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    <title>The Realstreet</title>
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    <updated>2009-09-30T12:38:02Z</updated>
    <subtitle>十九世紀末のロンドンで起きた連続殺人事件、切り裂きジャック。それに巻き込まれた一人の若者と一人の娼婦のとある恋話。</subtitle>
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    <title>あとがき</title>
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    <published>2009-09-30T12:33:03Z</published>
    <updated>2009-09-30T12:38:02Z</updated>

    <summary>　宗教の話だといくつかあるのだけれど、有名なのはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　宗教の話だといくつかあるのだけれど、有名なのはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教かな。仏教はとりあえずおいといて。<br />　実はこのみっつ、同じ神様を信じているらしい。<br />　そしてその大本の原本にはいつか救世主が現れて世界を救うみたいなことも書いてあるんだって。わー。<br /><br />　そんなことよりThe RealStreetを読んでくださってありがとうございます。<br />　この小説はsrockstyle三周年記念小説です。<br />　srockstyleの前身サイトのOne Draftで連載していたものに加筆修正を加え、今回記念小説として公開しました。元はモノカキ友達と<br />「お互いのサイトで恋愛小説をかいてみようぜ！」<br />　と共謀してできあがった作品なんですがおもいきりファンタジーに走りすぎました。<br />　切り裂きジャックはこんなんじゃないと思われたかもしれませんがこんなものかもしれません。人を殺すのに彼がなにを感じていたかとかは、もう想像の域をでないわけですし。<br />　<br />　こんなものでも面白いと言っていただけたら幸いです。<br />　<br />　それでは、The Realstreetを読んでくださってありがとうございました。<br />　<br />BGM "If You Tolerate This your children will be next" by Manic Street Preachers ]]>
        
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    <title>Episode 19:True</title>
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    <published>2009-09-30T12:31:59Z</published>
    <updated>2009-09-30T12:40:00Z</updated>

    <summary>　そして真実は、すべて闇の中に。&quot;The RealStreet&quot; Closed....</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　そして真実は、すべて闇の中に。<br /><br /><br />"The RealStreet" Closed.<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 18:Go to Other Place</title>
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    <published>2009-09-30T12:30:47Z</published>
    <updated>2009-09-30T12:31:38Z</updated>

    <summary>そして、この物語もそろそろ終わる――――――　････････ぽつり。　ジースタ...</summary>
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        <![CDATA[そして、この物語もそろそろ終わる――――――<br /><br /><br /><br />　････････ぽつり。<br />　ジースターはぼんやりと目を覚ました。<br />　あいつがどうなったのはともかくとして、ぼんやりと―――――<br />　目に入ったのは、しろい天井。<br />　なぜかいつも寝なれないような、しろいシーツ。いつも自分が使っているものより、数倍は高価そうなものだ。<br />　はっとして目を覚ます。<br />　ココは･･････<br />　それから身体を起こそうとして、伸びてきた手に阻まれる。<br />「あ、起きたね」<br />　リリーだった。<br />　いつもとは違う白い服を着ていた。赤いドレスはどこにいったのか分からなかったが、彼女が着ているのは白いブラウスにスラックスだった。<br />「ちょっとまて･･････ここはどこだよ？」<br />　明瞭としない意識のなか、ジースターはリリーに訊ねた。<br />　彼女はくすくすと笑って、指を立てて見せてきた。<br />「さあ、どこだと思う？」<br />　聞き返されてもこまるというものだが。<br />　だが、妙にくる小さなゆれと、部屋の装飾からして、すこし予想がつきそうなものだ。<br />「船か･･･････」<br />「正解」<br />　リリーはニッコリと笑って、ジースターのとなりに倒れこむようにして寝転がった。<br />　彼女の目の下にはくまができていた。眠ってないらしい。<br />　きまりが悪そうにジースターは頬をかくと、リリーのやつれた顔を見つめながらきいた。<br />「その･･････大丈夫か？」<br />「あんたこそ大丈夫？　あばらイッてたらしいけど？」<br />　彼女はあいかわらずにこにことこちらを見てくる。<br />　だがその顔には疲労の色が濃い。<br />「でもね･･･････あたしたちこれから新しい所いくんだよ。そこで別な生活はじめるの」<br />「････････おめでとう」<br />「あんたもだよう」<br />　そういってリリーはジースターの頭をこつんと叩いて見せた。<br />　ベッドに入れる前にシャワー浴びさせたから、血の匂いやあとなどはついていない。<br />　リリーが一人で気絶している男をシャワー浴びさせたのだから、それもそれで重労働ではあった。<br />　だが、どうでもいい。<br />「どうしようか。昼間だし、上に上がってみようか？　それともここで寝ようか？」<br />「寝よう。お前眠そうだ」<br />　ジースターはそういうと、リリーの身体を抱き寄せた。<br />　あいかわらず暖かい、彼女の身体。<br />　<br />　彼女はこちらを見上げてきた。<br />　その顔は、からかうわけでもなく、笑うわけでもなく、真面目というわけでもない、微妙な表情を浮かべていた。<br />「･･･････好きだよ。ジースター」<br />　ジースターは頷いて、彼女の唇にキスをした。<br />　リリーは唇を離すと嬉しそうに笑って、ジースターの胸に自分の顔をおしつけた。<br />　彼の怪我をしている部分を避けながら、ゆっくりとまどろみはじめる。<br />　数分もすると、二人は小さく寝息をたてていた。<br /><br />　<br /><br /><br />　その客船は、朝の空気が漂う海の上を煙を立てて進んでいく―――<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 17:お別れ</title>
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    <published>2009-09-30T12:29:07Z</published>
    <updated>2009-09-30T12:30:32Z</updated>

    <summary>　クラレンスはすでに赤い火に包まれている酒場をあとにし、彼らを追って裏路地に回り...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　クラレンスはすでに赤い火に包まれている酒場をあとにし、彼らを追って裏路地に回りこんでみた。<br /><br />　いける場所の裏路地といえば、大体予想がつく。<br />　クラレンスがしばらく歩いていくと、そこに二人はいた。<br />　リリーが気を失ったジースターを抱きしめている。<br /><br />　彼らはなにも言わずに、ただ、抱きしめている。<br />　気持ちは、わかっているつもり。<br /><br /><br />　クラレンスは近くの壁に寄りかかりながら、彼らをみた。<br />　その目に映るのは、哀愁と羨望だった。<br /><br /><br />　しばらくしてから、リリーがこちらにむかってきた。<br />　重いであろうジースターの身体を背負って、言ってくる。<br />「･･･････ありがとう」<br />「いや、僕は責任とっただけさね」<br />　首を振って、言う。<br />　慎重に言葉を選び、つづける。白んできた空を眺めながら、<br />「本当のジャックに勝つためには、君ら二人の力なんだよ。僕がどうこうできる問題じゃない。それに、今回は僕に落ち度があったからね」<br />「なにが？」<br />「気付かないならいいけどね･･･････まあ、二人でゆっくり話し合ってみるといいよ。わからないことはたくさんあるだろうし。これから時間もできるだろうし」<br />　ため息をつく。<br />　世の中には知らないほうが幸せなこともあるものだ。<br />　クラレンスは壁から背中を外すと、リリーに黒いコートとブーツをわたした。それからジースターを指さして伝える。<br />「そいつの着ているもの取替えなよ。そのままじゃいかにもって感じだから」<br />　踵を返し、裏路地をさらに奥に行く。リリーに向かって、ついてくるようしめした。<br />「彼も連れてきて。そこに馬車を待たせてあるんだ。ちょっとロンドンから離れてもらわなきゃ」<br />「？」<br />　クラレンスはりリーの怪訝そうな顔をみて、にやりと笑って見せた。<br />「君らには、この国をでてもらう」<br />　その言葉にリリーは驚いたように目を見開いた。<br />　クラレンスの顔は真面目だ。<br />　しばらく時間がかかった。<br />「･･････････わかったわよ。出ればいいのね」<br />　無理やりといった感じで納得したリリーはジースターを抱えたまま、歩いていく。<br />　空が白んできた。<br /><br />　朝が近い。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />「客船･････････？」<br />　リリーが目を見開いて、出航準備をしているその大きな客船を見た。<br />　見るのは初めてだったのか、驚いているのやら、困惑しているのやら。<br />「いや、貿易船でもある。北欧のほうに向かうヤツだね。今の時間が一番人が少ない」<br />　それをみてクラレンスは苦笑しながら彼女の手をとって、そこに切符を二枚押し付けるようにして握らせた。<br />「え･･･････？」<br />　彼女はさらに怪訝そうに眉をひそめた。<br />　もはや猜疑心たっぷりの視線だった。<br />　疑われるのは当然だろう。彼らにとって都合がよすぎるのも分かっている。<br />　だが、一番手っ取り早い方法でもあった。<br />　クラレンスは首を振ると、安心させるように笑った。<br />「大丈夫だよ。本物さ」<br />「でもこれ･･･････もしかして･･･････」<br />　頷いて、客船を指さす。<br />「そうだね、あれに乗るための切符さ。本当ならすごく高いんだぜ？」<br />　リリーは頭を振って、正気をとりもどした。<br />　それから訊く。<br />「本気なの？　逃がしてくれるの？」<br />「君らに落ち度はないんだから。正当な逃亡は認めるよ。すくなくても、僕は君らを悪いやつとは思わないし。いいやつと悪いやつの判断もできないような神はいないんだよ」<br />　そういうと、顎をしゃくってうながす。<br />　船の中に荷物が運ばれていく。この時間でも乗る人間は何人かいるようで、数人の人間たちが乗り込んでいく。<br />　リリーはさらに聞いてきた。<br />「あなた･･･････疑われるよ？　いいの？」<br />　その言葉に対して、クラレンスは軽く肩をすくめてみせた。<br />「そんときは王宮がなんとかするさ。僕を疑うってことは彼らもそれなりの度胸ってのを必要とするだろうしね。それよりいきなよ。出航まであと少ししかない」<br />「うん」<br /><br />　リリーは頷くと、クラレンスに一度会釈してから、ジースターを背負ったまま中に入っていった。<br />　ジースターの服に血はもうついていないので、まわりから疑われることはない。ただ、訝しげな視線をむけられるだけだが。<br /><br />　クラレンスはその背中を見送る。<br /><br /><br />　彼らが入っていって、数分後だった。<br />　夜明けを示す時間帯だ。<br />　その船は、出港した。<br /><br /><br />　蒸気船独特のエンジン音があがり、その船は港を離れ始める。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 16:最後の殺人</title>
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    <published>2009-09-30T12:26:45Z</published>
    <updated>2009-09-30T12:28:10Z</updated>

