたキャラだけに個性つけるのが難しいのです。<br />　<br />　それだけにもっと書き込んでみたい気もしますが、それは僕のモチベーションとかそういうものがあがってきたら。また。<br /><br />　あと二人のイラストも常時募集してます。（これかい<br /><br />　それでは、ショートストーリィ秋の企画【秋花爛漫】をお読みくださってありがとうございました。<br /><br />　BGM "On" by Bloc Party<br />　 ]]>
        
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    <title>秋花爛漫　&quot;Autumn Supernatural&quot;</title>
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    <published>2009-11-02T13:34:02Z</published>
    <updated>2009-11-02T14:20:59Z</updated>

    <summary>＋＋　希望を言うだけなら　＋＋　その魔法使いは目の前の試験管から視線をそらすと薄...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <category term="story" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/deadontheedge/">
        <![CDATA[＋＋　希望を言うだけなら　＋＋<br /><br />　その魔法使いは目の前の試験管から視線をそらすと薄暗い天井を見やった。<br />「桜がみたいなあ」<br />　黒いローブがずるりと音をたてる。もう三日研究に没頭している彼女の服は床の埃がついていてあちこち薄汚い。部屋も掃除をしばらくしていないので床にうっすら埃がつもっている。必要な書物を手近にまとめているのもあって机の周囲はひどい有様だ。<br />「その心は？」<br />　後ろから声が聞こえてくる。魔法使いは手元の書物を眼前に持ってくるとその声に答えるように言葉を紡いだ。<br />「東洋の書物を読んだのだがね、桜って木があるらしいんだ。それはこう、なんていうんだ、綺麗な薄いピンク色をしていて、なんていうんだ、それで病気が治った人がいるらしい」<br />「それはないよ。リリィ」<br />　そういって後ろからぬっと出てきたのは巨大な黒い犬だった。魔法使いは本来黒猫を使役するものだがリリィとよばれたその魔法使いは"常識"が嫌いなはぐれ魔法使いだった。<br />　若返りの術を手に入れた彼女はやっと修行を終えて、いざ自由の身になったところだった。それでも日々勉強であることに変わりはない。とりあえず自身の従者として道端で拾った黒犬に術をかけ、彼の知識を人間並みに増幅させるだけはしたが、さあ次、いざ永遠の命となると何をするべきか悩んでしまう。<br />　そこで普段読みもしない東洋の本である。現れたその花、その木、その景色にリリィは心奪われた。<br />　だが色々問題もある。<br />「それっていつならみれんの？」<br />「むしろ東洋とかいってるけどどこだよそれって感じ？」<br />　隣にやってきた黒犬ーーークーペのほうをみながらリリィはへらっと笑ってみせた。どうしようもない。<br />「ここに載ってるのはじゃ......ジャパン？　JAPANって国だね」<br />「ニッポンでしょ」<br />　クーペの突っ込みがはいるがリリィはそれにはとりあわず書物を彼にも見えるように机の上に置いた。<br />「行きたいな」<br />「瞬間移動の魔法ってあったっけ？」<br />「あーあー、あれだけはあたし無理なんだ」<br />「箒で行く気？　地球の裏側まで？　馬鹿じゃないの？　凍死するほど寒いよ」<br />　皮肉っぽくいう彼にたいしてリリィは舌を出してみせた。<br />「あーあー、馬鹿ですよーだ」<br />「八十八歳にもなって」<br />「死ねワン公！」<br />　リリィが投げた本をよけるとクーペは息をついた。<br />「誰かわかるひといればいいんだけどねえ。桜かあ。僕もみたことないな」<br /><br />　と。<br /><br />　ちりーん。<br /><br />　玄関の呼び鈴の音が部屋に鳴り響いた。<br />「おっと、お客さんだ」<br />　そういってリリィは立ち上がった。<br />　その姿をみながらクーペは小さく呟く。<br />「せめて見た目ぐらいなんとかしなさいよ......」<br /><br /><br /><br />　＋＋　違いをのべよ　＋＋<br /><br />　リリィの屋敷は山奥にある。見た目はそれこそ幽霊屋敷という言葉が似合う建物だ。<br />　壁は薄汚れたレンガだが窓はしまっており、訪れるひとなどいないだろうな場所ではあるが、たまに立ち寄る客がいる。<br />　迷った登山客などがそうだ。<br />　リリィがでるとそこにいたのは若い男だった。この国ではみない顔をしている。<br />「こんばんは......」<br />　呼び鈴があるとはいえこの家に人が住んでいるとは思わなかったのだろう。その口からでてきたのはおどおどしているとはいえきちんとした英語だった。言葉はできるらしい。<br />「すいません。道に迷ってしまいまして。よろしければ一晩泊めてもらえませんでしょうか？」<br />　リリィがその男の肩越しに空を見上げるとすでに夜深かった。<br />「ええ、いいですよ」<br />　あっさり答える。どうせ断る理由も無い。こちらが魔女であることは知る由もないだろうが、襲われたところで普通の人間などどうにでもできる。後ろからクーペがやってきて扉を閉める。<br />　帽子をとるとその男は安心したように息をついた。<br />「ああ、よかった。慣れない樹海にはいってしまって。僕は登山家のゴロー・タチバナといいます。日本からきました」<br />「ニッポン？」<br />　クーペが後ろで呟く。そちらをゴローが振り向くが当然誰もいないので不思議そうに首をひねる。<br />「声が？」<br />「気にしないでくださいな。お茶をだしましょ」<br />　そういってゴローを促すと、リリィは彼に気づかれないようにクーペを睨みつけた。<br />　<br />　彼を座らせて紅茶を出すと、彼はそれを一口飲んで驚いたような顔をした。<br />「珍しい味ですね。初めてです」<br />「紅茶には詳しいんですか？」<br />「ええ、学生のときこっちに留学してて、それで。ホームステイ先が紅茶のお店だったので」<br />　だから英語堪能なのか、とリリィは思いながらあたりを見回した。