リリーは顔から喉に手を持っていかれた。
そこをきつくしめられる。
「う・・・・・・・」
ジースターの手は思いのほか力が強く、リリーは息をすることもできそうになかった。
なにかを見失っている。
そう見えた。
両手でリリーの細い喉を締め付けてくる。
なにか言わなくちゃ・・・・・・
ジースターは血まみれだった。
なにをやってきたのか分からないが、とにかく体中血まみれになっていて、顔も血のカタマリがこびりついていた。
長い間あらっていないのか、服も赤い。
そして、汚れている。血の匂いが漂ってくる。
「・・・・・・ねえ・・・・・・・」
小さく声を出すと、リリーは霞む視界の中で、ジースターの身体に手を伸ばした。
そして優しく触っていく。
腹から胸にいたるまで、もっとも血まみれになっているはずのところが怪我がなかった。
つまり、これは返り血だということか。
リリーはこの時点で予想がついた。
だが、口には出さない。
ジースターが右手を離し、ゆっくりともちあげる。
そして腰のあたりにまわすと、白びかりするナイフを取り出してきた。
ナイフ。
それは赤い血がまだこびりついている。
おそらくは例の事件だったのだろう。
右手が外れたせいか、リリーは息をとりもどすことができた。
予想はついた。
多分、おそらくそれは当たっている。
自分にできることは、彼を――――――
まだ喉を締め付ける左手はきついが、とりあえず手をジースターの頬に持っていく。
息が続く限り、まだできることはあるはず。
彼の意識を。
途切れている線を元にもどすことはできるはずだ。
なにもできないことはない。
ジースターの右手のナイフが振り下ろされる。
リリーは瞬間的に目を細めながら、彼の名前を呼んだ。
その声は大きかったか、それとも呟くようだったのか自分でもよくわからない。
ただ、叫んでいた。
取り戻せなかったそれをいっきにたぐりよせるために。
その声はしっかりとジースターの耳朶をうった。
途切れていたフラットな直線。
それが一気につながり、元の軌跡を取り戻す。
訪れるはずの死はリリーのもとには来なかった。
ナイフはリリーの首筋をかすめ、肩口に小さな傷跡をのこして、ベッドに刺さる。
ジースターの身体の力が抜け、どさり、とリリーの上に落ちてくる。
喉を締め付けていた手が緩み、そのまま離れる。
ナイフを静かに横に押しやり、リリーは彼の身体を抱きとめた。
彼の手が伸びてきて、今度はリリーの手を取る。
それは優しい動きだった。
するりと彼の頭が動いて、リリーの首筋にキスをする。
そのまま動いてきて、唇を重ねる。
リリーの口の中に彼の舌が入り込んでくる。
久し振りのキスは血の味がした。
しかも、複数の人間の血が入り混じったような、そんな血の味だった。
それが流れてきて、リリーの顔にぽたりと落ちる。
だがリリーはジースターの背中に腕を回し、構わずに抱き寄せた。
「ねえ、ジースター・・・・・・」
リリーは呼びかけたが、彼は返事をしない。
まるで、言わなくてもつたわっているだろうとでもいうように。
「うん、言わない。だから・・・・・・」
肌を重ねるのはあのとき以来だったか。
出会ったとき以来。
初めてであって、誘って、彼の優しさに会って、一緒に生活して、別れて、また出会って。
一体この短い間にどのくらいのことがあったのか。
変わってしまった彼を目の前にして。
それでも、リリーはこの言葉を言えるのだった。
「アイシテルっていってよ」
その声は彼の耳にはいった。
こころなしか、ジースターは頷いたようにも見えた。
彼が動くたびにリリーの体が赤く染まっていく。
手のひらで愛撫されるたびに、唇を重ねるたびに。
結局彼の口からその言葉は聞くことはなかったけれど。