    <summary>　死のうかとおもったことはあるかね？　ジースターは路地裏に倒れこみながらぼんやり...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　死のうかとおもったことはあるかね？<br /><br />　ジースターは路地裏に倒れこみながらぼんやりと考えた。<br />　銃弾は腹に仕込んでおいた鉄板でなんとかやり過ごせたが、衝撃までは防ぐことが出来なかった。<br />　スラム街を歩いていると時々暴漢に襲われる。<br />　以前襲われたとき以来から腹に仕込んでいた防御用の鉄板だった。<br />「う･･････げほっ！　げほっ･･･････」<br />　口からなにやら赤い液体が飛び出してくる。<br />　なにかにつけてそれは身体から飛び出てくる。<br />　どうしようもないことはわかってはいたが。<br /><br />　････････戻ってきたのは自分。<br />　いまココにいる自分。<br /><br />　トリップ状態から目覚めると、ジースターはなにかものすごい疲労に襲われる。なにをしていたかも忘れてしまう。<br />　だが、それではなかった。<br />　自分の中になにかが潜んでいる。<br /><br /><br />「ジースター！」<br />　声がする。<br />「ジースター！　しっかり」<br />　足音が近づいてきて、自分を抱き上げる。<br />　ふと、なにか懐かしい匂いがした。<br />　なんだか、昔に置いてきたような、そんな感じの――――<br /><br />「･･････ぃぃ･･････」<br />　なんとか声を絞り出す。<br />　先ほどの衝撃と今までたまりにたまった疲労で、とてもじゃないがこれ以上身体を動かす気にはなれなかった。<br />　腕も上がらない。<br />　限界なのだ。<br />　その女――――――金髪碧眼の赤いドレスを着た娼婦、リリーは必死になってこちらの身体をゆすってきた。<br />　それから首をふって無事であること伝えると、リリーは腕をコチラの背中にまわして引き寄せてきた。<br />　柔らかい感触とともに彼女のつけている香水の匂いがはなについた。<br />　なんだか、かぎなれた匂いのせいか、すでにきついとか辛いとか、それ以前に安心させてくれる。<br /><br />　自分を失っている。<br />　ジースターは確信した。<br /><br /><br />　と。<br /><br />　影が伸びている。<br />　月光がちょうど斜めに降りてきて、すべての地面に青白い光を降ろしている。<br />　そこに人影が現れる。<br />　いきなりだったので、ジースターはそれがなにか、よくわからなかった。<br />　しかもそいつは黒い服装を着ていたので、よく判別がつかない。<br />　ヒトと気付くまでにも時間がかかった。<br />　声をかけられて、初めて気付く。<br />「よお、仲がいいな」<br />　すっと、リリーの後ろにそいつは立った。<br />　地面から浮き上がってくるような感じにでてきたそいつは、黒いコートをきて黒いバンダナを締めていた。<br />　そして自分と同じ顔をしていた。<br />　<br />　思わず目を見開く。<br />　リリーはこちらの身体を抱きしめている。<br />　あたりが無音状態のように静かで、そいつはこちらに近寄ってきた。<br />「ほー、よくお前オレに会えたな。望んでたのか？　それともどうなるか知ってみたかったのか？」<br />「いや･･･････ちがうと思う･････しかし、なんなんだ」<br />　ぼんやりとそいつを眺めながら、ジースターは言った。<br />　どうなってんだ？　これは？<br />「お前はなんだ、オレの分身か？」<br />「あえていうなら精神の分身つったところか」<br />　ぼんやりとそいつは言った。その手には鋭いナイフが握られている。<br />「まあ、お前の刺の部分があつまってできたのがオレさ。口も悪いだろ」<br />「そりゃあ･････」<br />　リリーは自分たちの会話に気付いてないのか、なにも言わない。<br />　ぶつぶつとなにかを呟いているようだが、ジースターの耳には聞こえない。<br />　ただ、目の前の男の言葉だけが聞こえてくる。<br />　相手はなにやら陰険な笑みを浮かべながら、聞いてきた。<br />「じゃあ、どうなんだ？　お前は殺したかったのか？」<br />「いや」<br />　ジースターはあっさり首を振った。それから男を見つめながら言う。<br />「お前だろ。なんででてきたんだよ。いまさらになって」<br />「あのクラレンスとかいうやつのおかげさ。あいつはヒトの心のリミッターを外せるらしい」<br />　また不可思議なことを言ってきた。リミッター？<br />　ジースターは眉を怪訝そうにひそめながら言った。<br />「なんだよそれ」<br />「まあ、なんつうか、誰だってあるだろ。やってみたかったけど、いろいろな抑制があってできないこととか、決心がうまくつかないこととか、本当はやりたいのにできないでいることとかさ。そういう心のなかで妨げになっているものを、クラレンスは外せるんだよ。ま、お前の場合は――――――」<br />　そういってそいつは手の中のナイフを回してみせる。<br />「攻撃衝動だったか。どっかでストレスでもたまってたのさ。なにかにあたりたい気持ちを必死で抑えていただろう？」<br />「･････････」<br />　ジースターは納得してしまいそうになるのを耐えた。というより、すでに頭では認めていた。<br />　なにしろ正解しかヤツはいわない。<br />　そのまま陰の男は続けてくる。<br />「リリーの場合は自殺したいっつう気持ちだったんだろ。そういう生活から足を洗いたいんだが、どうしようもできねーで悩んでたんだよ。だから結論は自殺だったんだけどそれもできなくて、最後に優しくしてもらったお前と一緒にいることで、精神を安定させようとしたんだよ。知ってるか？」<br />「･･･････････まあ、うすうすとな」<br />　だが陰の男はジースターのその答えすら鼻で笑ってきた。<br />「は！　そんなことだったらこういうことにはなりゃあしねえんだ。その辺オレに感謝してもらわにゃいかんわな。リリーを買ってた奴らをオレが殺してやった。リリーを締め付けていたヤツラを殺してやった。どうだ？」<br />「そんなのは理由になんねーよ。ヒトを殺していいことなんかねえんだから。すくなくても、オレに残るのはなにひとつないじゃないか。リリーだって･････」<br />　とにかく言い返したかった衝動からか、そいつにむかって吐き捨てるようにそう言うと、陰の男はふんと鼻をならした。<br />「だからって、お前にできることはないんだよ。オレがいなくなれば、リリーはお前を必要じゃなくなる。どうせそいつが必要としてるのは、毎日一緒にいてくれるだけのやろうなんだからさ。んなのはどこにでもいるだろうが。だとすれば、ジースター、お前がリリーにできることは最初から決まってたのさ」<br />　リリーの背中に手を回し、引き寄せる。<br />　ぬくもりが伝わってくる。<br />　嘘でもまやかしでもないこのぬくもり。<br />　ジースターはその男からリリーを庇うように、後ろにさがった。<br />　だが、そいつはその分前進してくる。<br />「････････そいつを、殺してやるんだよ。お前の手でな。いや、お前の攻撃衝動を集めた、オレがな」<br />「･･･････めろ･･･････」<br />　ぼそりと呟いた。<br />　だが、ジースターは手を伸ばせない。<br />　そいつは意地悪そうに笑みを浮かべるとわざとらしく訊き返してきた。<br />「なんだって？」<br />「やめろ････････」<br />　もういちど続ける。<br />　だが、その陰の男の手はすでにリリーの背中に触れている。<br />　ナイフがそこにあてがわれる。<br />「中にこいつをうめこんでひねれば終わりだぜ？」<br />　ジースターは息を呑んだ。<br />　思い切り手を伸ばしてその腕を掴む。<br />　そして―――――――――――<br /><br /><br />　翻すように、その腕の向きを逆にし――――――――<br /><br /><br />「！」<br />　陰の男が始めて焦ったような表情を浮かべた。<br /><br /><br />　そして、彼の胸に突き刺した。<br /><br /><br />　････････････これが【切り裂きジャック】の最後の殺人となった。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 15:ジョーカー</title>
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    <published>2009-09-30T12:22:48Z</published>
    <updated>2009-09-30T12:26:21Z</updated>

    <summary>　人が死ぬことで儲かる場所といったら？　＋＋＋＋「ホントに助かりましたよ。うちも...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
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        <![CDATA[　人が死ぬことで儲かる場所といったら？<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />「ホントに助かりましたよ。うちもかなり発行部数伸び悩んでまして、どうしようか悩んでいた所だったんです」<br />「いえいえ、気にすることはないですよ。世の中は面白い事件の宝庫ですからね。工夫をすれば発行部数を伸ばすことぐらい楽な仕事です」<br />「いやー、しかし、この案はある意味驚きました。殺人鬼をここまで扱えるのはすごいですねえ。ホント見習いたいですよ」<br />「まあ、そういうことをおっしゃる。ささ、お酒でもどうですか？　新しいのが入ったんですよ」<br /><br />　目の前のカウンターに座っている新聞記者にブランデーをすすめながら、テリーはにこにこ笑っていた。<br />　記者が握っている手帳はいろんな言葉で埋め尽くされていたが、あちこちに【切り裂きジャック】という言葉が見え隠れする。<br />　テリーはかなり高揚した気分で、酒を記者に注いだ。<br />「また困ったときは言ってきてください。いつでもお受けしましょう」<br />「はは、これから減っていかれなければよいのですけどね」<br />　そんなことを話しながら。<br /><br />　と。<br /><br />　いきなり酒場の扉が開いた。<br />　ばむ、と音がして人影を飲み込む。<br />「いらっしゃ･･･････おお、ジースターじゃねえか！」<br />　テリーは目を見開くと、手を振った。<br />「どうしたんだお前！　最近いなくなって。皆心配してたんだぞ！」<br />「････････そっか」<br />　ジースターはなにやら薄汚れた顔をぽりぽりと掻いて、それから酒場に入ってきた。<br />　黒いコートに身体を包んでいる。あちこちが血で汚れているので、テリ―はふざけ半分でこんなことを訊いてみた。<br />「お前なにやってたんだ？　喧嘩か？」<br />「ああ、まあちょっとそこで襲われたから」<br />　ぼんやりと答えるジースターにテリーはにこりと笑って見せた。<br />「お前も無茶するなあ。リリーがらみか？」<br />「さあね」<br />　そらっとボケる彼を無視して、テリーはカウンターの下に置いておいたものを取り出した。<br />「そうそう、こないだ新しいのが入ったんだが」<br />「酒か？」<br />　ジースターが言ってくるのを無視して、笑顔で答える。<br />「いんや、新しい銃さ」<br /><br /><br />　その言葉を聞いてジースターが顔をひきつらせる。<br />　テリ―はにやりと笑みを浮かべると、その銃口を彼にむけた。<br />　そしてカウンターの裏からそれを放った。<br /><br />　爆音。<br /><br />　ジースターの腹にそれはあたって爆発を起こし、そのまま後ろに吹き飛ばす。威力は思いのほか強く、ジースターは壁に叩きつけられた。<br />　煙があがる。<br />　ジースターが完全に沈黙したのを見てから、テリーがにやりと笑う。<br />「けっ、馬鹿が。くたばるんだな」<br /><br />　"切り裂きジャック"の操り役が表情を表した瞬間だった。<br /><br />「感心しないね。テリーさん」<br /><br />　ドアの方に酒場にいた客の視線が集中する。<br />　テリーは先ほど手にしていた銃をカウンターにおきながら、視線を送る。<br />　それから目をみひらいた。<br />　そいつはにやりと笑うと、テリーを含めた回りの連中を見やった。<br />「ようやくわかったよ。僕の手下も含めて、君らが全部やってたってわけだ」<br />「お前･･･････クラレンス！　なんでここに･･････」<br />　テリーとその記者が驚きの声をあげる。<br />「お、お前、なんだ！　なんでここを知ってるんだ！」<br />「いや、ちーっとばかり今回は王宮側も黙っていられない事態になったんでね。この事件は迷宮入りになってもらおうかなと。ああ、発行部数にかんしては問題ないよ。理屈はつけない。ただ、ちょっと君らには黙っててもらうだけさ」<br />「･････････」<br />　記者がなにか言った。<br />　クラレンスは怪訝そうに眉をあげる。<br />「なんだって？」<br />「テリー！　あいつを殺してくれ！　切り裂きジャックのせいにしてしまえば、どうだってなるだろ！　金だってはいる！」<br />「なにを恐れてるんだか」<br />　クラレンスはため息をつくと、にやと笑って見せた。<br />「その当人のジャックさんはいずこへいかれたのかな？」<br />　みると、壁が壊れているところで、ジースターの姿はなくなっている。<br />　テリーと記者が表情をゆがめるのが見えた。<br />「そんな馬鹿な･･･････」<br />「あいつは生きてるわけ。腹になにか仕込んでいたと見えるね。君らには所詮殺せるようなヤツじゃないんだよ。すくなくても普通の人間に【切り裂きジャック】を殺すことはできない」<br />　クラレンスはそう言うと、眉をあげて見せた。<br />「僕がやってあげよう。その代わり、君らにはちょっと黙っててもらおうかな･････全員か」<br />　その科白と同時に、酒場にいた男達全員がクラレンス目掛けて踊りかかった。<br />　銃声と罵声、そして殴り合う音が酒場をぬけて通りに響き渡る。<br /><br /><br />　案外、ことは早く済んだ。<br /><br /><br /><br />　血まみれで倒れている男達を眺めながら、クラレンスはふうっと息をついた。<br />「だから言わんことではないのだよ」<br />　そして奥で呆然としている二人をみる。<br />　記者とテリー。<br /><br /><br />「君らかね･････悪いけど、この酒場には消えてもらうよ」<br />　クラレンスはそこに近づいていくと、彼らにも処置を施した。<br /><br /><br /><br />　絶叫があがった。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 14:死ねるか、殺せるか</title>
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    <published>2009-09-30T11:25:08Z</published>
    <updated>2009-09-30T12:22:41Z</updated>