変なものが転がっていないかどうか確かめると、先ほど放り投げた本が転がっていた。<br />　ゴローがそれをみて尋ねてくる。<br />「桜ですか」<br />「ええ、たまたまこないだ本屋で買ったら、ええ」<br />　ごまかすこともないことなんだけどなあ、と思いながらそんなことをいってみせる。すると彼はにっと笑って、<br />「今は秋ですよ。桜は春に咲くものなんです」<br />「日本は秋なんですか？」<br />「ええ。十月ですね。紅葉が奇麗ですよ」<br />「紅葉？」<br />「なんていうのかな......赤とかオレンジとかの葉っぱがあたり一面に広がるんです。ただ、すこし山を登らないといけませんが......それでもすごく奇麗です」<br />　ずず、と紅茶を啜りながら彼は言ってくる。<br />　リリィは顔をしかめた。葉が綺麗であるとはとても思えない。<br />「葉っぱですかあ？」<br /><br />　＋＋　やっぱり桜がみたい　＋＋<br /><br />　屋敷はいくらでも部屋は余っていたので、適当な部屋をゴローに間貸しするとクーペと共に研究室に戻った。<br />「いま桜みれないんだってさー。残念」<br />「再現してやる......」<br />「え？」<br />　リリィがつぶやいたその言葉にクーペが尋ね返す。<br /><br />　数時間後<br />　研究室にピンク色の花びらがまき散らされる。<br />　埃だらけの研究室に淡い色の花が咲いたがどれもこれもリリィを満足させる出来にはいたらなかった。<br />「こんなんで病気がなおるもんか！　あああああああ！」<br />　椅子が後ろに倒れてそのまま床に背中から倒れ込む。空気が割れるような音とともに花びらがあたりに舞い散る。 &nbsp;<br />　徹夜して結局リリィができたのは部屋を埋め尽くす中途半端なピンク色の何の花かわからないような花びら、そして疲労だけだった。<br />「徒労に終わ」<br />「馬鹿犬」<br />&nbsp;　クーペの科白を遮ってリリィが平坦なトーンで言い返す。<br />「酷いなあ」<br />　彼はそういうと目の前に広がった花びらを見つめた。<br />　そもそも桜というものがなんなのかわかっていないでこんな作業をやっているからいけない。知らない人間へ変化できないように知らないものを作成することができるはずはない。それは当たり前。<br />「ゴローに聞いてみたら？」<br />「その発想は無かったね」<br />「あのひと、今桜が咲いてないとは言ってなかったよ」<br />「そうね」<br />　天井を見つめながらリリィは呟いた。あの日本人は気さくな人間だったのでもしかしたら教えてくれるかもしれない。<br /><br />　翌朝ゴローに尋ねてみるとそれはないですよとあっさり首を振られた。<br />　やはり今は咲いていないという。もし見たかったら春までまってはどうかということだった。<br />　そのかわり、と続けるとゴローは言った。<br />「日本に来るならとても綺麗な紅葉が見れますけれども」<br />　とてもただの葉っぱ等見る気になれなかったが、秋特有のそれはとても綺麗に映るらしい。<br />　本当だろうか。<br />　帰り道の案内をすると彼は礼をいって帰っていった。<br />　玄関でリリィはしばらく考えていると、後ろからクーペがやってきて声をかけてきた。<br />「なに考えているのさ」<br />「紅葉だって」<br />「日本に行くつもり？」<br />「パスポートもってないもの」<br />　そういうとクーペはややあきれた様に、<br />「魔女のくせにパスポートとか」<br />「んあー、飛んでいくの面倒なんだけどなあ」<br />　リリィは大きくあくびをした。<br />　それでもかまわないかもしれない。<br /><br />　＋＋　その地で見たもの　＋＋<br /><br />　次の日。<br />　クーペのもとにリリィはいくと、彼の横腹を蹴飛ばした。<br />「いくよ」<br />「......どこに？」<br />「日本に」<br />「寒いつったばかりじゃん」<br />「まあ百聞は一見にしかずってね」<br />　そういうと手元にもった箒をぐるりとまわしてみせた。そして叫んでみせた。<br />「リリィは防御の呪文をおぼえた！」<br />「つまり？」<br />「寒さガードしながらいくわけ」<br />「無理無理無理絶対無理海の上絶対寒い」<br />「いいから」<br />　嫌がるクーペを強制連行するとリリィは箒にまたがった。<br />「よし、いくよ！」<br />　高度をあげる。と、同時に気温も下がるので防御の呪文を唱えて身体を守る。<br />　前に乗ったクーペが息をつく。<br />「本気？」<br />「本気本気。いくよー」<br />　そういうとリリィは黒帽子を片手で押さえ、片手で箒を掴んだ。<br />　スピードをあげて海の上へ飛び出す。<br /><br />　数時間をかけて大きな海をわたりきった二人は着いた陸地を見渡した。<br />　そして二人は思わず声を合わせて感嘆の声をあげた。<br />「うわあ」<br />　そこには赤、黄色、オレンジが混じり合った風景が広がっていた。<br />　なんというのだろうか。<br />　あれほど臨んでいた桜のピンク色とはまた違う景色がそこにあった。<br />　山々が綺麗な螺旋を描くと同時に、その三色がそれらの表面を覆っている。<br />　空は青空。下はオレンジ。<br />　ぴったりと分けられたその光景は壮大の一言に尽きた。<br />「本には書いてなかった」<br />　クーペが下を見ながら言ってくる。リリィはそれに対して笑いかけながら<br />「一見にしかずだよ。それにこれなら小さな病気とか悩みとかふっとんじゃいそう」<br />「確かにね」<br />「桜なんかにこだわる必要なかったね」<br />　そして山のいっぺんを指差し、<br />「お弁当にしよ」<br />　リリィは眺めの良さそうな山を無作為に選び、そこに向かって降りていった。<br /><br />　サンドイッチをかじりながら改めて眼下の景色を眺める。<br />「すごいわ」<br />「これがゴローの言ってた紅葉ってヤツかな」<br />「多分」<br />「オレンジとか黄色もあるけど」<br />「それもあわせてるんだよ。きっと」<br />　そういうとリリィは空を見た。<br />「今日は来てよかったわ」<br />「確かに」<br />　あれほど反対していたクーペが小さく頷いた。あたりを見回して。<br />「綺麗だね」<br />「うん」<br />　オレンジ色と黄色の葉っぱが風に吹かれて二人の足下にはらりと落ちた。<br />　そこにいる黒い二人は周囲の景色には酷く不釣り合いだったが、その自覚は彼らにはない。<br />　ただ美しい光景を目の前にして、ただそこに魔女と黒犬はゆるやかな風に吹かれる心地よさに身を任せた。<br />　それだけで確かに悩みや病気は去ってしまいそうだった。<br /><br />

