プロローグ



 目覚めると彼女は眠っていた。
 多分つかれたんだろう。黙って眠らせておいて、とりあえず自分は今この文章を書いている。こっそりベッドから抜け出して、部屋にあった紙とペンを手にとって、こっそりと書き始める。

 以前もこんなことがあった。
 俺が抜け出すとたしか手首をきっていたあいつだが、いまは静かに眠っている。いまだにあれの原因がわからないのだが、多分あれは知らなくても幸せなことだろうと思って、とりあえずあきらめる。それに今のこいつは起こしてもおそらく起きるまい。

 俺が書いている文章は日記なんだろうか。たぶん違うだろう。
 回想記、といえばそれらしいかもしれない。だけど俺がこの一連の事件のなかでまともな意識を保っていたのは数時間に一回の短期間にすぎないから、俺が書いても後世の連中を納得させるには相当言葉を重ねる必要があるだろう。もし知りたければほかの生き証人に聞くのが一番だ。といってもこれが百年後に読まれているようでは意味なんてものはないかもだけど。

 多分人殺しの話と言われるだろう。
 歴史上まれにみる連続殺人犯。
 そして俺がここにいて、警官がいないということはこの事件は迷宮入りにでもなったんだろう。
 船の上にある新聞を読めば、たいていそれは予想できてしまうものだよ。
「切り裂きジャック迷宮入り」の文字が書いてあるからさ。
 俺はなにをしてたんだろうな。実際の話。


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