    <summary>　転がりまわっている男の顔面をジースターの蹴りがおそう。「がぶ！」　なんだか分か...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　転がりまわっている男の顔面をジースターの蹴りがおそう。<br />「がぶ！」<br />　なんだか分からない悲鳴をあげて、男が仰け反る。<br />　そして次の瞬間にはその腹にジースターが拳を見舞っていた。<br />　内蔵が潰れるようなぐしゃ、という音が響いた。<br />　続いて右頬をナイフの柄で殴り飛ばすと、両方の拳がどんどんその中年男の身体にぶちこまれていく。<br />　そのたびに血があがり、あたりに飛び散っていく。<br /><br />　リリーは後ろでその姿を見ていた。<br />　なんとか立ち上がり、ドレスの胸元をなおし、ジースターを見る。<br />　また襲ってくる吐き気に耐えながら、その変わり果てた姿をみた。<br />　なんとかしなくちゃ･･･････<br /><br />　よろよろと立ち上がり、その背中に抱きつく。<br />　そして引き寄せ、動きを止める。<br />「･･････やめてよ」<br />　ジースターが殴る寸前で手を止めた。<br />　中年の男はすでに顔面は陥没していて、ぴくぴくと痙攣している。恐らくもう長くはあるまい。<br />　血まみれのそれをまるでこわれた玩具をみるような目つきで見下ろすジースターに、リリーはすがるような気持ちで呼びかけた。<br />「･･･････ヒトは殺さないで。あんたはもっと優しいはずだよう･･･」<br />　なんだか言葉が変になっていたが、とりあえず構わずに続ける。<br />「それ以前に、殴る事も怒ることも出来ない人間だよ･････。どうしてこう簡単にヒトを殺せるの？　殴れるの？」<br />「......」<br />　どん、とジースターはリリーを乱暴に引っぺがすと、床に叩きつけた。<br />　再び背中から落ちて息を詰まらせる彼女を尻目に、ジースターは踵を返して歩き始めた。<br />　すでに靴底にも血がついているので、足跡もつく。<br />　後ろ姿は以前とはまるで別人のようだ。<br />　そこから出て行こうとする。<br />　が、リリーは構わず呼んだ。<br />　このチャンスは無駄に出来ない。<br />「ジースター」<br />　ぴた、と彼がドアから出て行く前に動きを止めた。<br />　その背中目掛けて言う。<br />「････････殺せないんでしょ」<br />　リリーは笑いながら言った。なぜ笑えるのか自分でもわからない。<br />　嘲るように笑みをうかべ、腹の底から湧きあがってくる衝動にを身を任せた。<br />「････････他の女のヒトやそのおじさんは殺せても、あたしは殺せないでしょ」<br />「･･･････んだと？」<br />　ジースターがこちらを振り向いてくる。その目はいままでリリーが彼とつきあってきたなかで一番冷たい目だった。<br />　それに打ち負かされて泣き出したくなるのを必死でこらえながら続ける。<br />「････あんたにはあたしを殺すことが出来ないんだよ！」<br />　リリーがそう叫んだ瞬間、ジースターがナイフをもってコチラに近づいてきた。その目は以前自分と一緒にいてくれた彼ではない。<br />　まるで別な他人をみているようだった。<br />（怖い････････）<br />　がちがちと歯がなるのがわかったが、それでもリリーはジースターから視線を外さなかった。口元は笑っていることに気付く。まだか。自分は。<br />　彼の目を見据え、そこに昔のジースターを見出そうとする。<br />　彼の腕が伸びてきて、こちらの首をつかんだ。<br />　顔が近づいてきて、鼻先数センチのところから血の臭いのする息をはきつけてきた。<br />「オレが、お前を、殺せないだって？」<br />　その声は今までで一番冷ややかな声だった。<br />　リリーは手が震えているのがわかったが、それを背中にまわしながら、言った。<br />「そうだよ･･･････」<br />　声が震える。<br />「あのとき、ジースターはあたしのことを好きだっていってくれたんだから･･････知ってる？　好きなヒトを殺すことは、好きなヒトのために死ぬより辛いんだ････本当に････････自分の気持ちぐらいわかってるなら･････あんたはあたしだけは殺せないよ･･････なにがあったって･･････」<br />　なにを言っているか自分でもさっぱり、いや、それ以前になにを言いたいのかすら分かっていなかった。<br />　そもそも【切り裂きジャック】を前にして自分にできることなどない。<br />　がくがくとくる指先の震えを必死で隠そうとしたが、リリーの身体はやっぱり正直だった。<br />　目が霞んできたかとおもうと、涙がこぼれた。<br />「あんたが･･････あたしのことみてさ･････どう感じたかなんて考えるつもりもないけど･･････少なくても、あたしはあんたが好きで･･･････あの言葉だってそんなウソのつもりじゃなかった･････できたらいいなって本気で思ってた･････できたらこのヒトなら･････っておもった」<br />　ぶつぶつと細切れになる間、リリーの目からは涙が絶え間なく流れてくる。感情の奔流が流れ出てくるようだった。<br />「あんたはさ･･･････なんで裏切るの？　なにを裏切ってもいいからさ････せめて信じているやつの気持ちぐらい考えてやってもいいんじゃないの･････せめて自分が好きなヤツの言葉ぐらい････信じてやろうとか思わないの･････？」<br />　言葉は続く。<br />　リリーは必死でなにかを伝えようとした。<br />　だが、うまい言葉が出てこない代わりに、どうでもいいような言葉がずらずらと出てくる。なにをいおうとしたのか、なにを伝えようとしたのか。<br />　もうわからなくなって、ぶつぶつと････････<br /><br />　<br />　ジースターがこちらの首を握る手に力を入れると、ナイフを振りかぶってきた。<br />「言いたいことはそんだけ？」<br />　ものすごい速さでナイフが眼前にせまる。<br />　リリーは思わず目を閉じた。<br /><br />　でも、やられるならそれも本望だったりした。<br />　死ぬことは殺すことより簡単だから。<br /><br /><br />　だが、そうはならなかった。<br />　横合いから伸びた手がジースターの腕を掴んだのだ。<br />「なあ、ジースター。そこまでにしとけよ」<br />　クラレンスだった。<br />　そしてその手が素早くジースターの胸元にあてがわれる。<br />　そこでくくっとなにかを描く真似をした瞬間だった。<br /><br /><br />　ジースターの目が見開かれる。<br /><br /><br />　そして彼の身体は吹っ飛び、窓の外にまで飛ばされた。<br />　リリーは呆然とそのアクションをみていることしかできなかった。<br />「な、なにを･･･････」<br />　クラレンスは首を振ると、言ってきた。<br />「なにをやったかって？　簡単さ。彼の中の【切り裂きジャック】を取り除こうとしただけさね」<br />　リリーは素早くドレスを直すと、立ち上がった。<br />「追わなくちゃ･･････」<br />「そうだね。まだ完全に根は絶っていない。しばらくして回復したらあいつはまた人殺しを始めるね」<br />　またわけのわからないことをぶつくさと呟いている彼に、リリーは言った。<br />「･･････とめるんでしょ」<br />「そうさ」<br />　クラレンスはこちらを無視してさっさとドアから出ていってしまった。<br />　呆然とその背中を見送る。<br />　なにはともあれ、あれをとめることはできそうにない。<br />　本格的に殺すことに走ったならば、完全に殺されていたからだ。<br />　彼はジースターの中になにかがひそんでいることを知っているのか。<br />　それとも、こういうことをさせている本人が彼なのか。<br /><br />　リリーはふたたび震えだした右手を押さえ込み、急いでクラレンスの後を追った。<br />　ここで終わりにしたい。<br />　どんなことになっても。<br /><br />　最後、ドアから出るときに、ぐしゃぐしゃになって、変わり果てた姿のメアリーの死体が目に入った。<br />　彼女はなにを言おうとしていたのか、よくわからないけども。<br /><br /><br />「――――――ありがとう」<br /><br /><br />　この言葉を置いて、リリーは夜中の通りへと繰り出した。<br /><br /><br />　かくしてこの事件ももうすぐ終わる――――――――<br /><br /> ]]>
        
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    <title>Episode 13:犠牲者たち</title>
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    <published>2009-09-30T11:24:10Z</published>
    <updated>2009-09-30T11:24:59Z</updated>