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</a>
<br />【オンライン文化祭2009 -- 秋】参加作品。

<br /><br />"Autumn Supernatural" closed.<br /><br /><br />おまけ：<a href="http://srockstyle.com/deadontheedge/2009/11/post-3.html">あとがきのようなもの</a><br />]]>
        
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    <title>The Hospital</title>
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    <published>2009-10-06T00:18:12Z</published>
    <updated>2009-10-06T00:18:27Z</updated>

    <summary>　暗い場所にいた。　鈍い音。　鋭い声。　とても暗い男の声だ。「さて、君が記念すべ...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <category term="story" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
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        <![CDATA[<br />　暗い場所にいた。<br />　鈍い音。<br />　鋭い声。<br />　とても暗い男の声だ。<br />「さて、君が記念すべき第一号だ。名誉と思ってくれ」<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　自分にとってばかばかしいと思えることも、<br />　他人からみたらそうでないこともある。<br />　ずっと続く道を歩いていると、時折立ち止まり、<br />　そんなことを考えてみたくなる。<br />　そしてなににともなくつぶやいてみたくなる。<br />「ねえ、なんでやったんだ？」<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　僕はとある病院の前に立っていた。大きな病院だ。<br />　中には年老いた人間や、怪我をしている子供たち。<br />　病弱で外の世界にあこがれている大人たち。<br />　そういった人間が普通に病と闘っていた。<br /><br />　それはもしかしたら普通じゃないのかもしれないが、<br />　やはり普遍的でどこの街でも見かけるものだった。<br /><br />　医療は病を人から引き離すために存在する。が、<br />　その呪縛から人が一生逃れることは不可能なのが事実。<br />　無常、である。<br /><br />　中に入れば、薬品の匂い、走り回る看護婦。<br />　いたって普通の病院だ。僕はため息をつくとカウンターにむかって歩く。<br /><br />「ミシェル・オーガリーはいますか？」<br />「病室はどこかわかります？」<br />「いえ、三月二十五日にここに入院したと聞いたので」<br />「はい、では少々お待ちください」<br /><br />　ちょうど後ろを子供が歩いていく。それを見送って振り返る。<br />　受付の女性がこちらを呼ぶまで時間はそれほどかからなかったと思う。<br /><br />「お待たせしました。607号室になります」<br />「ありがとう」<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　目的の病室。607の数字を確認すると、僕は扉をノックした。<br />　リノリウムの床を踏みしめる。<br />　病院の廊下は白い色に包まれていて、こちらの心を洗うようだった。<br /><br />「こんにちは。ミス」<br />「ごきげんよう。オグ」<br /><br />　扉を開けるとミシェル・オーガリーが立っていた。<br />　少しむくんだやつれ顔に笑みを浮かべてそこにいる。<br />　相手の顔をまじまじとみつめ、それから尋ねる。<br /><br />「寝てなかったのですか」<br />「眠くなかったから」<br />「あさっては四月ですね」<br />「そうよ」<br />「もう夏です」<br />「そうね」<br /><br />　彼女は決して苛立ちを顔に出さない。<br />　かといって機嫌がいいわけでもないことを僕はしっている。<br /><br />「いい加減このキーワードはやめませんか？」<br />「どうして？」<br />「病院のヒトもいい加減疲れてると思うのですけど」<br />「そうかしら」<br />「もっとマシなのを考えましょう」<br /><br />　オグがそういうと、ミシェル・オーガリーはすこし哀しそうに眉をひそめた。<br />　そして窓に向かうと小さくつぶやく。<br /><br />「晴れてるわね」<br />「しばらくは天気がいいそうですよ」<br />「.........鍵は、みつかるかしら」<br /><br />「場所はわかりました。今日とりにいってきます。ただ、すこし警備が厳重ですが」<br />「君なら入れるわ」<br />「ええ。もちろん」<br />「.........気をつけてね」<br />「はい。ありがとうございます」<br />　空を見つめると、彼女は息をついた。<br />「もう、なんだか疲れたわ」<br />　そう僕に告げると、ミシェル・オーガリーは歩いていった。<br />　彼女がこちらから離れていくに連れて足が消えていく。<br />　続いてスカートが、上半身が、腕が。<br />　最後に流れるような彼女のブロンドの髪が消えると、<br />　ミシェル・オーガリーは僕の眼前から完全にいなくなった。<br /><br />　さっきまで彼女がいたその場所をみつめながら、<br />　僕は小さく息をついた。<br />　世界なんてこんなものだ。<br /><br />　どうしようもないこともあるんだ。<br />　そう自分に言い聞かせながら踵を返して部屋を出ると、<br />　僕は静かにやさしく、扉を閉めた。 ]]>
        
