Episode 11:再会



 リリーは顔から喉に手を持っていかれた。
 そこをきつくしめられる。
「う・・・・・・・」
 ジースターの手は思いのほか力が強く、リリーは息をすることもできそうになかった。
 なにかを見失っている。
 そう見えた。
 両手でリリーの細い喉を締め付けてくる。

 なにか言わなくちゃ・・・・・・

 ジースターは血まみれだった。
 なにをやってきたのか分からないが、とにかく体中血まみれになっていて、顔も血のカタマリがこびりついていた。
 長い間あらっていないのか、服も赤い。
 そして、汚れている。血の匂いが漂ってくる。
「・・・・・・ねえ・・・・・・・」
 小さく声を出すと、リリーは霞む視界の中で、ジースターの身体に手を伸ばした。
 そして優しく触っていく。
 腹から胸にいたるまで、もっとも血まみれになっているはずのところが怪我がなかった。
 つまり、これは返り血だということか。
 リリーはこの時点で予想がついた。
 だが、口には出さない。
 ジースターが右手を離し、ゆっくりともちあげる。
 そして腰のあたりにまわすと、白びかりするナイフを取り出してきた。
 ナイフ。
 それは赤い血がまだこびりついている。
 おそらくは例の事件だったのだろう。
 右手が外れたせいか、リリーは息をとりもどすことができた。
 予想はついた。
 多分、おそらくそれは当たっている。
 自分にできることは、彼を――――――
 まだ喉を締め付ける左手はきついが、とりあえず手をジースターの頬に持っていく。
 息が続く限り、まだできることはあるはず。
 彼の意識を。
 途切れている線を元にもどすことはできるはずだ。
 なにもできないことはない。
 ジースターの右手のナイフが振り下ろされる。
 リリーは瞬間的に目を細めながら、彼の名前を呼んだ。
 その声は大きかったか、それとも呟くようだったのか自分でもよくわからない。
 ただ、叫んでいた。
 取り戻せなかったそれをいっきにたぐりよせるために。

 その声はしっかりとジースターの耳朶をうった。

 途切れていたフラットな直線。
 それが一気につながり、元の軌跡を取り戻す。


 訪れるはずの死はリリーのもとには来なかった。
 ナイフはリリーの首筋をかすめ、肩口に小さな傷跡をのこして、ベッドに刺さる。
 ジースターの身体の力が抜け、どさり、とリリーの上に落ちてくる。
 喉を締め付けていた手が緩み、そのまま離れる。
 ナイフを静かに横に押しやり、リリーは彼の身体を抱きとめた。
 彼の手が伸びてきて、今度はリリーの手を取る。
 それは優しい動きだった。
 するりと彼の頭が動いて、リリーの首筋にキスをする。
 そのまま動いてきて、唇を重ねる。
 リリーの口の中に彼の舌が入り込んでくる。
 久し振りのキスは血の味がした。
 しかも、複数の人間の血が入り混じったような、そんな血の味だった。
 それが流れてきて、リリーの顔にぽたりと落ちる。
 だがリリーはジースターの背中に腕を回し、構わずに抱き寄せた。
「ねえ、ジースター・・・・・・」
 リリーは呼びかけたが、彼は返事をしない。
 まるで、言わなくてもつたわっているだろうとでもいうように。
「うん、言わない。だから・・・・・・」
 肌を重ねるのはあのとき以来だったか。
 出会ったとき以来。
 初めてであって、誘って、彼の優しさに会って、一緒に生活して、別れて、また出会って。
 一体この短い間にどのくらいのことがあったのか。
 変わってしまった彼を目の前にして。
 それでも、リリーはこの言葉を言えるのだった。
「アイシテルっていってよ」
 その声は彼の耳にはいった。
 こころなしか、ジースターは頷いたようにも見えた。

 彼が動くたびにリリーの体が赤く染まっていく。
 手のひらで愛撫されるたびに、唇を重ねるたびに。

 結局彼の口からその言葉は聞くことはなかったけれど。


お気に召したらポチっとお願いします。
+++ 

BACK TOP NEXT