    <summary>　あれからおよそ一ヶ月。　リリーの知り合いの売春婦も殺されていたが新聞沙汰にはな...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/therealstreet/">
        <![CDATA[　あれからおよそ一ヶ月。<br />　リリーの知り合いの売春婦も殺されていたが新聞沙汰にはなっていない。<br />　所詮命の優先もされていないのだろう。<br />　なにかもの哀しいものを感じて、リリーは仕事を終える。<br />　いつもどおり、なにか頭痛と吐き気に襲われながら娼館をでる。<br /><br />　あれからジースターの家には時間が許す限り通うようにしていたが、彼が帰ってくることはやはりなかった。<br />　なにか、いろいろあるのだろう。<br />　彼のことがずっと気になっていた。<br />　なにか、ずっと考えていた。<br />　仕事上他の男と寝るときでも、彼のことはずっと頭にあった。<br />　これが【アイシテイル】ということだろう。<br />　求めていない。<br />　だからこそいえる言葉だ。<br /><br /><br />　リリーは珍しく、夜の時間帯を歩いていた。<br />　危険な時間帯なので、普段はあまり出歩かない。<br />　殺人はことを耐えないし、数人の荒れくれた男達による集団レイプなんてこともある。実際リリーもそういうのに襲われかけた。<br />　だからなるべく大通りをあるき、はんぱな裏通りに入らないようにする。<br />　そうやって歩いていくのだが、やっぱり街角の裏路地への入り口からはなにやら肉を切り裂く刃物の音が聞こえたり、悲鳴があったり、あるいは女の嬌声があがったりといろいろやかましい。<br />　静かな世界に突然響くそれらはあまりに不気味すぎた。<br />　そのあたりがまさにスラム街といったところか。<br /><br />　そして夜というのは結構思いつめてしまう時間帯でもあった。<br />　そういうことをセーブすることにはなれているつもりだったが、最近はそれがどうもうまくいかない。<br />　なにか、心の破片がかけているような感覚は途切れることなく続き、自分をどんどん狭いところに追い込んでいく。<br /><br />「またひとりぼっちになっちゃったなぁ･････････」<br /><br />　そんなことを呟いてみる。<br /><br />　ひとりでなかったらこんな職業につくこともなかったのだ。<br /><br /><br />　その友達の家はイーストエンドのミラースコード十三番地にあった。<br />　ドアをノックする。<br />「はぁーい」<br />　明るい声と同時にドアが開き、白いカーディガンをきた一人のロングヘアーの女がでてくる。ぱっちりした目の美人だ。<br />　年齢は二十代はんばほど。<br />　仕事仲間といえば仕事仲間だ。<br />　一応ね。<br />「あら、リリーじゃない！　どうしたのこんな時間に！　入って入って」<br />　とりあえず会釈して中にいれてもらう。<br />「メアリー･････ちょっと助けてほしいんだけど････」<br />「まあまあ、座ってよ。危なかったでしょー。このあたり最近殺人流行ってるみたいだからさ。何飲む？　紅茶がいい？　酒がいい？」<br />「あ、紅茶ちょうだい。喉かわいちゃった」<br /><br />　彼女――――メアリー・ケリーはリリーの友達だ。<br />　最近知り合ったのだが、気さくで結構話せる人間だ。<br />　話せるヤツ―――――――<br /><br />　彼女ははんば強引にリリーを座らせると、にこにこしながら紅茶を差し出してきた。<br />「で、どうかしたの？　ていうかさ、あんたあまりここらへん出歩くもんじゃないよ？　切り裂きジャックとか、いまいるそうじゃない」<br />「うん･････そうなんだけどね」<br />「相談事ならいつでも乗るからさ、せめて昼間のうちにおいでよ。あたし今日は非番だったからよかったけど、明日だったらあえないよ。夜はずっと歩いているから」<br />「仕事ね･･･････」<br /><br />　売春婦は夜が仕事時だからだ。<br />「あたしでよかったら相談のるよ。なにがあったの？」<br />「えーとね･･･････」<br />　こうなるとかえって話しづらい。親しいことは親しいのだが、彼女と話すときはそれ以上のなにかを気をつかわなければならないような感じがするのだ。<br />　開放的な性格をしているが、これでは少し･･･････シリアスな相談は出来なさそうな気がする。<br />　リリーは嘆息した。<br />　すると、紅茶をすすりながらメアリーが眉をしかめて見せてきた。<br />「なにため息ついてんのよ」<br />「ごめん」<br />「謝ってどうすんの。話してくれなきゃわからないじゃん」<br />「うん、そうなんだけど･･････」<br />　リリーはなぜか思い切りをつけることができない。<br />　以前の自分と変わっている。<br />　それはメアリーもわかったようだ。かるく肩をすくめた後、笑いながらこちらを眺めてきた。<br />「あんたらしくないねえ。もっと明るかったよ。前のあんたは」<br />「うん」<br />　リリーは頷いた。<br />「だけどね･･････、ちょっと、今のヤツに会ってから、なんだかさ････んーと、こう」<br />　うまく言葉がでてこない。空中に手でなにかを示すように描きながら、メアリーを見つめる。<br />「なんていったらいいの」<br />「男ができたんだね」<br />　彼女はグラスを手に、半眼でこちらを見つめてきた。<br />　リリーは否定するつもりもないので、一応頷く。<br />「うん、そう･･････」<br />「へえ･････おめでとさん」<br />　メアリーはそういうと、にっこり笑ってきた。<br />　彼女を見ると、妙に幸せそうな顔をしている。<br />　リリーが不思議そうにしているのをみて、メアリーは声を出して笑ってきた。<br />「いや、あんたもやっとかあって思ってね。いいじゃん、幸せになりなよ」<br />「それなんだけどね･･･････そのさ」<br />　メアリーの声の大きさにリリーは思わず俯いてしまい、それから小さな声で大切なことを言おうとしたが、彼女は構わず言ってきた。<br />「あんたさ、この仕事やめなよ」<br />「え？」<br />　突然といえば突然な科白に、リリーは目を点にした。<br />　メアリーは構わず続けてくる。<br />「あんたさあ、辞めたほうがいいって絶対。そいつのことさあ、好きなんでしょ？　だったら変な病気とか感染する前に足洗っといた方がいいって」<br />「･･･････」<br />　リリーは目を見開いて彼女を見つめることしかできない。<br />　そういうと、メアリーはくすりと笑って、自分の袖をまくって見せた。<br />　そこには赤い斑点のようなものが沢山出来ている。<br />「あたしみたいになるまえにね」<br />「･･･････それって」<br />　メアリーはクスクスと笑った。<br />「梅毒ってヤツ。まーあたしとやったやつらは染ってんじゃないかな。なんせもうこれも蔓延もいいとこのビョ―キだしね。あんたも気をつけなよ」<br />「･･･････」<br />　リリーが口を開こうとすると、ドアがノックされた。廊下から一番ちかい部屋で話していたため、その音は大きく響いた。<br />「おっと、お客さんだ･･･････追い払わなきゃね。ごめんよ。あたしばっかしゃべって」<br />「うん、大丈夫。気が楽になった」<br />　リリーはメアリーに向けて笑顔を返すと、彼女もはにかむように笑った。それからメアリーはコチラの肩をぽん、と叩くと、横を通り過ぎて廊下に出て行くドアをひらいた。<br />「ねえ、メアリー」<br />　リリーは振り向いて彼女の名前を呼んだ。メアリーが身体を半分だけこちらにむけて振り向いてくる。<br />「ん？」<br />「その･･････ありがとう」<br />　彼女は返事はしなかったが、にっこりと笑ってから、ドアを出て行った。<br /><br />　ばたん、とドアが閉まる。<br /><br />「はあっ」<br />　リリーは一人になると、大きくため息をついた。<br />　なにか心細いのと同時に、安心した。<br />　メアリーはああいう人柄だが、やはりこういうときはいいことを言ってくれる。<br />　アドバイスはありがたかった。<br />「辞める、か･･･････」<br />　金がどこからでてくるものだろうか？<br />　自分を売ったからには、自分を買わなくてはならない。<br />　それなりの金が必要となる。やはり。<br />「そうだよね･･････そういう判断も大事かもね」<br />　<br />　正直、どうしていいかわからないというのが本音だ。<br />　ジースターと話したい。<br />　切り裂きジャックとは会いたくない。<br />　彼らが別な人間だったらいいと心から思う。なにしろジースターと遠く逃げればいいからだ。身体を売らずに、二人だけでなにかをできるはず。<br />　そう思って。<br /><br />　リリーは初めてこういうこと考えている自分に気がついた。<br />　ふと思って顔をあげる。<br />「そっか･･････初めてだ」<br />　いろいろ将来のことを考えるのは初めてだった。<br />　もちろん恋人ができたのは初めてだ。<br />　あれで恋人と呼べるやつなのかと言われると少し自信がないが。<br />　まだ遅くはないはずだ。<br /><br /><br />　と、ドアが開く音が聞こえた。<br />　リリーはほっとして、飲みかけの紅茶をテーブルに置いた。<br />　どこか身体を暖かいものがつつみこむような感覚で、呟いた。<br />「メアリー、助かった。ホントありがとう」<br /><br />　だが。<br /><br />「ミス・ケリーなら亡くなったよ」<br />　それは男の声だった。<br />　しかも歳を重ねた中年男だ。<br />　はっとしてリリーが後ろを向くと、その男はリリーに飛び掛ってきた。<br />　横に逃げるよりはやく口をふさがれ、そのまま椅子を転げ落ち、床に背中から倒れこむ。<br />　したたか打ち付け、思わず呟いた。<br />「いたい･･･････」<br />　目を開けると、やはり中年の男がいた。<br />　頭ははげかけていて、やや太めの白髪交じりの男だ。<br />「んん？　ガキじゃねえか。さてはあいつに娼婦の手ほどきみてーなもんを受けてたのか？　ん？」<br />　リリーはなんとか抜け出そうと両腕を動かした。<br />　だが、その男は空いている手にもった棒のようなものでこちらの腕をうちつけてきた。<br />　ごき、と音がして動かなくなる。<br />「うあうっ！」<br />　おもわず叫び声をあげた。<br />　すると、その男はリリーの身体を床に押し付けるようにしてやると、ドレスを脱がし始めた。<br />「まあ、ガキなら犯してやってもかまわんか。ビョ―キには気を付けろよー。へへ」<br />　息づかいを荒くしながら、その男はリリーの身体をまさぐりはじめる。<br />　抵抗も出来ないので、なにをしようというわけではない。<br />　自分が童顔であることはわかっていがガキ呼ばわりされるのはいささか抵抗があった。<br />　とはいえ。<br />　殺されるまえに犯されるということじたい願いさげなのだが。<br />　足をばたつかせながら抵抗する。<br />　声を出そうとすると、男の手がのびてきてリリーの口をむんずと塞いだ。<br />　しかも相手の体重は重く、抵抗しても押さえつけられてしまう。<br />　やがて入り込んでくる。<br />　なれたことではあったが、不快感は否めない。<br />　かといって抵抗ができるわけでもないし、助けがくるわけでもない。　<br />　その男にされるがままにしておきながら、リリーは観念することにした。<br /><br /><br /><br /><br />　終わりがくれば、それまでだから。<br /><br />　とりあえずぼんやりと天井をみながらはんばあきらめの気持ちでそのときを待っていると、いきなり男の身体が宙に浮いた。<br /><br />　目の前を男の身体が鮮やかなアーチを描いて飛んでいき、向かいの壁にぶつかった。かなりの力で飛ばされたらしく、男は頭から壁にぶつかった。<br />　体力もなかったリリーはそのまま倒れたままでいた。<br />　男が床に落ち、その後に聞こえてきたのは悲鳴。<br />「ぎゃあああああああっ！」<br />　視線だけで中年男の方を見ると、なにやら股間を押さえつけてごろごろと転がっている。<br />　そのたびに床に血が跳ね回り、あちこちに赤いしみを作っていく。<br />　なにがあったのかつかめずにその場に動かないで固まっていると、やがて血がこちらの顔にも飛んでくる。<br />「あ･････」<br />　見ると、足元になにやら転がっている。<br />　それは―――――――<br />　リリーはぞくりときた。<br />　飛んできたナイフが中年男のそれを掠め斬ったのだ。<br />　幸いなのは自分も巻き添えをくらわなかったことだが、殆ど容赦のない一撃だった。<br />　幸いというべきか、太腿をはずれてすこしの床に突き刺さっている。<br />　すると、自分の足元に転がっていたそれは、別な足で踏み潰された。<br />　肉片と血があたりにとびちった。<br /><br />　その人間は、手にもった鋭いナイフに光を反射させながら、リリーの隣を通っていった。<br />「････････」<br />　その顔には見覚えがあった。<br />　だが、その表情には見覚えがない。<br /><br />　確かに外見は変わっていないジースター・ジェイスがそこにいた。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 1２ピースオブハート</title>
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    <published>2009-09-30T11:22:01Z</published>
    <updated>2009-09-30T11:22:51Z</updated>