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    <title>エヴァーラスティング</title>
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    <published>2009-10-06T00:17:11Z</published>
    <updated>2009-10-06T00:17:28Z</updated>

    <summary>　延々と続く黒い森の中でひとつだけ赤い点がゆらめいていた。　ふと思うのだけどやっ...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[<br />　延々と続く黒い森の中でひとつだけ赤い点がゆらめいていた。<br /><br />　ふと思うのだけどやっぱり世界はつまらないと思う。<br />「それはさておきってなんだよ。つまらなくねーぞ」<br />「つまらないんだよ。どれもこれも。僕を満足させるにはとても足りないようだ」<br />「お前理想が高すぎるんだよ。ちょっと前までは楽しい楽しいっていってたじゃないか」<br />　焚き火をはさんで向かい側にいる相手がこちらを見てそういう。だけど自分の意見が変わらないことにフキは気づいていた。<br />　そしてそれがこれからもずっと続くことも。<br />「そうだけどね」<br />　と小さくうなずくと、彼は、<br />「満足しろよ。世の中はこんなものだと思えばいい」<br />「こんなものだったら僕はもうすこしがんばれば宇宙の支配者にでもなれるんだろうか」<br />「はあ？」<br />「こんなもの、なのかな。僕が小さい頃あこがれてた世界の美しいものってさ」<br />「お前がそういうきれいなものみたいっていうから俺はつきあったんだが」<br />「いまのが全部なのかな」<br />「ああ。だいたいめぼしいところは回ったよ」<br />「ふむ------だとするなら」<br />　火が小さい。フキは近くの棒切れを手に取ると、そのなかに放り込んだ。<br />「僕が求めている美しいものというのはやっぱりみんなが知ってるところにはないのかもしれない」<br />「？」<br />　彼が不思議そうにこちらを見てくる。フキは続けた。<br />「ねえ、君がほしいものってなんだい？」<br />「なにをいきなり」<br />「答えてくれたまえ」<br />「そうだな。まず遠いどこかまで走っていける車輪がほしいかな」<br />「うん」<br />「あとこうやって休憩のたびに違和感感じたりしない旅のパートナーとか」<br />「はは。だね」<br />「笑ってる場合かよ。お前その性格なんとかしろよ」<br />「十九にもなれば修正なんてできないからね。僕と一緒にいるなら我慢しな」<br />「ちぇ、さとりやがって」<br />　そこでしばらく黙り込む。火にかけていたなべが沸騰したのを見てそれをとり、コーヒーを入れたマグカップに注ぐ。ミルクと砂糖を入れ、それをかき混ぜてしばらく待つ。<br />　フキはそこで顔をあげた。<br />「僕が変なのか」<br />「なんでそう思う？」<br />「いや、普通みんなすごいところいったらステキって思うじゃないか。でかい氷が解けるところや、膨大な水が吸い込まれるところ、大木だとか鯨だとか」<br />「君は二十メートル以上のものしか目にはいらないのかね？」<br />「そうじゃなくて。いや、それは違うよ。皆大きければステキ、みたことないからステキ、って思うんだけど僕の中にあるのはステキじゃないんだ。旅にでていろいろみてみたけどステキじゃなかったんだ。君と出会う前は本もたくさん読んだし、絵も見てきたけど自分にしっくりくるのは何一つとしてなかったんだ」<br />「......それは単純にお前が贅沢なだけじゃねえの？」<br />「違うんだよ、レオ。それは必然なんだ。だけど僕にとっては必然じゃないんだ。世界のどこかにしっくりくるものがあると思ったのにどこにもなかったんだ。みんなは外のどこかにそれを見つけているのに僕には......」<br />　そこでフキは黙り込んだ。なにを言いたいのかよくわからない。だが言いたいことはたしかに胸の奥にある。だがそのまわりにうずまくなにかがそれを拒んでいた。<br />　息を切らした。すこし暑さを落としたコーヒーを口に含んだ。きりきりくる胃には確かなものだった。この世界で、なにより。<br />　沈黙。<br />　森の中で広がる沈黙は恐ろしいのだろうか。そうは思えないのだが。<br />　と、彼が突然口を開いてきた。<br />「やめとけ。フキ。お前は多分見つけられないよ」<br />「......え？」<br />「おそらくお前は自分自身でなにかを作りすぎた......だからお前は自分が作るものでなければ満足はできないだろうよ。今日も、明日も、おそらくこれからもずっと」<br />「どういうこと？」<br />「わかるか？　創造者は創造されたものでは満足できないんだ。創造したものでなければ『うん』とは言わない。自分の理想系を常に求め続けるんだ」<br />「難しいなあ」<br />「それを難しいんだったらお前はまだまだ半人前ってことだ。世界を回る理由ができたじゃないか」<br />　彼がそういうのを聞いて、フキは押し黙った。それから星がちりばめられている空を見ると、長い長い息をついた。<br />「......寝るか。それとも星をみるか」<br />「星を見るのがいいと思うぜ。それで満足できなかったら明日も旅をしようじゃないか」<br />　焚き火の炎で体を赤く光らせている相棒を見つめながらフキはにっこり笑った。<br />「うん、そうだね」<br /><br /> ]]>
        
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    <title>黒鏡</title>
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    <published>2009-10-06T00:14:47Z</published>
    <updated>2009-10-06T00:15:10Z</updated>

    <summary>　夜もすこしをあけたころ、戸口で声がした。　倉田千鶴子はコタツのなかにもぐりこみ...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
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        <![CDATA[　夜もすこしをあけたころ、戸口で声がした。<br />　倉田千鶴子はコタツのなかにもぐりこみながら、向かいで餅を焼いていた京介に言った。<br />「あたしは留守だ」<br />「はいはい」<br />　適当に返事をして立ち上がる。縁側を歩くにはすこし寒い季節だ。<br />　冷気が足に直接伝わるのを感じながら、京介は玄関口へと歩いていった。<br /><br />　そこには一人の男が立っていた。歳のころは二十歳前後といったところか。いくぶんか自分より若い。<br />「連絡していた藤崎ですけど、倉田さんはいらっしゃいますか？」<br />「あ.........千鶴子はいまちょっと外にでてまして」<br />　顎に手をあてて外を見やる。雪が降り始めていた。<br />「火急のご用件ですか？」<br />「いえ、そうではありません。いつごろならいらっしゃいますか？」<br />　若いわりには礼儀正しい男だ。京介は内心感心しながら答えた。<br />「うーん.........明日の昼ぐらいなら大丈夫だと思いますけど」<br />「ああ、わけあって私は夜しか来れないのですよ」<br />「はあ」<br />　その歳で何の仕事をしているものか気になったが、相手はこちらが再び口を開く前に、<br />「では、また明日の同じ時刻にお伺いします。倉田さんにはよろしくつたえておいてください」<br />　さらりと言い残し、去っていってしまった。<br /><br />　わけがわからぬまま居間にもどると千鶴子が先ほどまで京介が焼いていた餅をほおばっていた。<br />「誰だ」<br />「餅を食うな」<br />「あ？」<br />「それは俺が焼いた」<br />「ひとつくらいいいじゃん」<br />「駄目」<br />「ケチ」<br />　ぼてん、と再びコタツにもぐりこむ彼女を尻目に、京介はため息をついた。<br />「若い男だよ」<br />「ほう、髪は茶色かったか？」<br />「いや、黒かった」<br />「じゃあ知らんな。あたしが最近ひっかけたのは茶色いヤツだった」<br />「へー」<br />「ひょっとしたら唐色だったかもしれない」<br />「いい加減だなオマエ」<br />「名前聞いたんだけどわすれてもた」<br />「最低だな」<br />「女心なぞそんなものぞ。んで、そいつはなんだって？」<br />　コタツにうつぶせにはいりながらこちらをみてくる。たいしたことでもないのだろう。<br />「いや、お前に用事あるみたいだった」<br />「急ぎか？」<br />「いや、明日くるってよ」<br />「ふうん、じゃあ明日でいいや」<br />　いいかげんめ、と口の中でつぶやき、京介は自分が焼いていた餅に橋をつけようとした。<br />　そこにあるものを一瞥してから、険悪な口調でうなった。<br />「吐いたもん皿におくんじゃねえ」<br />「はっはっは」<br /><br /><br />　翌日は晴れていた。すっきり晴れた一日だった。<br />「なかなかいい天気だったな」<br />「そうだなー」<br />　手元の本に目を落としながら千鶴子が適当な口調で返してくる。<br />「晴れてても一日中うちにいるからねえ」<br />「そうかい」<br />　戸締りをしながら京介はつぶやいた。<br />「そろそろ例の御仁が来る時間だが」<br />「そうかー。居留守使おうかなー」<br />「でてあげろよ。用事あるんだから」<br />　相変わらずやる気のない彼女に対して呆れたように言う。<br />　どちらにしてもどうということはなさそうだ。<br /><br />　こんこん。<br />「来たみたいだ」<br />「わかったよ。行けばいいんだろ」<br />　もぞもぞとコタツから抜け出すと、彼女はけだるそうな表情を浮かべながら戸口にむかって歩いていった。その後ろを京介も着いていく。<br />　足元を猫が走りぬけようとしていったので抱き上げる。特に意味もなく。<br />「倉田さんですね？」<br />「そうだけど」<br />　昨日の男の声だ。だが千鶴子を目にしたとたん声のトーンが落ちたように思えた。<br />　次の瞬間響く甲高い音。<br /><br />　悲鳴ではなかった。鉄と鉄が擦りあげられるような金切り音。<br />「手伝おうか？」<br />　京介は戸口で刀を交えている千鶴子にむけて行った。だが彼女は振り向こうともせず、<br />「いいよ。ひとりで」<br />　と答えた。<br /><br />「なめられたものですね。僕もこれで大人になったんですよ」<br />「まあ、子供のときよりは強くなったね」<br />　彼女は静かに答える。目の前に突き出された刀を横から眺めるように目を細めた。<br />「だけどまだ甘いね」<br />　次の瞬間千鶴子が着物の下から抜き放った長刀が男の顔に一閃を入れていた。左から右に切り上げるような居合い斬りだ。だがそれも鋼のぶつかり合う音がひびく。衝撃を和らげるように男と千鶴子は戸を破り、玄関外でにらみ合っていた。<br />　男は千鶴子に切りつけると、小さな声で<br />「霧の魂を返せ」<br />　と言った。その名前を聞いた瞬間――名前なのかどうかは本人たちにしかわからないが――千鶴子がほう、と口を丸めた。<br />「なつかしい名前だ。彼女元気にしてるのかな」<br />「とぼけてんじゃねえ!!!　魔女め!!!」<br />　次に男が放った一閃が千鶴子の着ている服に一閃を入れたが肉に傷をつけるまではならない。それを綺麗にかわした彼女に反撃する時間は十分だった。<br />　男の肘から先が消える。だが刀が翻り、辺りに血が撒き散らされるまでそう時間はかからない。<br />「ぎゃッ!!!」<br />「遅い」<br />　どこをどう移動したものか、千鶴子は後ろから心臓すれすれの位置を一突き。<br />一瞬のうちに勝負アリだ。<br />　胸から刃を突き出し、血反吐を吐いて崩れ落ちる男に対して千鶴子は悠然と構えている。<br />　貫通した刃の先を絶望的なまなざしで見つめる男に向かって、<br />「仇討ちするにゃ時が早いよ」<br />　そう言い放った。<br />「恋人の魂と同じ場所へおいきなさいな」<br />　すっと千鶴子がその長刀をゆらす。すると黒く光りだした光が丸く形を作っていく。刀から黒い霧が球状に広がったかのような光景だ。刀が黒く光、男の体を飲み込んでいく。<br />　消えていくその霧の中から男の声が聞こえた。<br />　だがそれは京介の耳には言葉のようには聞こえなかった。<br />「きっとお友達もたくさんできるよ」<br />　千鶴子のその科白が終わるか終わらないかのうちに霧は刀に飲み込まれ、男の体もそれと一緒に溶け込んで消えている。<br />　玄関口でその光景を黙ってみていた京介はヒトコト、けだるげな千鶴子に尋ねた。<br />「霧って誰だ？」<br />「昔のさ」<br />「そっか」<br />　千鶴子の回答に興味をなくした京介は踵を返して居間に戻った。<br />　彼女はなにかを考えているのか、しばらく外から戻ってこなかった。 ]]>
        