    <summary>　ここに来たのは昼ぐらいだったはずだが、気付けばすでに夜は過ぎていた。　＋＋＋＋...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
        <category term="story" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/therealstreet/">
        <![CDATA[　ここに来たのは昼ぐらいだったはずだが、気付けばすでに夜は過ぎていた。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　鳥のさえずりで目がさめる。<br />　どのくらい彼と身体をあわせたかはわからなかったが、とりあえずリリーが目覚めると、すでに時は朝だった。<br />　日は上がり始める、すがすがしい独特の空気が半開きの窓から入ってくる。<br />　嫌いではない、というか、この時間に起きたことが少ない。<br />　起きるのは大抵昼ぐらいだ。夜は夜で仕事があるので、疲れ果てて眠ってしまう。<br />　久し振りの朝。<br />　リリーが目覚めると、ジースターの姿はなかった。<br />　自分だけ。<br />　確かに一緒にいたはずの彼の姿はなかった。<br />　<br />　ベッドのシーツはなぜか綺麗なものに取り替えられていて、そこに自分は寝かせられていた。<br />　何も着ていないことだけは変わっていない。。<br />　ドレスはベッドの隣のテーブルの上にたたまれておいてある。<br />　血のついたシーツと、あの紙袋はなんだったのだろう。<br />　そんなことを考えながら、またシーツにくるまってベッドにもぐりこむ。<br /><br />　彼はどこにいったのだろう。<br />　ふと、視線を上げると部屋は前と変わりがない。<br />　いったいジースターは何をしていったのだろう。<br />　また、人を殺しにいったのだろうか。<br /><br />　そう思うと、涙が滲む。<br /><br />「いかないでよ････････！」<br />　思わず口にだして呟いてしまう。<br /><br />　彼に声が届いたかどうかはわからない。<br />　なんだか無償に哀しくなり、リリーはまだシーツにかすかに残るぬくもりを抱きしめた。<br /><br />　消えてしまうことを恐れるように。<br /><br /><br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　やっぱり世界ってのは理不尽だ<br />　ながれがあり、ヒトの心や気持ちなんかお構いなしにどんどん先へ先へと進でしまう。<br />　そして気付いたときには手遅れで、やり直しなんてききやしない。<br />　もっとも最悪な失敗例だ。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　どさり。<br />　血まみれになった女が道路に倒れる。<br />　悲鳴すらでなかった。<br />　喉が大きく開いていて、すでに事切れていることは確かだが、それでもまだなにかが足りない。<br />　ナイフを振りかぶって顔面に突き刺す。<br />　手元に力をこめてそれをまわして中身をえぐったあと、腹にてをやっていっきに上から下へかっさばく。<br />　内蔵がどろりと顔をみせた。<br />　そこに空いている手をつっこんで中のものを掴み、一気に引っ張り出してそこらへんにぶちまけた。<br />　盛大な血しぶきがあがるが、気にしない。<br />　最後にその死体をけって、ナイフをしまいこんでから路地を飛び出す。<br />　ジースターのトリップ状態はまだ続く。<br /><br /><br />「ハア･･････ハア･･･････」<br /><br />　トリップ状態は、時々訪れる。<br />　しかも夜がほとんどだ。<br />　がくりと思考が落ちたかとおもうと、次の瞬間にはハイになっていて、動くことが苦痛じゃなくなってくる。<br />　それと同時に湧き上がってくるのは、強烈な怒りのようなもの。<br />　そして攻撃衝動。<br /><br />　それはすぐに切れるような気がする。<br />　大抵意識はぶっ飛んでいて、なにをしているのかすら定かではない。<br /><br /><br />　息がきれてきた。<br />　なにがなんだかわからないトリップ状態はたいてい日があがると同時にいつも終わる。<br />　気付いた頃には自分は血まみれで、手にはやはり血まみれのナイフ。<br />　どこかしこも真っ赤で、視界すら赤く歪んで見える。<br /><br />　自分はどこも傷ついていないのに。<br /><br /><br />「･･･････････」<br /><br />　なんだか猛烈な空虚感を抱きながら、ジースターは近くの路地に膝をついた。<br />　なぜ自分がこうなっているのかよくわからない。<br />　ぼんやりと宙をみつめた。<br />　そこからなにかがでてくるわけでもなく。<br />　そこからなにかが得られるわけでもなく。<br /><br />　ジースターは倒れた。<br />　頭にもやがかかったようになって、なにもかも動けなくしていく。<br /><br /><br />「あー････････」<br /><br /><br />　すべてを見失っていく。<br />　なにがなんだかわからなくて、いまここがどこなのかすらつかめなくなってくる。<br />　そしてそれと変わるように、自分の胸のあたりからなにかがなくなっていく。<br />　あえていうなら、心のパズルピースがひとつひとつ奪い取られていくような感覚だった。<br />　どうしようもないことは分かってはいたが。<br /><br /><br />　と。<br /><br /><br />「･････････はあ、やっぱり君か」<br /><br />　男の声がした。<br />　横に倒れたまま顔をすこしあげ、視線だけで見上げると自分と同い年か、すこし上くらいの金髪の青年が目の前に立っている。<br />　彼はこちらを見下ろしながら、笑いもせず、言ってきた。<br /><br />「明らかに僕のミスだったね･･･････わるいことをしたよ。もっと実験対象は選ぶべきだった･･････選んでもこうなっていたのかもしれないけど」<br /><br />　なにをいっているのかわからなかったが、ジースターはその男を見つめた。<br />　顔はよさそうだが、その表情にはいささか疲労がうかがえる。<br />　たしか見覚えがあった。<br />　そう、新聞とかでよくみる。<br />　女王の孫の―――――――<br /><br />「心の欠片なんてもんは奪うもんじゃないんだよね。やっぱ人間さんの手にかかれば悪いものもできてしまうってわけか。自然が一番ってことはわかってるけど、やっぱりいいほうにいきていたいからね。みんなさ」<br /><br />　どうだってよかった。<br />　ジースターは腰の後ろに手を回すと、そこにあるはずのものを探した。<br /><br />「とりあえず、僕は殺人鬼になる気はないけど、君をそうしてしまった責任はとらなくちゃね･･････返してあげるよ。その欠片」<br /><br />　もはや聞き飽きた。<br />　どうだっていい。<br /><br />　その男はこちらにむかって手を伸ばしてきた。<br />　ジースターはその手がなにをしようとしているのかが見えた。<br />　その手のさきに、半透明のなにかが握られている。<br />　それは―――――――<br /><br />　ジースターは目を見開いた。<br /><br />「うわああああああああああっ！」<br /><br />　声をあげると同時に跳ね起きる。<br />　男がびくりと身体を仰け反らせた。<br /><br />　続いてナイフを突き出す。<br />　突然の攻撃に男は反応できなかったのか、身体をよこに捻っただけだった。<br />　ジースターの身体もふらついていたせいか、そのナイフは空を切り、男の脇を通り過ぎて後ろの建物の壁に突き刺さった。<br />　そして抜けなくなる。<br /><br />「･･････！」<br /><br />　ジースターはいっきに身体をひるがえすと、ナイフを手放して一気にその場から走り去った。<br />　とにかく全力で走った。<br /><br />　怖くなったのか、その男が恐ろしかったのか。<br />　それとも･････<br /><br />　よくわからないが、ジースターは体力が保つ限り、全力で走り続けた。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />「やれやれ、あいつは････････」<br />　クラレンスは壁に突き刺さっているあやうく自分に刺さりそうだったナイフを見つめながら、首を振った。<br />　裏路地のむこうがわにあのジースター・ジェイスは走っていったが、おそらく呼び止めても帰ってはきまい。<br />　しかもあの様子だとそれなりの処置が必要だ。<br />「まいったなあ･･････あー、くそ」<br />　ナイフをみやると、殺人を犯してきたばかりなのか、血のしずくがぽたり、ぽたりと地面に落ちていた。<br />　クラレンスはそれを引き抜くと、柄のところの指紋をふき取って近くのゴミ捨て場に埋めた。<br />　王宮にいるときには滅多に使わない汚い言葉でなにかをののしると、クラレンスは表通りにでて、歩き始めた。<br /><br />　この事件を終わらせる必要がある。<br />　すくなくても、けじめをつける必要がある。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 11:再会</title>
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    <id>tag:srockstyle.com,2009:/therealstreet//11.274</id>

    <published>2009-09-30T11:15:44Z</published>
    <updated>2009-09-30T11:16:28Z</updated>

    <summary>　リリーは顔から喉に手を持っていかれた。　そこをきつくしめられる。「う･････...</summary>
    <author>
        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
        <category term="story" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/therealstreet/">
        <![CDATA[　リリーは顔から喉に手を持っていかれた。<br />　そこをきつくしめられる。<br />「う･･･････」<br />　ジースターの手は思いのほか力が強く、リリーは息をすることもできそうになかった。<br />　なにかを見失っている。<br />　そう見えた。<br />　両手でリリーの細い喉を締め付けてくる。<br /><br />　なにか言わなくちゃ･･････<br /><br />　ジースターは血まみれだった。<br />　なにをやってきたのか分からないが、とにかく体中血まみれになっていて、顔も血のカタマリがこびりついていた。<br />　長い間あらっていないのか、服も赤い。<br />　そして、汚れている。血の匂いが漂ってくる。<br />「･･････ねえ･･･････」<br />　小さく声を出すと、リリーは霞む視界の中で、ジースターの身体に手を伸ばした。<br />　そして優しく触っていく。<br />　腹から胸にいたるまで、もっとも血まみれになっているはずのところが怪我がなかった。<br />　つまり、これは返り血だということか。<br />　リリーはこの時点で予想がついた。<br />　だが、口には出さない。<br />　ジースターが右手を離し、ゆっくりともちあげる。<br />　そして腰のあたりにまわすと、白びかりするナイフを取り出してきた。<br />　ナイフ。<br />　それは赤い血がまだこびりついている。<br />　おそらくは例の事件だったのだろう。<br />　右手が外れたせいか、リリーは息をとりもどすことができた。<br />　予想はついた。<br />　多分、おそらくそれは当たっている。<br />　自分にできることは、彼を――――――<br />　まだ喉を締め付ける左手はきついが、とりあえず手をジースターの頬に持っていく。<br />　息が続く限り、まだできることはあるはず。<br />　彼の意識を。<br />　途切れている線を元にもどすことはできるはずだ。<br />　なにもできないことはない。<br />　ジースターの右手のナイフが振り下ろされる。<br />　リリーは瞬間的に目を細めながら、彼の名前を呼んだ。<br />　その声は大きかったか、それとも呟くようだったのか自分でもよくわからない。<br />　ただ、叫んでいた。<br />　取り戻せなかったそれをいっきにたぐりよせるために。<br /><br />　その声はしっかりとジースターの耳朶をうった。<br /><br />　途切れていたフラットな直線。<br />　それが一気につながり、元の軌跡を取り戻す。<br /><br /><br />　訪れるはずの死はリリーのもとには来なかった。<br />　ナイフはリリーの首筋をかすめ、肩口に小さな傷跡をのこして、ベッドに刺さる。<br />　ジースターの身体の力が抜け、どさり、とリリーの上に落ちてくる。<br />　喉を締め付けていた手が緩み、そのまま離れる。<br />　ナイフを静かに横に押しやり、リリーは彼の身体を抱きとめた。<br />　彼の手が伸びてきて、今度はリリーの手を取る。<br />　それは優しい動きだった。<br />　するりと彼の頭が動いて、リリーの首筋にキスをする。<br />　そのまま動いてきて、唇を重ねる。<br />　リリーの口の中に彼の舌が入り込んでくる。<br />　久し振りのキスは血の味がした。<br />　しかも、複数の人間の血が入り混じったような、そんな血の味だった。<br />　それが流れてきて、リリーの顔にぽたりと落ちる。<br />　だがリリーはジースターの背中に腕を回し、構わずに抱き寄せた。<br />「ねえ、ジースター･･････」<br />　リリーは呼びかけたが、彼は返事をしない。<br />　まるで、言わなくてもつたわっているだろうとでもいうように。<br />「うん、言わない。だから･･････」<br />　肌を重ねるのはあのとき以来だったか。<br />　出会ったとき以来。<br />　初めてであって、誘って、彼の優しさに会って、一緒に生活して、別れて、また出会って。<br />　一体この短い間にどのくらいのことがあったのか。<br />　変わってしまった彼を目の前にして。<br />　それでも、リリーはこの言葉を言えるのだった。<br />「アイシテルっていってよ」<br />　その声は彼の耳にはいった。<br />　こころなしか、ジースターは頷いたようにも見えた。<br /><br />　彼が動くたびにリリーの体が赤く染まっていく。<br />　手のひらで愛撫されるたびに、唇を重ねるたびに。<br /><br />　結局彼の口からその言葉は聞くことはなかったけれど。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 10:事件のはじまり</title>
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    <id>tag:champagne.heteml.jp,2009:/srockstyle/therealstreet//11.273</id>

    <published>2009-09-30T11:08:22Z</published>
    <updated>2009-09-30T11:08:57Z</updated>