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    <title>魔境山道</title>
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    <published>2009-10-05T23:56:52Z</published>
    <updated>2009-10-05T23:59:17Z</updated>

    <summary>　久々に雨が強い日だった。水無月も半ばにもなれば仕方ないのかもしれない。　扉が叩...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　久々に雨が強い日だった。水無月も半ばにもなれば仕方ないのかもしれない。<br />　扉が叩かれたので開けると、一人の侍が立っていた。黒い着流しに黒い傘を持っていた。ここら辺では見ないので恐らく遠方からやってきたのだろう。<br />　だがあまり疲れを感じさせない表情で、彼は口を開いてきた。夜に訪ねてきたことを詫びてくると頭を下げてきた。再び顔をあげる。<br />　その彼の目を見る。鋭い目つきがじっと自分を見返してきてどこか気圧されそうになる。いつになってもこの手の相手はなれないものだ。<br />　無言で促すとその声が続けてきた。王多鬼丸と戦いたいので彼の居場所を教えてほしい。<br />　その問いは予想はしたが、当然でもあった。もっとも自分のところにやってくるこういった人間たちの殆どは彼狙いだ。それを責める気は無いが彼を気の毒に思うこともない。<br />　ああ、またか。今更か。それだけの感情で扉の向かい側にある朱に染められた鳥居を指差す。数年ずっと塗り直されることなく雨風にさらされているにも関わらずそれは奇妙な赤さを持って、山頂へ続く道へ通じる入り口となってそこに立っていた。<br />　こちらの返答に頭を下げると、彼は持っていた黒い傘をさしてそのままこちらに踵を返して歩き始めた。彼が道を横切り、鳥居に入るまでをずっと見つめる。<br />　その黒い背中が鳥居をくぐって道を歩いていくのを見てから小さく息をつく。もう、何年になるのだろうか、まるで自分がここの門番のようになってしまっている。そして"彼"を訪ねてくる強者たちは必ず自分にそれを訊ねる。そして自分は彼らがその鳥居をくぐるのを見送る。<br />　それを繰り返してこの数年感でわかったことはひとつだけ。<br /><br />　王多鬼丸を追ってそこに入っていった人間は、誰一人として帰ってこない事。<br /><br /><br />　魔境山道<br /><br /><br />　雨の日は続いた。普段は旅人も通る山道だが雨が続けばそれは自然と絶えることになる。空は灰色の雲に埋もれていつもの蒼は片鱗も見えない。<br />　そうなっても王多鬼丸への尋ね人はくる。それどころか増えていくような気さえした。雨の日は毎日続く。それでも尋ね人は三日に一人はくる。三日続けてくる日もあった。なにが噂となっているのかはわからない。そして、彼を追ってひとたびその鳥居の中にはいれば、戻ることない。<br />　もちろん彼らの行方が気にならないと言えば嘘になるだろう。その視線の先には明らかに人の死を扱う道がつながっている。地獄への道といえばそれが正しい。だがそれは彼らが王多鬼丸へ勝負を挑むためにやってきた、いわゆる誇りをかけて命をかけて入った道だ。そこに自分が興味本位で足を踏み入れるのも彼らの覚悟に泥を塗るような気がしてならない。<br />　迷いは絶えない。だが、その気持ちは日々膨らんでいった。<br />　<br />　鳥居の紅色は、いつも神々しく、そして生々しい色を保っていた。<br />　それがいつも不気味に感じられた。それがもつ色彩は誰かを引きつけるなにかを放っていて、待ち受ける人を飲み込むように。そしてそれを囲い込む木々のせいで鳥居の奥にある山道は暗闇に包まれている。<br />　まるでそれ自体が妖怪のように感じられることもある。実際に動いているのは鳥居ではなく、周囲に生い茂る木々の枝なのだけど。<br />　縁側に座りながらそれを眺めていると、つい自分も足を運びたくなる。王多鬼丸と刀を交える覚悟がないにしても、上にたっているはずの神社に参拝するぐらいの自由はあってしかるべきだろう、と考えてしまう。そしてそういった理由をつけて上にあがる口実を探す自分がいることが嫌になる。<br />　伝説を知るのなら、まずここに住んでいる自分が一番適任になるだろう。だがここに住んで所詮数年ではそれより数百年前の伝説までを知りえることなどできるはずもない。あるのは眼前の神社に住むなにかがおり、そこに挑む猛者達がおり、彼らは二度と帰ってこないという事実だけ。<br />　なにがそれを示すのだろう。つまり王多鬼丸は人を殺して、その後だ。遺体をどう片付けているのだろう。山道から血が流れてきたことは一度もない。そしてこれが始まってから既に数年、誰一人戻ってこないとするなら遺体の数は軽く百を超えるはずだ。<br />　それなら、どうやって？<br />　その疑問に対する答えを見つけられないまま、時は過ぎる。悠然と立ち続けるその鳥居を見上げる。眼前にあるその事実に対して自分がどうにかすることができるだろうか。結論からいえば、なにもできないのは見えている。<br />　そして思考を巡らせていくといつしか、その鳥居がすべての犠牲者の血を吸っているように見えてくる。そうなると恐ろしく、すぐにでもここから逃げ出したくなる。恐怖で足がすくみ、立っていられなくなる。そのときはわざと仕事に集中し、そういったことを忘れようとするのだ。<br />　<br />　雨は降り続けた。長い雨だった。<br />　例年より雨期が長いのかもしれないと思う。それならそれで夏に水に困ることがないからありがたい。これなら多少日照りが強くてもしばらくやっていけるだろうと思う。ありがたい。<br />　それでも人がくる日は多くなった。そんなある日。<br />「やあ、誰かいるのかい？」<br />　入り口で声をあげられた。畑に鍬を置いてそちらに向かうと、杖をついた壮年の男が立っていた。<br />「王多鬼丸ってのは、あんたかい？」<br />　首を振る。だがみると、相手は目を閉じている。そしてその目はこちらを見てはいなかった。<br />　盲目、なのだろう。<br />「違うよ」<br />「そうか。このあたりってきいたんだが、どこにいるかわかるかい？」<br />　いつもの流れだ。後ろの鳥居を指差し、伝えてやる。<br />「あそこだよ」<br />「どこだい？」<br />　そうか。<br />　一瞬戸惑いながらなんとか声に出して答えた。<br />「後ろ、振り返ったところに鳥居がある。そこの奥にいる。いるはず......だけど、実はみたことなくて」<br />「そうか。今まで、何人くらいきた？」<br />　彼をみる。静かな雰囲気だ。その立ち振る舞いはどこかものやさしい。<br />「百人以上......はきたと思う」<br />「そうかい」<br />　そちらに彼の顔が向けられる。なにも言わずにいるとそのまま行ってしまいそうだったので続ける。<br />「あの、もしよかったら、お茶でも飲んでいきませんか？」<br />「ん、いいのかい？」<br />「ええ。すこしお話を......聞かせてください」<br /><br />　今まで、何人と挑んできた人間がいたが、実際にこうして面と向かって話をするのは始めてだった。彼の手元に茶碗を持っていってやると、彼はそれを手に取って口元に運んだ。<br />　彼もおそらく、王多鬼丸に挑む人間なのだろう。<br />「悪いね」<br />「いえ......」<br />　なんと聞いて良いのかわからない。だが、これは単刀直入に聞く以外にないだろう。尋ねると彼は軽く口元に笑みを浮かべて行って来た。<br />「ん、強い奴がいるって聞いたんでね。勝負してみようと思ったのさ」<br />「そんなに有名なんですか？」<br />「俺たちの間ではね。でも、元はただの盗賊だったんだ。それがいつのまにか奴ひとりだけ名をあげて、場所もここになった。盗賊なんて、あちこち飛び回ってなんぼなのにね。一体奴になにがあったのかわからんが、不思議だね。まったく」<br />　ずず、と茶を一口飲むと彼は空を見上げた。その目は閉じられたままだ。きっとその瞳には何も映っていないだろうと思う。その横顔にむかって何を言おうか迷っていると、彼の方から尋ねてきた。<br />「それより、帰ってきた奴がいないっていうのは本当かい？」<br />「ええ」<br />「その鳥居からでてきた奴をみたことあるかい？」<br />　そこで言葉をきる。答えに窮して黙り込んでしまう。そこに入っていく姿はいくつもみてきたが、戻ってくる姿は見たことがない。また、鳥居を超えて戻ってくる人間となると......<br />「な、ないです」<br />「そうか」<br />　そういうと彼は茶を一気に飲み干し、杖をつかんで立ち上がった。<br />「さて、それじゃいってくるかね。ごちそうさん」<br />　こちらの返事もまたず彼は道を横切っていく。鳥居はすぐそこに目の前に迫っていた。<br />　変わらない紅色のまま。<br />「あ、あの！」<br />　なんで叫んだのかはわからない。だが彼はこちらを見てきた。その横顔に向かって半ば叫ぶように言う。<br />「もしよかったら、案内しましょうか？」<br />「ん、いいのかい？」<br />　なぜそんなことをいったのかはよくわからない。だが、その時自分に迫っていたのはよく分からない高揚感、そしてこれを逃せば機会はもう二度と訪れないのではないか、という焦燥感だった。<br />「ええ。これでも長くここに住んでるんで......」<br />　もしかしたら生きて帰ってこれないかもしれない。それはこの一年で分かりきっている。だがそれを抜きにしても入ってみたい気持ちが勝っていた。<br />　やめておけばよかったと、あとで後悔することになるとわかっていたとしても。<br />　ここにこれだけみてきたのだから、先をみても良いはずだった。<br />　<br />　<br /><br />　その盲目の剣士に連れられて山道に足を踏み入れる。と、同時に今まで見るだけだった赤い鳥居をくぐった。みるとそれは奥に七つ有り、赤から始まり奥のものにいくにつれて色が濃くなっていく。<br />　最後の鳥居が漆黒だということに気づいたとき、背筋に悪寒が走る。自分の家からそれほど離れていない場所にも関わらず空気が変わったように感じた。<br />「俺から離れるな」<br />　そばにいる彼が小さく言ってきた。その隣を腕を掴みながら歩いていく。段差があれば彼に教え、危険な場所がないように一歩ずつ歩を進めていく。前に進めば進ほど、森の不気味さは増していった。後ろの鳥居の間から見える光が消えた瞬間、悪寒は吐き気に変わった。<br />　今すぐ逃げ出したくなるような圧迫感。<br />　と。<br />「頭さげろ」<br />　つぶやかれると同時に彼の腕が伸びてきてこちらの頭をおしさげる。それと同じくして杖から抜き放たれた刀身が迫ってきた何かを切り落とした。<br />　声にならない悲鳴をあげる。膝をついて顔をあげると、そこには思いもしないものが転がっていた。<br />　木の枝だった。<br />　しかも、切り口からは人間の血と思しき赤い液体が流れている。<br />　腹の奥から迫ってくる吐き気。なんとか吐かずに止めておく。人前で醜態を見せたくないというわずかな矜持だった。<br />　自分の気を知って知らずか彼はこちらの腕をつかんでくると、小さく言ってきた。<br />「行くぞ」<br />　ある意味残酷だが、ある意味心強い言葉でもあった。再び彼の腕をつかんで歩き出すと今度は前方から何かが迫ってくる。彼は杖をつかんでそれらを一瞬のうちに切断する。その素早さは職人、というより閃光のようだった。目の前で何かが閃いた瞬間には迫ってきたそれは足元に落ちて散る。<br />　それらが、人間の血を流す木の枝であることを除けばだが。<br />　悪寒と吐き気は山を登るにつれて増幅していく一方だった。しばらくいくと木が密集しているところにでる。そこにはまだ新しい、死んで数日と思わしき侍の体が木の枝に絡まって絶命していた。それは顔面が蒼白で、体中がおかしな方向にへし折れ、骨が砕かれた状態でそこにあった。<br />　今まで自分が、見て見ぬふりをしてきた結果はこれだったのだ。木の枝が伸びてきて人間を捕まえ、力ずくで締め殺していく惨劇。それを何百人と見殺しにしてきたのだ。<br />　なんともいわれぬ感情がせり上がってきて、涙がこぼれた。<br />「......ごめんなさい......」<br />　眼前で搦め捕られて絶命している侍の顔に思わず手を合わせる。そしてつぶやくようにそういう。もちろん謝ってどうすることでもない。だが、そうすることしかできない。<br />「誰にいってる？」<br />「わかりません。いわないと駄目な気がして」<br />「奴らは望んでこうなったんだよ。お前さんが謝ることじゃないさ」<br />　そういうと盲目の剣士はこちらの腕をつかんできた。