    <summary>　最近ロンドンで奇妙な事件が多発していた。　イーストエンドのホワイト・チャベルロ...</summary>
    <author>
        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
        <category term="story" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/therealstreet/">
        <![CDATA[　最近ロンドンで奇妙な事件が多発していた。<br />　イーストエンドのホワイト・チャベルロード付近で、次々と娼婦が惨殺されていくのだ。<br /><br />　最初の事件は8月31日だった。<br />　一人目はメアリー・アン・二コルズという売春婦で、<br />　バブ「フライパン」を出た後、殺害された。陰部から腹にかけて切り裂かれ、喉も切り裂かれていた。 <br /><br /><br />　二人目はアーニー・チャップマンという女で、9月８日だった。<br />　ハンバリー・ストリート２９番地で発見されていた。<br />　後ろから喉を切られ、首は胴から離れそうになっていた。<br />　下腹はぱっくりと開いており、内臓は切断されて肩のあたりに投げすてられていた。大量の出血が辺りに撒き散らされていた。<br />　子宮と膀胱は犯人によって持ち去られていた。 <br /><br /><br />　三人目はエリザベス・ギュスターフスドッターという女で９月３０日のことだった。<br />　バーナー・ストリートで横たわっているのを発見された。喉を切り裂かれて殺害されていた。<br /><br />　四人目がキャサリン・エドウズという女で同日９月３０日、マイター・スクエアの角で壁に寄りかかっているところを発見された。<br />　下腹から首元にかけてタテに大きく切り裂かれ、内臓が引きずり出されていた。また鼻と右の耳朶が切り取られていた。左の腎臓と子宮は犯人に持ち去られていた。<br />　なにが目的で持ち去ったのは分からない。<br />　大量の血しぶきが壁に散っていたが、暗闇だったので長時間気づかれることがなかった。<br /><br />　どれもこれも残忍な手口で、殺されていた。<br /><br />　警察は捜査に乗り出したが、なにせ犯人の残していく証拠が少ないのと、手がかりが非常に希薄なことで、犯人として浮かぶ数百人の中からしぼりだすことができずにいた。<br /><br />　犯人は外科技術をもっているだとか、犯人は売春婦に恨みがあるとか、いろいろな線がでてきたがどれもこれもはっきりとした証拠には結びつかず、そんななかでいろんな人間が疑われたりした。<br /><br />　そんななか、王宮に一通の手紙が届く。<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　ちょうど、自分の手下の話を手伝ってから数ヶ月がすぎた。<br />　クラレンスはときどき街におりては、本をあつめたり骨董品を買ったりしていた。そんななかで、金をだせば雇えるのがそこらのチンピラどもなのだが、先日、娼館の主人と関わってからはろくな目にあってない気がする。<br />　リリーとかいった娼婦を連れ戻すのを手伝わされたのに嫌気がさして、あれ以来あまり外には出歩くことはなくなった。<br />　王宮の安全なところで適当なものを物色してはいじりながら生活している。<br /><br /><br />「クラレンス。あなた最近街に出歩いているそうじゃない？」<br />　クラレンスが自室で街から買ってきた新聞を読んでいると、祖母が入ってきた。やたら長くて大きなドレスを着ている。クラレンスは眉をひそめながら、一応返事をした。<br />　何度見てもあの格好は不快なものだ。<br />「そうだけど？」<br />「なんだか最近物騒みたいよ。なんだか･･････【切り裂きジャック】？　手紙とか届いてきたんだけど」<br />　そういって祖母はなにやら封筒をぴらぴらとさせてみせる。<br />　祖母はイギリス女王を名乗ってはいるが、こうしてみると普通の人間だ。たとえ公の場では高貴そうな雰囲気を纏ってはいるが、所詮は人間だ。<br />「手紙？」<br />「そうなのよ。なんだか脅しみたいで･････ああ、恐ろしい。あなたも気をつけなさいね。殺されてからじゃ遅いんだから･････」<br />　祖母は本気で怖がっているようだ。<br />　どうせたいしたことじゃない。<br />　クラレンスも、犯人の目星はついている。<br />　ただ、見せないだけだ。<br />「わかったよ。気をつけるよ」<br />「ホントね？　じゃあ、とりあえず他の皆にも言っておくから、あまり外出はしないようにしてね―――――」<br />　彼女はそういうと、ドレスを引きずりながらドアから出て行った。<br />　クラレンスは頭を抱えてため息をつく。<br />　どうやら、まずい方向にいってしまったようだ。<br />　ここで祖母に円卓会議など開かれたら、関係者から自分を指名されてしまうことになる。<br />　民衆のいうことをお偉いさんがどこまで信じるかはわからないが、犯人のなかに自分を入れられてしまうことだけはなんとか防がなければ。<br />　濡れ衣をかぶるなどまっぴらごめんだ。<br />「くそ･･･････」<br />　クラレンスは毒づくと、新聞を放り出して身支度を始めた。<br />　どうやら【実験】する対象をすこし誤ったようだ。<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　ドアをノックする。<br />「ジースターぁ･･･････いないの？」<br />　リリーはあれから殆ど毎日、ジースターの家に通ってきていた。<br />　仕事が終わった後、殆どここにきていたのだ。<br />　いま新聞で騒がれている【切り裂きジャック】のこともあるので、仕事は大抵早く終わるようになった。<br />　しかもなにやら新聞は毎日のようにこの事件を取り挙げている。<br />　狙いは売春婦に限り、しかも殺され方が残忍な手口ということで、発行部数を増やすためにかなりセンセーショナルに扱っているようだ。<br />　････････いまいましい。<br />　よく酒場などにいくと、そういう話題で盛り上がっているところすら見える。<br />　むしろ彼らは楽しんでいる風さえうかがえる。<br />　リリーのような売春婦サイドとしてはとてもいただけるものではない。毎日命の危険に怯えながら過ごしてるのにどうして笑えようか。<br />　自分だって標的になりかねない。娼婦とはいえ、娼館に勤めているわけではなく、そこらの通りで男を拾って金を稼いでいる下っ端の娼婦にとっては危険きまわりない事件だ。<br />　自分のことだから、ジースターならなんとかしてくれそうな気がして毎日通ってきているのだが、彼は仕事は忙しいのか、どうも最近は家にいない。<br />　しかたなくノブをまわして、中にはいる。<br />　そしてこれもいつもどおり、鍵は開いている。<br />　いつもこういうことを繰り返していた。<br />　ジースターは自分を救ってくれた。<br />　最後に優しくしてくれたのは、彼だった。<br /><br />「よいしょっと･･･････」<br />　そのまま入り、部屋の中を見回す。<br />　二部屋しかない狭いアパートの一室。<br />　リリーは前に一緒に寝た部屋のほうに行った。<br />　そういえば、ここだったっけ。<br />　リストカットしたときに、ジースターが止めてくれたこと。<br />　あのときはすべてが消えていくような気持ちになって、ナイフを手に本当に死にたいと思ってしまった。<br />　そこでなんで彼が止めてくれたのかは分からない。<br /><br />　綺麗になっているジースターの部屋があった。<br />　毎日リリーがここにきて、掃除していくからなのだが、この分だと彼は帰ってきているのかすら疑わしい。<br />　大抵モノの位置ぐらいはかわっていてくれてもおかしくないはずだが。<br />　だが、今日は違った。<br />　ベッドの上の毛布が乱れ、真っ赤に染まっていたのだ。<br />「え･･･････」<br />　リリーは一瞬言葉を失った。<br />　なんでそこが真っ赤なのか。<br />　どうみても、血液の赤以外に考えられない色だった。<br />　恐る恐る近づいてみると、そこになにか小さな紙袋のようなものが放りだされていた。そこから赤い液体が漏れて、ベッドのシーツを赤に染めている。<br />「なにこれ････････」<br />　思わずあたりを見回してしまう。<br />　まさか･･･････<br /><br />　そのときだった。<br />　がっ！<br />「痛！」<br />　リリーの背中に痛みが走った。<br />　そして後ろから背中に衝撃が走り、ベッドに顔から突っ込んでしまう。　<br />　はっとして後ろを振り向く。<br />　だが、次の瞬間口を抑えられ、リリーはそのまま押さえつけられた。<br />　小さくうめくが、そいつはあまり手加減してくれない。<br />　そのままベッドに押し倒される。背中にあの紙袋があたり、リリーの体重でその中のものが生々しい音をたてて潰れた。<br />　何が入っていたのかわからないが、そのとき飛び散ったもので後ろの首筋が赤いもので染められた。<br />　かなり気持ちが悪い。<br /><br />　倒れた瞬間、リリーはその手の指のすきまから確かに見た。<br />　相手の顔。<br />　それは自分に最後に優しくしてくれた、あの男だった。<br />「ジースター････････」<br />　相手の表情は無表情で、何を考えているかわからない。。<br />　だが、その顔は、確かにあの男なのだった。<br />　リリーは悲しくなり、小さく呟いた。<br />「････････････辛いよ･･･････････」<br />　その声は届いた様子がない。<br />　手は移動すると、硬くこちらの首を締め付けている。<br />　そして彼はこちらを冷たい目で見つめるだけだった。<br /><br />　リリーは小さく呻き声をあげた。<br /><br /> ]]>
        
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    <title>Episode 9:身体 </title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://srockstyle.com/therealstreet/2009/09/episode-9.html" />
    <id>tag:champagne.heteml.jp,2009:/srockstyle/therealstreet//11.272</id>

    <published>2009-09-30T11:04:01Z</published>
    <updated>2009-09-30T11:06:11Z</updated>