<br />「道はどちらにのびてる？」<br />　刀を握っている彼は道先が分からないのだ。涙で燻む目をこすると、山道が示す先を指差した。<br />「こっちです」<br />　再び歩を進める。階段に足を賭けた瞬間、自分の足首に何かが巻きつく。<br />　そちらに視線をやって、一瞬動きを止めた。地面から出てきた手首が足をつかんでいたのだ。その手首の肌は既に黒化していて、今にも崩れそうだ。<br />　横にいた彼が刀を振ってそれを切る。指が切れ、解放されるが飛び散った血飛沫が服に付いた。嫌悪感が抑えられない。<br />　階段を登る度、木の枝が襲ってきたが彼が全部切り払ってくれた。その度に飛び散る血飛沫が嫌悪感を助長したが、なんとか山頂までやってくることができた。<br />　眼前には小さな、ぼろぼろの神社。境内はまるで掃除された様子もなく木の葉が舞い、雑草が生い茂っている。建物も長年放置されたようにぼろぼろだ。<br />「......こ、ここは」<br />「ぼろぼろかい？」<br />　彼が刀を鞘に収めながら尋ねてくる。それに向かって頷きながら返事をした。<br />「ええ。誰も......なにもいじってないみたい」<br />「それなら好都合さね。いってみよう」<br />　彼はそういうと歩をすすめ始めた。そこの先にはぼろぼろの神社が聳え立っている。入り口までなんとかたどり着き、そこを開ける。<br />　その入り口の向かい側。眼前に、壁に寄りかかる形でその男は座っていた。<br />「王多鬼丸だ」<br />　彼を見る。刀を大事そうに抱え、その場にしゃがみこんだ王多鬼丸は微動だにしない。近づけばすぐにでも切れてしまいそうだ。<br />「待ってな」<br />　彼はそれだけをいうと王多鬼丸に近づいていく。彼の元までいくと刀を一閃、その首を切断した。<br />　あまりにあっさり終わったそれに唖然とする。だが、その答えはすぐにわかった。<br />　こちらの足元に転がってきた王多鬼丸の首は、すでに骨だった。<br />　白骨化、というまでもない薄汚れた王多鬼丸の体は、骨と化していた。<br />　彼の体を纏うのは整然おそらく着ていた着物。彼はここにきて戻らずに息を引き取ったのだろう。<br />　盲目の剣士はこちらに戻ってくると、小さく頷いた。<br />「つまりそういうことさ。ここは、王多鬼丸が作った呪いの森。よっぽどあいつはこちらをここによびだしたかったみたいだね」<br />「こちら？」<br />「後ろをごらん」<br />　振り向く。そして体中が冷えるような思いに襲われる。<br />　そこには、王多鬼丸の霊が立っていた。こちらを待ち構えていたかのように。<br />「ずいぶんな仕掛けだね。王多鬼丸」<br />　王多鬼丸は頷いた。その口が動いてなにかを言ってくる。だが自分には聞こえない。隣の剣士には聞こえるようだった。<br />「残念。それはできないねえ。彼女は私の案内人だ。私は彼女を守る義務がある。そういう約束だからね」<br />　なにを言っているのだろう。王多鬼丸はこちらを見てきた。その鋭い視線に思わずたじろぐ。<br />「お前は死んでいる。私たちは生きている。そちらにいくには、今まで殺した百人の部下だけじゃ不満なのかい？　それでも十分、お前はそちらでもやっていける。最強の名前は十分世界に通っている」<br />　王多鬼丸はかぶりを振った。それでは駄目だ。口元が動いて再びなにかを伝えてくる。<br />「彼女はわたせないと言っているだろう。やるかい？　ここで。自身の肉体をなくしたお前が」<br />　あたりの木々がざわめき始める。その枝がこちらの上を覆い始める。それに気づいているのか剣士はにっと笑って見せると、ふところから一枚の札を取り出した。<br />　王多鬼丸の表情が変わる。<br />「お前の武名証。これがなくなれば、お前はこの世に存在してはいられないんだ。さらばだ。王多鬼丸。地獄で仲間と思う存分暴れるといい」<br />　どうやったのか、次の瞬間それに火がつけられた。見ている隣でそれが燃えていき、気づけば半分が燃えたところで王多鬼丸の姿が薄れて消える。<br />　後ろを振り返る。彼の体が炎に包まれていた。剣士も見えないだろうが、そちらに視線をやる。<br />「いこう」<br />　手をとって降りる。そのまま神社の境内の真ん中まできたところで、周囲の木が一斉に炎を上げ始める。まるで炎に包まれているかのような光景が辺りを巻き込んだ。<br />「これでもう、人が死ぬことはない」<br />「......」<br />　彼の台詞にどこか釈然としないものを感じながら、小さく頷く。炎はやがて森へと移り、山全体を飲み込んでいった。<br />　<br />　<br />　一時は巨大な山火事と化したそれは、不思議と落ち着くまで時間がかからなかった。数時間後その場は静寂に包まれた。二人が降りていく時、登山時にあったあの不気味な木はどこにもなく、見えた武士の死体も灰となって消えていた。<br />　下まで降りていくと、やがて鳥居が見えてきた。<br />「あ、あれは......」<br />「ん？」<br />「鳥居が、残ってます」<br />「そうか」<br />　彼は特に不思議がることもなく頷いてきた。どうということもないというように。<br /><br />　家にもどると、彼に頭を下げた。<br />「その、ありがとうございます」<br />「ん、なにがだい？」<br />「その、助けていただいて」<br />「はは。お互いさまさ。俺も助けてもらったからねえ。それより、王多鬼丸、寂しがってたみたいだからなにかつくってやるといい」<br />「なにか？」<br />「なんだ、墓とかさ。もう今回みたいなこともないだろうから、上に作ってやるのもいいだろう」<br />　そういうと彼は刀で地面を叩いた。<br />「ここにこれからも住むんだったら、くれぐれもあちらにひっぱっていかれないようにな」<br />　意味深なことをいうと、そのまま歩いていく。着た方向とは逆の方に。<br />「達者で」<br /><br />　上をみる。そこには山があった。<br />　かわらず、鳥居が立っていた。<br />　だが、その色は以前ほど鮮明ではなく、褪せている。<br />　<br />　そこの頂上に作られた首塚には、いまでも人が訪れる。<br />　かつての大盗賊の首塚と、その想い人の墓がある頂上に。<br />　そこに続く道は草が生い茂り、静かに時を過ごしていた。<br />　誰に邪魔されることもなく。ただ悠々と。<br />　悠々と。<br /><br /> ]]>
        
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