    <summary>　その男の腕が伸びてくると、自分の肩を掴んだ。　爪が肌に食い込む。　かすかな痛み...</summary>
    <author>
        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
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    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://srockstyle.com/therealstreet/">
        <![CDATA[　その男の腕が伸びてくると、自分の肩を掴んだ。<br />　爪が肌に食い込む。<br />　かすかな痛みを感じながら、そのまま押し倒される。<br />　相手が若い人間ならまだしも、歳とった人間だから多少の抵抗がある。<br />　首筋や胸のあたりに口付けされる。<br />　舌が自分の身体を這いずり回り、跡を残していく。<br />　抱きすくめられると、そのまま今度は口にキスされた。<br />　無理やり舌が入ってくる。<br />　這い上がってくるぞくりとくるものを感じながら、必死で耐える。<br /><br /><br />　ジースターのところで過ごしてからというもの、この仕事に自分が向いていないことが分かってきたような気がする。<br />　なんだか、拒絶反応をおこすようになってきたのだ。<br />　いままで男と寝ることにあまり不思議な気持ちを抱くことはなかったのが、もう金のためとか、生活のためとかそういうことは関係がなしに、こういう仕事をもうやりたくなくなってきているのだった。<br /><br />　ぼんやりと。<br /><br />　そんなことを考えながら天井をみつめていると、意外とことは早く済んだようだった。<br />　適当にあしらって、ベッドを抜け出す。<br /><br />　もう、嫌だ。<br />　そう叫びたかった。<br /><br />　とりあえず服を見繕って、ふらふらとその部屋を出る。<br />　襲ってくる猛烈な吐き気に耐えながら、必死で彼女は歩いていった。<br />「うぐ････････」<br />　以前はこんなことなかったのにな。<br />　そんなことを考えながら。<br /><br />　宿の水道で口をゆすいでから、部屋へ戻る。<br />　顔は半分青ざめていた。<br />　だが、客のまえでそういう表情はしないでおく。<br />　金づるには違いないから。<br /><br />　とりあえず帰りの馬車を降りて、その男と別れる。<br />　それまでにいろいろやられたことについてはあまり言わない。<br />　誰にも言うことはない。<br /><br />　なんだか気分が悪いのだ。<br />　酒も飲んだし、煙草も吸っているが、なぜか今日にかぎって悪酔いしている。<br />「げほっ！　げほっ！　うえ････････」<br />　近くの角に胃の中のものをもどしてしまう。<br />　どしゃ、と音がして喉を駆け上がったそれが地面に散らかる。<br />　それはどぶに流れていくが、地面にのこされた跡からぷうん、と変な匂いが立ち上ってきた。<br />　それを見つめながらぼんやりと思う。<br />　なんだかんだいって、やっぱり自分にこの仕事は向いていない。<br /><br /><br /><br /><br />　大抵昼間になってからこの仕事は終わる。<br />　昼間は家に帰って寝ることになっているのだ。夜の時間帯にほぼ集中する仕事だから、あまり気にもめることもない。<br />　歩きながら息をつく。<br />「はーあ･････････」<br />　とりあえずもらったチップだけでも、かなりの額になる。<br />　これをそのまま貯金することができるとどんなに楽になるものか。<br />　いずれ借金の肩がわりに自分を買っている娼婦宿の主人の手に回り、その接待料となる。一番下っ端のリリーは、彼女の顔自体みたことがないが。<br />　もっともこんな仕事で偉くなっても嬉しくもなんともないが。<br />　フランクがリリーと主人との提携をやっているらしいが、いったいいくらが正しく報告されているのやら。横領しているぶんもあるだろう。<br />　こんな苦労もしてないだろうに。<br />　ポケットに手をいれながら、ぼんやりと思う。<br />　まだまだ先だが、近づきつつある。<br />　彼女の夢だった。<br />　娼婦とは全く関係のない、自分の夢。<br /><br />　外国に、いくこと。<br />　外の世界を見ること。<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　リリーは歩いていく。<br />　ジースターと別れて一ヶ月以上になるが、あいつは元気にしているだろうか。<br />　ふと、思う。<br />　別れたわけではない。<br />　自分が娼館に金を納めていなかったのが原因だ。いろいろあったが、今まで貯めてたぶんが一気に消えた。<br />　それから、ようやく縛りつけがとけたのだ。<br />　ジースターはどうなっただろう？。<br />　関わった人間として排除されたのか。殺されたのか。<br />　こっちの世界では裏ではなにをやっているか知れたことではないから、彼がどんな目にあったのか、想像もつかない。正直。<br />　そして、ホントの話。<br />　娼婦が人を好きになるということはあまり好ましいものではない。<br />　かけおちでもすれば連れ戻されて、男は殺される。<br />　自分は所詮売り物なのだ。<br />　妊娠でもすれば、流すことになる。<br />　病気が染れば、回りからそれは自分のせいになる。。<br />　あきらかに邪険とされる立場であった。<br />　その立場に嫌になったといえば、まさにその通り。<br />　しかし辞めるためにはそれなりの金が必要になる。<br />　生かさず殺さずで運営されている娼館だから、こないだみたいに滞納でもしないかぎり、貯蓄など生まれるはずかない。リリーだって、生活するのがやっとなのだ。<br />　はやく辞めたい。<br />　彼のためにも。<br />　夢のためにも。<br /><br /><br />　病気になれば、いつかは死ぬ。<br />　ボロボロになって、いつかは死ぬ。そして、使いものにならなければ殺される。<br />　正直いただけなかったので、そうなることだけは気を付けていた。<br />　少なくても周りに悟られないように、気をつけなければならない。<br />　だから、自分が人を好きになっても、大丈夫なように。<br /><br /><br />　彼のところにいこう。<br />　彼のところにいって、もういちど話を聞いてもらおう。<br />　どうにかなるわけではないが、楽になるかもしれないし。<br /><br />　リリーは自宅への道をそれると、ジースターの家へ向かった。<br /><br /> ]]>
        
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    <title>Episode 8:音に気づけば</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://srockstyle.com/therealstreet/2009/09/episode-8.html" />
    <id>tag:champagne.heteml.jp,2009:/srockstyle/therealstreet//11.271</id>

    <published>2009-09-30T11:01:24Z</published>
    <updated>2009-09-30T11:07:11Z</updated>

    <summary>　夜。　酒を飲む気にもなれず、ジースターは家への道をとぼとぼと歩いていた。　リリ...</summary>
    <author>
        <name>Sho Ayase</name>
        
    </author>
    
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        <![CDATA[　夜。<br />　酒を飲む気にもなれず、ジースターは家への道をとぼとぼと歩いていた。<br />　リリーとはいつも、酒場の前で待ち合わせしていたのだが、彼女は今日はやはりというべきかいなかった。<br />　今ごろどんな目にあっているのか、想像したくもなかった。<br /><br />（はー･･････）<br />　なぜかとてつもないやるせなさを感じて、歩いていく。<br />　心を半分を吹き飛ばされたような感じだった。<br /><br />（オレってこんな未練がましいやつだったっけ？）<br />　ふと自問してみる。<br />　売春婦という人種は、金を払って夜を一緒に寝て、それで朝になったらサヨナラするというそういうものだった。ジースター自身リリーより前にだれかと寝たことがあるわけではないが、そういうものだと思ってた。<br />　あいつは自分でも変わり者と言っていたから、不思議なヤツ、ということはあたっていたのだろう。<br /><br />　しかし、自分は――――<br /><br />（いつからこんなマイナス思考の人間になったんだ？）<br /><br />　昨日から暗いことしか考えていない。<br />　辛いと思うことしかない。<br />　どういうことだ？<br /><br />　それを怪訝に思いながら道を歩いていると、目の前に大男が立ちはだかった。<br />　明らかにジースターより背のたかい男だ。<br />　見上げると、昨日のフランクという男だった。<br />「････････ジースター・ジェイスだな？」<br />「そうだけど････････」<br />　かなり首をあげないと顔がみえない。いままで下をむきながら色々考え込んでいたため、正直首が痛かった。<br />「なんか用？」<br />　リリーを連れ去った人間の一人だった。<br />　どうせ聞いても教えてくれまい。<br />　と、ぼんやり考えていると、いきなり後ろから衝撃が走った。<br />　背中をけられ、前方に倒れこむ。<br />　鈍痛が腹までつきぬける。<br />　息がつまり、顔が歪む。<br />「････････ぐ･････！」<br />「ちょっとストレス解消の道具になってくれ」<br />　そう言ったフランクの後ろには、男達が大勢立っていた。<br />　五、六人といったところか。<br />　自分の後ろにも数人いるようだ。<br />　やばい。<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　血まみれになったジースターは、そのまま壊れた木箱などが積み重なっている場所に放り投げ出された。<br />　一発目。<br />　どこかを殴られた。<br />　鈍痛が頭のてっぺんまでとおっていく。<br />　二発目。<br />　それは背中に衝撃を抜けた。<br /><br />　ジースターは声もでなかった。<br />　なにが理由で殴られているのかはわからないが、とにかく殴られていた。<br />　ぼんやりとなにかが思い浮かぶ。<br />　だけどそれもすぐに消えて･･････<br /><br />　はて？<br />　どうして殴られている？<br />　<br />　なんでだ？<br />　いつからこうなった？<br /><br /><br />　何かがおかしいのは決定的で･･････<br />　それでいて、いまいちつかめなくて･････<br />　そして、いつからかわからないが、なにかが決定的にかけていて････<br />　自分がなにか、やってしまっていて･････<br /><br />　ジースターはぼんやりと思考をめぐらせた。<br /><br /><br />　なにがおかしいんだろう？<br /><br /><br />　なにが足りないんだろう？<br /><br />　自分にいまかけているのはなんだろう？<br /><br /><br /><br />　そんなものを考えるようになったのは、リリーと出会ってからに決まっていた。<br /><br />　だが、今の彼にそんなことを考える余裕はなかった。<br /><br />　･･････････<br /><br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br />　もう何発殴られたかは分からない。<br />　だけど、生きていた。<br />　意識は朦朧としているが、なにかがはっきりとしていた。<br />　わからない。<br />　なにがあったかはわからない。<br />　だがジースターは立っていた。<br />　あれだけ殴られて、ぼこぼこになりながらも、その場に立っていた。<br />　手元に握られているのは、血の滴るナイフ。<br />　回りに広がるのは、先ほどまで自分を痛めつけていた男達の切り裂かれた死体だった。<br />　内蔵がはみ出て、舗装された道路にひろがり、頭が切り裂かれて脳漿が流れ出ている。<br />　自分がやったのかどうかすらわからない。<br />　朦朧とした意識だけで、あたりを見回し、状態を把握する。<br />　まわりで人が死んでて、自分が生きてて。<br />　血が巻かれていて、それから･･･････<br />　理解することすらできない。<br />　それ自体を頭が拒んだようにみえた。<br /><br />　ジースターはナイフをしばらく見つめた後、ふらふらとその通りを出て行った。<br /><br /><br />　なにがあったのかは、わからないままに。<br /><br /><br /><br />　････････この日からジースターの記憶は途切れてしまう。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 7:ダーク</title>
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    <published>2009-09-30T11:00:03Z</published>
    <updated>2009-09-30T11:01:16Z</updated>

    <summary>　つまるところ、彼女の存在がなんだったのかってことになると思う。　おかしな女でだ...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　つまるところ、彼女の存在がなんだったのかってことになると思う。<br />　おかしな女でだった。<br />　娼婦のくせにヒトの心を求めて、うやむやのうちに付き合うことになって、いつのまにかあいつがいなければダメな状況になっていた。<br />　ジースターは血まみれのまま。壁に寄りかかりながら煙草をとりだした。<br />　あれから夜はあけ、そとは白んできている。<br />　今日も仕事にいかなければならない。<br /><br />　不思議なものだ。<br />　いなければいけない存在なんて。<br />　ジッサイ自分がいなくてもあいつは困ることがない。<br />　美人だし、男ならいくらでもよってくることだろう。<br />　自分にしてもあいつがいなくてはいけないわけではない。<br />　仕事は順調だし、生活に支障がきたされるわけではない。<br />　以前はそう割り切っていた。<br />　だが、どうしたことだろうか。<br /><br /><br />「･･･････････うぐう････････」<br />　一人で呟く。<br />　その呟きを聞くものはなく、ここには自分しかいない。<br />　ぼんやりといままでのことを思い出しながら、壊れて半開きのドアに目をやる。<br />　穴があいた気分だった。<br />　相手が王宮の人物相手なら、自分がどうこうできる問題ではない。<br />　正当なヤツらとはとうてい思えなかったが、だからといってどうしようという問題でもない。<br />　それに彼女自身いっていたようにリリーの仕事は襲われること、こういってはなんだが、否定できない事実ではある。仕事をほっぽらかして逃げてきたならば、それはルール違反というものだ。<br />　彼女はなにをやったかは理解しかねるが、自分が手を出せない領域の問題だった。<br />　そういうことだけは理解がいい自分が憎たらしい。<br />　それと同時になんだかなにかが許せないのだった。<br /><br />　そしてそれに重なるように襲ってくるのは押しつぶされそうな虚脱感。<br />　いつからだろうか。<br />　こんなにも人恋しくなってしまったのは。<br /><br />「あー･･････････」<br />　口にだして呟いてみる。<br />　これも無機質な壁に反響して、むなしくひろがってくだけだ。<br /><br />（ちきしょう･･･････あー、くそ･････）<br />　ジースターは心のなかでも毒づいている。<br /><br />　もちろん、彼にそんな寂しさを感じる余裕を与えてくれたのは、他ならぬ彼女以外の誰でもなかった。<br /><br />　自分で気付くはずもないし、彼女がそうおもっているはずもない。<br />　むしろ、あの男から逃げ出したところで、またココに戻ってきてくれるという保証もない。<br />　なにせヤツは困ることはないのだから。<br />「･････････ふうっ」<br />　息をつくと、ジースターは煙草を灰皿に押し付けて、近くの棚から作業服をとりだした。<br /><br /><br />　いくら辛いことや悲しいことがあっても、破ってはいけない社会のルールがある。<br />　最低限の義務はこなさなければならない。<br />　ジースターにとって仕事にはいかなければならない。<br />　ここまで億劫に感じたのもはじめてだった。<br />（なんだかなあ）<br />　どうしようもないということはわかってはいたが。<br /><br /><br /><br />　今のジースターにはそれが一番きついのだった。<br /> ]]>
        
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    <title>Episode 6:娼婦</title>
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    <published>2009-09-30T10:58:03Z</published>
    <updated>2009-09-30T10:59:08Z</updated>

    <summary>　その日、ジースターは仕事があったため、出かけなければならなかった。　リリーに聞...</summary>
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        <name>Sho Ayase</name>
        
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        <![CDATA[　その日、ジースターは仕事があったため、出かけなければならなかった。<br />　リリーに聞くと、だいぶ元気がでてきたらしいので、なんとかやっていけるかも、とだけ言われた。<br />　彼女はあれから少し元気にはなったが、顔には疲労の色が濃い。一体なにがあったのか、ジースターはいぶかしんだ。<br />「ホントに大丈夫？」<br />「だいじょーぶだって」<br />　手をひらひらさせながら彼女は言ってくる。<br />「あたしは、一回やったらしばらくやらないから。ほらほら」<br />「･････････」<br />「うん」<br />「絶対か？」<br />「･･････････多分」<br />　しばらく彼女を見つめた後、ジースターはしどろもどろになりながら口を開いた。<br />「そ、その、お前さ、ダメなら･･････。俺休むよ。死なれるのは･･････嫌だしさ」<br />「いいからいきなよ。大丈夫だっていってるじゃない。仕事大切でしょ」<br />　彼女は何度も自分がもうやらないことを強調していたが、ジースターはそれが怪しいように感じた。大丈夫じゃないヤツほど、大丈夫という。<br />　心配だったため、ジースターはリリーに、家にいてもいいよとだけ言い残し、仕事にでかけた。<br />　<br /><br />　仕事中でも、彼女のことが気になっていた。<br />　また、自殺しようとしていないだろうか。<br />　手首を切りつけたりしていないだろうか。<br />　ぼんやりと仕事していたため、仲間から怒鳴られることもあった。<br />　ジースターは仕事に専念することができず、妙に作業の段取りが遅い。いつもならやらかさないのになと思いながら、ぼんやりと続ける。<br />　その日はぎりぎりまで働いてから早く帰り、酒場にもよらず家に直行した。<br />　珍しい日だった。<br /><br />　いつからだったっけか。<br />　こんなことになったのは。<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br />　リリーはお金が必要だった。<br />　その理由を理解してなかったのはジースターの唯一のミスだったかもしれない。　<br /><br />　＋＋＋＋<br /><br /><br /><br /><br /><br />　仕事を終えたジースターが家につくと、そこには奇妙な光景が広がっていた。<br />　アパートの入り口で、何人かの男が倒れていたのだ。その中には娼婦らしき女性の姿もある。<br />　背中を冷たい何かが走るのがわかったが、ジースターは急いでその男たちの脇を通り過ぎ、自分の部屋に向かった。<br />　<br />　<br />　急いで階段を駆け上がり、自分の部屋へと向かう。<br />　なんだかいつも歩きなれた道が妙にながく感じられたがどうでもいい。<br />　走りぬけて、ちょうど自分の部屋の扉へつづく廊下にでたとき、そこの扉が中途半端に開いているをみた。<br />　どうやら、あたってしまったようだ。<br />　ジースターは歯軋りすると、ダッシュで部屋へ入る。<br />　息を切らしながら、中に一歩を踏み出した。<br />　リリーは？<br /><br /><br />　部屋の中は暗く、よく見えなかった。<br />　ただ、見えたのは薄暗い中で、人間が倒れていることだった。<br />　ジースターの背中を戦慄がはしった。<br />　倒れているのではない。<br />　一人の人間の上にもう一人の人間が覆い被さっていた。<br />　倒れているのではないのだ。<br />　下は女で、上は男だ。<br />　こういう場所で暗闇のなかで男と女が重なり合ってやることといったら一つしかない。そして自分の部屋にいる女といったら――――――――<br />　ジースターの背中を悪寒が走った。<br />　男はかなりの体躯の持ち主だったが、ジースターは床に落ちていたナイフを躊躇なく拾い上げると、息を整えてそれにむかって突進した。<br />「なにやってんだてめえッ！！」<br />　男はそれに夢中だったのか、はたして鈍いだけか、こちらにやっと気付いたようだった。はっと驚いたような表情を浮かべる。<br />　ジースターは男の背中に切りつける。<br />　血がとびちる。が、傷はあさい。<br />「ぐ！」<br />　男が声をあげて女から離れる。<br />　目をやると、やはり下敷きになっていたのはリリーだった。<br />　驚いたような、そして助けを求めるような顔でこちらを見つめていた。<br />　ジースターはそちらには構わず男のあばらに蹴りを入れた。<br />　それから連続してその男の身体をけりつける。<br />　そして顔面を踏みつけると、リリーを抱き上げて後ろにさがる。<br />「大丈夫か？」<br />「うん･････････ありがと」<br />　リリーは虫が鳴くようなか細い声でそう言ってきた。彼女が着ているドレスははだけていて、肩が剥き出しになっている。<br />　ジースターは男を睨むと、リリーに手をかして立ち上がらせた。<br />「なにがあったんだ？」<br />「さっき、あれが入ってきて、襲われて････････」<br />　彼女は男を指さしてから、ぱたりと腕をおとした。<br />　悲しげに目を伏せて、虫の泣くような声でいってきた。<br />「あとは、想像して」<br />「はいはい」<br />　それはとりあえず気にしなかった。<br />　リリーはもともと娼婦だし、自分もその客だったときもあったわけだから、そういうことに気を使っていては彼女とは付き合えないだろう。<br />　その辺は納得してしまえばたいしたことはない。<br />　ジースターは適当に頷くと、男の方に近寄った。<br />　かなりの大男で、身体も太い。こんなのにのしかかられて、リリーは苦しくなかったのだろうか？<br />　とりあえずこいつを外にほうりださなければ話にならない。<br />　リリーから数歩離れた。<br /><br />　そのとき。<br /><br /><br />　どがっ！<br /><br /><br />　ジースターにはそう聞こえた。<br />　音とともに後頭部に鈍痛が走り、前方に投げ出される。<br />　そしてそこにあった家具やら本やら、いろいろな雑貨の山に頭からぶつかり、音をたててジースター身体の上にそれら落ちてくる。<br />　どでかい音をたてて、埋まるのが分かったが、なにぶん後頭部にきた衝撃でうまく身体をうごかせない。<br />「･････････こいつとかかわったことを後悔するんだな？　ジェイスさん？」<br />　振り向くと、ジースターの身長より頭一つぶんぐらいでかい大男が、リリーを後ろから片腕で締め上げていた。空いているほうの手に長大な棒状のものを持っている。<br />　リリーが暴れようとしていたが、後ろから背中を殴られ、黙りこむ。声すらでないようだ。<br />　大男は続いて、ジースターに言ってきた。<br />「ほうほう、お前さんが色男さんか。リリーの新しいヤツってわけか？」<br />「･･････････････」<br />　沈黙している。なにせジースターは意識すら明瞭ではない。<br />　リリーは自分の身体に回された男の腕を振り払おうとしたが、ふたたび襲ってきた一撃で沈黙する。<br />「いった･･･････」<br />「オメーよお、こいつ何人目だ？　オレたちから逃げ出して、一体何人の男くわえこんだんだ？」<br />「･････････ええと」<br />　リリーは一瞬本気で考えそうになったが、すぐに首をふると男を睨みつけた。それから再びばたばたと暴れ始める。<br />「どうだっていいでしょそんなこと！　はなしてよ！　あんたには関係ないでしょ！」<br />　ぐいぐいと腕を引き離そうとするが、いかんせんリリーの力では男の腕に敵うはずもない。<br />　その声を聞いて、ジースターはむくりと身体を起こした。<br />　血がながれる頭を押さえつけながら、ふう、と息をつく。<br />「なんなんだよ一体･･････」<br />「いや、俺たちのことさ。お前にゃ関係ねえ」<br />「･･･････うぐぐ」<br />　相変わらずリリーが暴れようとしているが、今度は彼女の眉間に拳がヒットし、沈黙する。<br />　気をうしなってだらりとなる彼女を男は肩に担いだ。<br />　ジースターはナイフを拾い上げると、そのままたちあがろうとして、男の傍に再び誰かが入ってきたことをみとめた。<br />　がしゃ、がしゃと床にあるものを踏みつけながら、その人影は中に入ってきた。<br />「汚い部屋だねえ･････労働階級の人間ってみんなこうなのかな？」<br />「限らないとは思うけどなー。あんた誰だ」<br />　ジースターはほとんど睨みつけるような目でその人間を見た。<br />　それは金髪碧眼の美青年で、どこか高そうな服を着ている。一目見るとどこかのジョンブルだろうが、ジースターにはあまりよくわからない。<br />　なんだかめんどくさくなってきた。どうしてオレはこんなことに巻き込まれているんだ？<br />　確か、リリーとであって、彼女と一緒に夜を過ごして、それから付き合うことになって、それから････････<br />　その青年はにやりと笑うと、言ってきた。<br />「フランク、行っていいよ。君の役目はおわったから」<br />「へいさ」<br />　フランクと呼ばれた男はそのままリリーを担いで歩いていこうとした。<br />　こちらに踵をかえして、そのままドアをでようとする。<br /><br />　【あの女は娼婦だぜ】<br /><br />　誰かのそんな声が聞こえたが、ジースターは気付いたらナイフを振りかぶってフランクめがけて走りだしていた。<br />　ふと心の中を疑問がよぎる。<br /><br />　なんでオレはこんなにあいつのために必死になってるんだ？<br /><br />　それこそフランクに突進して、ナイフを振り下ろすまで数秒もなかったはずだが、ジースターにはそれを考えるだけの時間があったような気がした。<br />　声もださず、無音状態だった。<br />　フランクが頬を引きつらせる。<br />　だが、次の瞬間となりにいた貴族の青年が腕をコチラの胸に伸ばしてきたかと思うと、ジースターの身体はいきなりおかしな方向へ吹き飛ばされた。<br />「がっ！」<br />　そのときの痛みは、たとえることができないものだった。<br />　胸のあたりを鋭い針で刺されたような―――――それこそ、数ミリの細い針で一点をものすごい速度でつかれたような、そんな感じだった。<br /><br />　なにかが崩れた。<br />　そして、いかなる力が働いたのか、ジースターの身体が壁に叩きつけられる。起き上がろうとして、身体から一気に力が抜けていく。<br />「僕はクラレンス。まあ、顔くらいは新聞で見たことがあるだろ？」<br />　その男、クラレンスはひとなつっこそうな笑みを浮かべると、ジースターを馬鹿にするように行ってきた。<br />「彼女のことに関しては、そのうち僕の仲間がつたえにくると思うよ。まずは借金とか、そういうの、返してもらわないと。仕事さぼったらいけないんだ」<br />「･･･････リリーはものじゃない」<br />　ジースターは小さく呟くと、クラレンスを睨んだ。<br />「あいつは人間なんだ。誰かが傍にいて聞いてやらないと、死んじまう」<br />「だろうね。せいぜい後数年ぐらいで死ぬんじゃない？　娼婦なんていきものは雑巾とおなじだからねえ」<br />　殆ど彼女を馬鹿にするような科白を聞いて、ジースターの目がぎろりとクラレンスをにらみつけた。<br />　怒りが湧き上がってくる。<br />　フランクがこちらをみてニヤリと笑みを浮かべ、踵をかえしてドアから出て行った。続いてクラレンスが扉をでていく。<br />　そしてリリーをはじめに襲った男がその後をつけるように、てこてこと出て行った。その背中を刺してやろうとも思ったが、やめた。<br /><br />　ここまでされて、なにもできなかった。<br />　なんだかすごく悔しくてジースターはナイフを床に叩きつけた。<br />「クソッ･････！」<br /><br /><br />　どこからわいてくるのかわからない怒りは、そのまま呪詛となった。<br /> ]]>
        
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